肩が焼けるように熱い。
目の前に広がるのは赤ばかりで、他に何も見えるものはない。
遥か彼方、見えもしない地平線から黒い何かが近づいてくるのがわかる。
馬だ。
見る見るその姿は大きくなっていく。
音より早いのだろうか。それとも、この世のものではないのだろうか。何も聞こえはしない。
無音で駆けてくる、赤い馬。
黒い影を連れて目の前で止まると、顔も見えない馬上の男が何か言った。
「!」
名を耳もとで叫ばれたような気がして、とっさに立ち上がってしまった。
夢なのか現なのか判断できない。
私は今、なにを・・・?
「殿、いかがなされた?」
かけられた声は隣にいた張遼殿だった。
周りを見渡し、一気に現実の感覚が蘇ってくる。
正面に座っているのは李典殿、隣にいるのは張遼殿。楽進殿は先ほど見回りに行かれたところ。
思い出した。
此処は合肥。魏軍の駐屯地の幕舎の中で、昼間の戦いで呉軍を退けた私たちは、今後どう呉軍を打ち破るべきか話をしていたところだったのだ。
大切な軍議の中、私は何をやっていたのか。
「申し訳ない、張遼殿、李典殿。少し腑抜けていたようだ」
その場に座りなおし、自らの非礼を詫びた。
現実には戻ってきたが、まだあの形容しがたい恐怖はまだ私の身の内に残っていた。
芯から震える。
夢というにはあまりにも鮮烈だった。
どんな夢だったのか、それすらもう覚えてもいないというのに。
「顔色が優れぬようだ。少し休まれたほうがよいのでは?」
「いや、心配は無用だ」
「無理をせず先にお休みください。昼間は激戦であったし、怪我もなさっておいでであろう?」
「それを言うなら張遼殿のほうが・・・」
言いかけて言葉が途切れた。張遼殿、微笑んでいるが、決して心から微笑んでいるわけではない。
相対する気迫がビリビリと伝わってくる。
なるほど、これが敵陣に切り込み孫権にあと一歩まで迫ったという武人の圧力か。
「殿、休まれよ」
「・・・申し訳ない、李典殿、張遼殿。では、先に休ませていただく」
張遼殿の気迫に押し負けて、素直に幕舎から下がってきた。
月が細い。もうすぐ新月か。
見上げた鼻先に、微かにだが、何かが燃えるような焦げくささを感じた。
夜襲だ!との叫びに、考えるより先に飛び出していた。
暗闇を仄かに彩る赤き炎。駆ける人の足音には規則性がなく、悲鳴や怒号も混じっていた。
得物の双剣を握りしめ、マントを翻す。
肩の痛みが増した。傷口が開いたのかもしれない。
丘の彼方に赤い馬が見える。
黒い影を連れて、顔は見えぬのに馬上の男が笑ったのがわかった。
こちらに手を伸ばし、まるで誘うかのように。
ただ、まっすぐに。
私を見ている。
「・・・」
忘れられない。
忘れるわけがない。
「・・・黄泉から迎えにでも来られたか?・・呂布殿・・・」
すみません、暗すぎで。一回まともな意味不明を書きたかったんです(ぇ
下ヒから16年。合肥じゃ長すぎたな(遠い目)
2005/05/13