あぁ、明るい。
遠くから鳥の鳴き声が聞こえてきてる。
日の光が満ちた空間は、目を開ける前から朝だと教えてくれている。
そろそろ起きなきゃいけない。
うっすら目の前に見えた美しい模様は見たことがある模様で、体を包んでくれてるあたたかさは心地いい。
もっとあたたかさを求めてすり寄ると、いい匂いがした。
「・・・ん?」
この匂い、なんの匂いだろう。知ってる気がするんだけど。
まぁ、いいや。
それ以上、考えることをやめて再び夢の中へ下りて行こうとしたら、あたたかさが動いた。
「起きたか?」
聞いたことのある声が頭の上から降ってきた。
なにも考えずに声のしたほうへ顔を上げると、すぐそこにある顔。
「興覇・・・?」
あぁ。なんだ、興覇か。
どおりで嗅いだことがある匂いだなーって思ったわけだ。
「・・・・え?」
「おはよう
間近すぎるその顔の位置に、頭が覚醒すると同時にパニックになる。
見えた模様は興覇の刺青。あたたかさは興覇の体温だ。
「うぇ??!」
なんで私が興覇の腕の中にいるわけ?
え?どういう状態なの?!!!
「ちょ、ちょっと離してよ」
「あー?いいだろ?ちょっとくらい。お前、あったかいしな」
馬鹿言ってる興覇の腕を振り払って、飛び起きた。
きょろきょろとあたりを見回してみると、私の知ってる場所だった。
見たことある、いや、見たことありすぎる部屋。
でも、ここは私の家でも私の部屋でもない。
ここは城内にある興覇の部屋だ。
「・・・・・・」
背中を嫌な汗がつぅーと下りていくのを感じつつ、心臓の鼓動が頭の中を支配していくのがわかる。
やっばい。
やばいやばいやばい、絶対に。
覚えてない。
なにも。
お酒には強いほうだけど、ここに来た記憶もない。
来たような気がする・・・かな?程度のあいまいな記憶すらない。
えっと・・・?
なんでここにいるんだろう。そして、なにしたんだろう。
「覚えてねぇの?」
「うー・・・」
「っつーか、胸、見えてるぞ?」
「!!!!!」
きゃぁぁぁあああああ!!!!
驚きのあまり声にならない悲鳴を上げて、あわてて自分の胸を腕で覆い隠した。
えええぇぇぇ!!!?
なんで裸?なんでさらしがないの??!!
「探してんのなら、そっちの辺に落ちてるだろ?」
興覇にいわれるがまま、そちらを探すと寝台脇に落ちてるさらしを見つけた。
あった!
「興覇!むこう向いてて!」
「へいへーい」
笑っているその背中に突っ込みを入れる余裕も怒る余裕もなく、手早くさらしを身に着けた。
はーはー。はーはー。
・・・・。
なんか、もう、・・・・疲れた。
すっごい疲れた。
「で?覚えてねぇの?」
「うーん、いや、ちょっと待って、今思い出す」
頭を抱えつつ昨日の記憶を順をおって引っ張り出してみる。
・・・えっと、昨日、どうしたんだっけ?
まず、仕事してて、それで・・・そう!興覇が来たんだ。
で、誘われて、いつものところへ飲みに行った・・・・んだよね?たしか。
それから、いつものように飲んでた。
うん、そう飲んでた。二人で。
なんか、聞かれそうな空気が怖くて、どうでもいい話ばっかしてた。
ちょっといつもよりペースが速かった?・・・そう、かもしれない。
間があくことが怖かったから。
いつまで飲んでた?
店じまい近くまで・・・?
うん、そう。飲んでた、ずっと。はっきり覚えてないけど、結構長くいた、そんな気がする。
で、それからどうしたっけ?
たしか帰ろうって話になって店を出た、よね。
出てからどうした・・・?
興覇の刺青。
そう、興覇の刺青を覚えてる。
鮮やかなそれはいつもの距離じゃなくて、目の前にあった。
すぐそこ。
綺麗で、熱くて。
この手で、触れた・・・?











