青く澄み切った空には雲一つなく、すがすがしい。
ちょっと出来た隙間時間。
夜には依頼が入ってるから忙しくなる。
目当ての人に会うためその屋敷の塀へ飛び乗ると、人影が桜の木の下にあることに気づいた。
日向ぼっこでもしてるらしい。
嬢ちゃんの姿は見えないし、気配もない。
塀から隣の木へと飛び移って、座りなおすと声をかけた。
「よお」
木の上から声に驚いた様子もなく、と奴は振り返った。
「美堂か」
あたたかく優しい風が、頬を撫でて心地いい。
その心地よさを増幅するのはこいつの表情。
今日は機嫌がいいらしい。
不法侵入とも言われねえし。
「なんか用か?」
その問いには答えず、その立派な桜の木を見上げた。
「この木、桜だったんだな」
「ああ」
薄紅色に染まる桜は、ゆっくり左右に揺れながら、俺たちを見下ろしている。
ここ数日ですっかり暖かくなった。
つい先日まで息が真っ白だったっていうのに。
「・・・」
下から視線を感じながら、無視した。
用なんかねぇし。
ただなんとなく足が向いただけ。顔でも見ようかと。
お互い言葉に出すこともなく、静かに桜を見ている。
二人でいるときだけの独特の空気。
この空気感が気に入っている。
本当は、わかってるけど、まだ口に出せない。










何か考えごとをしてるのか、遠いまなざしで桜を見つめる美堂の横顔を見つめていた。
ひそかに思いを寄せるこいつの横顔を。
美堂が銀次を無限城から連れて行ったと思っていたから出会ったときはケンカ腰で。
きっと印象はよくなかった。
誤解がとけてから、ホンキートンクで会うから話すことはあるが、その時は警戒しているのが丸わかりで、今とは違う。
この空気感は、二人でいるときだけ。
誰かがいれば俺たちの間の空気は変わってしまって、こんなふうにならない。
こんなまなざしも見れない。
俺以外に見せているのか。
聞いたことはないけれど、たぶん俺だけ。
自惚れている。
そうも思うけれど。
お互いがはっきりとしたものを表してはいない。
だからこそあやふやで、そのあやふやさが苦しくもありうれしく感じる時もある。
俺だって、美堂が銀次の相棒だからというだけではないのだと自覚したばかり。
まだこの気持ちはうまく伝えられないけど、またこうして一緒に見れたらうれしい。
「夜桜もきれいだぞ」
「・・・!」
一緒に見るとは言わない。
来いとも言わない。
でもこの言葉の意味を、きっと頭のいいこいつなら理解するだろう。
「・・・・」
背中を向けてもいい。
少しずつ近づいてきたお互いの距離を測りながら言葉を選んでいく。
でも、美堂のその表情から、断らないんじゃないかと淡い期待を寄せる。
「そっか」
来るとは言わない。見たいとも言わない。
でも、来てくれるかもしれない。
また見れるかもしれない。
そう思ったらうれしくなって、俺は穏やかな気持ちに包まれた。










また同じ景色を眺められたなら・・・




















もう奪還屋を書くことはないかなと思ってたけど記念なので記憶を掘り返し(笑)
素直じゃない二人なので苦戦しました(^^;

2022/3/27


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