「アイツを女だと思ったことなんてねぇよ」

・・・うるさい。
うるさい。うるさい。うるさい。
あんたなんか・・・・













むかつくむかつくむかつく。
そう思ってたって、放っておくことができない。
だって、あからさま過ぎる。
人の目の前でため息ついちゃって、これ見よがしじゃない。

「・・・・・で、どうしたの?」

酒を片手に、ため息をこぼした凌統に問いかけたら動きを止めた。
せっかくきれいな月見酒。ため息で汚すんじゃないわよ。

「あん?なにが?」
「だって、今日のこれ、やけ酒でしょ?」

態度がおかしい。変に明るいし、妙にしゃべるし。だいたい、凌統がしつこく私を酒に誘うときって女絡みだし。
本当は聞きたくない。
でも心配してる。元気がないから。



「気になるか?」
「まぁ、戦友としてね」
「ふーん」
「気にしてほしくないなら、気にしないけど」
「ひっでぇな」
「あのかわいい女官さんにふられちゃったの?」
「まあ、そんなとこ」
「だったら、大切にしてあげればいいじゃない」
「してたって」
「先月新しく入った女官の子と一緒にいたところを見たって子がいたけど?」
「おーおー、女の情報網ってのは怖いねぇ」

凌統は酒を飲みながら笑うだけで否定しなかった。
いつからだろう。
昔は、そんなことなかった、と思う。
もともと軽い口調で人をくったような態度を見せるやつだったけど、こんなふうに女の子を泣かせるようなやつじゃなかった。
いつからか、凌統が誰かと一緒にいるという話を聞くことが増えた。恋仲になった子じゃなくいろんな女性と。
私自身、その姿を見かけたことも、ある。
後で聞いたら凌統は否定してたけど、私はそういう関係だったのだろうと思ってる。
柔らかい物腰と話しやすさ、押しつけのない気遣い。
見目もよくて、武将としても呉を代表する男。
女が惹かれる要素をいくつも持ってる。
いい男だろうと思う。
泣く子がいたのだといくら話が知れてもそれでも、凌統の隣に女性が絶えたことはない。



「・・・・あんたは、誰かひとりを想うことはないの?」



きっと、凌統の隣は苦しい。
隣にたたない今だって苦しいんだから。
絶対その隣には立たない。
立てない。


?アイツを女だと思ったことなんてねぇよ」


偶然稽古場で聞いてしまったその言葉。
うるさい。うるさい。うるさい。
そんなこと、知ってる。
凌統の視界に、私がいないなんてことは。



「そういうはどうなんだよ?」
「どうって?」
「甘寧と仲いいだろ?」
「そう?まぁ、凌統よりはいいだろうね」
「よく一緒に飲んでんじゃん」
「そうね。興覇とはお酒の趣味が合うから。それだけよ」
「俺の誘いは袖にするのにな」

べつに興覇だけが特別じゃない。陸遜だって、呂蒙殿だって、黄蓋殿とだって飲むし。
そのことを凌統だって知ってる。
知ってるくせに、わざとそんな言い方をする。
普段飲まないのは凌統とだけ。
興覇や呂蒙殿が教えてくれたから。
凌統は酔ったときしか女の話をしないって。
私と飲むときに凌統から彼女の話をされたことはなかったけれど、自然と凌統と一緒に飲むことを避けるようになった。
私は、あんたの口からあんたの好きな女性の話なんて聞きたくない。

「凌統には一緒に飲んでくれる子がいるでしょ」
「今はいない」




言葉が出なかった。
風が吹いたと勘違いするくらい突然で、予期できなかった。
なんで、私に凌統の腕がまとわりついているのか。
金縛りにあったみたいに動けない。
添えられた頬に触れる感触も、触れるほど近くの吐息も、現実なのかわからない。

「・・・・なぁ、俺のもんにならねぇ?」

月に照らされるその笑みは、ぞっとするくらい綺麗。
綺麗なんて男に使うのはおかしいかもしれないけど、綺麗、としか言いようがなかった。
動けなかった。
目が、そらせない。
きっと、この笑みにおとされてしまうんだわ。

「・・・・・・・・ならない」



しぼりだした、拒絶。
本気じゃないくせに。そんなこと思ってないくせに、なぜそんな言葉を吐けてしまうのか。
憎らしくて、憎らしくてにらみつけた。
うれしそうに踊り狂ってる心臓が忌々しい。
ずっとずっと、心惹かれてる自分が腹立たしい。
なんで、この男なんだろう。


「あ、そう」

くっついたときと同じように、あっけなく凌統は離れた。
なくなった体温に虚無感と脱力感を感じる。
寂しい?
馬鹿じゃないの。
手を回せば手に入ったんじゃない?
いらない。
意地張らないで。
いや。
一言伝えれば。
いや。
欲しいくせに。
馬鹿にしないで。
やった途端に後悔している自分がいやだ。

「おーおー怖ーい目つき」
「あんたなんかを想ってる女の子がかわいそうだと思って」

揺れるな。
泣くな。
愛の言葉なんて、死んでも伝えてやらない。
どうせ見てなんかもらえない。
なにを告げても、凌統のなかに残ることなんてない。



「だいっきらい」

酒をあおる凌統がどんな表情をしているか、私には見えなかった。
















『その重さの違い』に続いてこれも当初は奪還屋。その後、司馬懿夢で書いてたんですが、長くなりすぎまして書き直し。勢いで3時間で完成。
キャラ名いれずに書いてたんですが、なぜか当てはまるのが馬超択一。なんで私の中で馬超はナンパヤロウなんだろう?(笑)
かぶっちゃうので無理やり凌統に変換したんですが、これはこれで好きかも。

2020/2/13



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