「抱いてよ」











「!!!!」
不意に、自分の言葉が耳もとでよみがえった。
意味を理解して、一気に火がついたかのように顔が熱くなる。
「・・・・あ・・・」
「うお!真っ赤だな。思い出したか?」
「うん、・・・いや、部屋きたのは覚えてない、けど、その、・・・ちょっと、思い出した」
やばい。
思い出した。思い出した!
自分がなにを言ったのか。
間近から見上げてくる興覇の視線は感じるけど、その顔が見れない。
わ、わ、わ、私ったら!
いくら酔ってたとはいえ、なんてことっ・・・!
なんてこと言っちゃったんだろうっ・・・!
信じられないことを口走った昨日の自分を頭の中でタコ殴りにしつつ、さらに頭を抱え、ふと、思い当たる。
・・・・ちょっとまって。
待て待て待て待て待て待て。
固まったまま、嫌な汗が噴き出してくるのを止められない。
いや、だって。
今の、この状況、は・・・・?
私は、興覇に抱いてほしいと言ってて。
ここは興覇の部屋、よね?
二人で同じ寝台に寝てて・・・・
私は、下は穿いてるけど上は完全に裸で。興覇のほうはどうなのか・・・掛け布の中は恐ろしくて見れない。
とにかく上は着てない。
いつも上はなにも着てないことが多いやつだけど、でもでもでも!!!
私は興覇に抱きしめられて寝ていたわけで。
え?え?え?
・・・ま、さか・・・?
「赤くなったり青くなったり百面相だな」
「あの、さ、興覇」
「あ?なんだよ?」
「私、その・・・昨日、・・・言った、よね?」
「なにを?」
「その・・・抱いてほしいって」
「あぁ、思い出したか」
「うん・・・」
「心配か?」
「だって、この状況って、さ。そのぉ・・・」
どう考えても、ねぇ・・・
血の気が引いた状態で続きが聞けないでいる私を見て、興覇は苦笑いをしながら教えてくれた。
「心配しなくてもなにもしてねぇよ。帰ってきて、また一緒に酒飲んで寝ただけ。ほら、あそこに転がってるだろ?」
指さされたほうを見ると、見えたのは脱ぎ捨てられた私の外着と、興覇の鈴。
杯がふたつ。酒瓶の数は・・・とにかくいっぱい。
「・・・・・・」
「あ?疑ってんのか?」
「だだだだだだって!じゃあ、なんで上が裸なのよ!」
「そりゃが勝手に脱いだんだからな、脱がせたのは俺じゃねぇぞ」
いや、寝るときは苦しいからいつもさらしは外してるけど、寝ぼけて自分で外したってこと?
うーーーー・・・・
・・・・まぁ、いい。それはいい。
いや、よくない。見られたのはよくないけど、それよりも!
「ほんと、に?本当に本当に本当になにもしてない?」
「してねぇよ。下は穿いてるだろ?」
言われて改めて確認する。
たしかに下は穿いてる、けど。
「一緒に隣に寝ただけ?」
「そうだって言ってんだろ」
寝ただけ。
ただ寝ただけ。
「っっっはぁーーーー」
糸が切れたみたいに力が抜けた。
よ、よかった・・・
よかったぁーーーー!
よかったぁーーーー!
よかったぁーーーー!
あぁ、もう、なんか、泣きそう。
・・・いや、いやいや、よかった、じゃないわ!
興覇に謝らなきゃいけないじゃない。
「あの興覇、私、昨日は本当に・・・」
ごめんと頭を下げようとしたら、目の前に手を突き出された。
「待てって。ごめんは昨日もらってるからな、もういらねぇぞ?」
「いや、でもさ・・・」
「それに酔っぱらいの戯言だろ?真に受けるかっつーの。わかったか?」
「・・・ありがとう」
気にするなと言ってくれる興覇の心遣いがありがたかった。
「こっちこそいいもん見れたし」
「いいもん?」
「お前、結構胸あんだな」
ぎゃあああ!!
「わ・・・忘れて!」
「それに珍しいもんも見れた。口開けて寝るのまぬけ顔とかな」
「え?うそぉ??」
「このあたりからヨダレがだらだらと」
「えぇ!ほんと??!」
「いや、冗談」
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
「口開けて寝てたのは本当だぜ?」
「こ、興覇っ!!」
もう!首しめてやるー!!
恥ずかしいやら申し訳ないやらで、変な興奮状態に入ってしまった私は興覇の肩に掴みかかった。
私のその様子がおもしろいらしく、掴みかかっても興覇は変わらず笑ってる。
人で遊ばないでよねー
本気で申し訳ないと思ってるのに!
「くくく、あーおもしれー」
「もう!」
「こらー!!!甘寧!!!お前は朝礼に遅れるなと何回言えばわかる・・・」
「・・・・・・・・」
「あ・・・・・・・」
凍った。
空気が。
時間が。
突然開け放たれた扉と、怒声と共に登場した呂蒙殿。
寝台の上に寝ころがる半裸の興覇と、その上にのしかかったさらしを巻いただけの私。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
えっと。
えっと・・・。
だめだ。
頭が働かない。
なにも言葉が出ない。 ど、どうしたらいいの・・・?
「・・・・おっさーん、一言もなくいきなり開けんなよ・・・」
興覇の呆れた声が遠く聞こえる。
それで我に返ったらしい呂蒙殿の顔が染めたように真っ赤になった。
「あ、あの・・・」
「いや、あの、すまんっ!!!」
脱兎の如くすごい勢いで閉められた扉は、その勢いのあまり歪んで見えるほどで、絶対私の声なんて聞く気がない。
「ま、待って下さい、呂蒙殿!誤解ですーー!」
すでに姿が見えない呂蒙殿に向けて伸ばした手は、むなしく空を切った。
なにもないです。
なにもないんですよぉー!
「寝台の上で、半裸の男と女が二人でいて、誤解もなにもねぇよなー」
ケラケラと楽しそうに笑う興覇ののんきな態度が信じられない。
なにをのんきな!!
「誰のせいだと・・・」
「あ?俺か?」
「興覇が冗談なんかいうからでしょうが!そもそもなんで隣に寝てんのよ!」
「だって、ここ俺の部屋だぜ?寝台一つしかねぇし。俺に床で寝ろってのか?」
「う゜っ、あ、いやぁ・・・」
「それともお前の部屋まで運べってか?」
「いや、うん、・・・ごめんなさい」
「記憶が飛ぶほどの酔っぱらいを寝台まで運んでやった優しい俺に?は床で寝ろってぇの?」
「ごめん、ごめんって。本当にごめん!」
そう、悪いのは私。
私だ。
私しかいない。
ほんと、バカだ、私。
「あぁーーー・・・どうしよ・・・」
呂蒙殿にいったいどんな顔をして会えばいいのか、私は頭を抱えてしまった。



















「酔っぱらいの戯言」というキーワードが使いたくてさらに1話作ってしまった。
前回までの切なさを払拭する感じが欲しくて、表面上は明るくいきました。
じゃれあってるところへ第三者の乱入。お約束すぎ?いや、流れはこうでしょ。こうじゃなきゃ駄目でしょ(そして凌統の耳に入ること希望
また使いたいセリフが出来ちゃったけど、どうしようかなぁー

2020/2/15



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