「また届いたの?」
いつものことなのについ聞いてしまった。














工藤新一。
世間で名が売れてる高校生探偵。ルックスもよく、スポーツも出来て、高校生とは思えないような推理力。
彼にはファンが多い。特に女性。というより女性のファンしかいないんじゃないかしら。
露出がなくなってから随分と経つのに、今でもこうして何通ものファンレターが届く。
こんなふうに、自分の気持ちに正直に動ける彼女たちが羨ましいと思う。
かといって、自分はそんなことをいうタイプではないし、そんなことをする気も出来もしないけれど。
「・・・・・」
ついこぼれてしまった本音は、目の前の名探偵のセンサーに引っかかってしまったみたい。
黙ってこちらを見つめてる工藤くんに、なんて言ったらいいのかわからなくて私も黙った。
あら、よかったわね、名探偵さんは大人気で。
・・・・絶対だめだわ。
どう話したらトゲが出ない言葉になるのか。
心に波が立っている今は、きっと何を言っても駄目だなとわかる。
それにきっと、誤魔化そうにも今更遅い。
「コーヒーを淹れてくるわ」
「待てよ」
席を立った私の後を工藤くんはすぐに追ってきた。
逃がす気がないみたい。
「なに?」
「言えよ」
「なにを?」
「思ったこと」
「言っても仕方ないわ」
あなたが悪いわけではないし。
彼にファンレターをもらうなっていうのは無理な話で、黒の組織のことがあるから世間に公表なんてもちろんできるわけもなくて。
それでも、誰かが彼へ好意を寄せるのは嫌だと思う。
醜い。
あぁ。オンナっていやだわ。
でも、どれだけ否定してみても、自分もその大嫌いなオンナであることに変わりはなくて、イライラして仕方がない。
彼にはどうすることも出来ないのは頭では理解しているというのに。
「いいから。言えよ」
声と同時にカップを持った私の手首を後ろから掴まれた。
あきらめて彼のほうへふりかえる。
名探偵の目をごまかすことは出来ないことはわかった。
どうしようかしら。
教えてほしい、かまわない。
彼自身にそう言われても、それでも伝えることを躊躇する。
「あのよ、文句の一つでも言ってくれないと、俺だってたまには不安になるんだけど」
苦笑いを浮かべる彼に、ため息がこぼれてしまった。
本心かもしれない。
でも、わざと言葉を選んでいるみたいな気がして仕方がない。
伝えることが下手な私のために。
「・・・・もらわないで」
「なんでか教えてくれ」
「・・・・」
彼がわかっているのは顔を見ればわかる。
彼の洞察力と推理力を使えば私が何を思ったか、簡単にわかるでしょう。
わざわざ聞くなんていじわるだと思う。
「腹が立つから」
「わかった」
「え?」
まさか、そんな答えが返ってくるなんて思ってもみなくて、聞き返してしまった。
「わかったって・・・どういうこと?」
「腹が立たなきゃいいだろ?」
良いことを思いついたって顔の彼に、首をかしげる。
そのまま掴まれた手首ごと体を引き寄せられて抱きしめられた。
「ちょっとっ・・・」
急に何するのという文句は被さってきた唇に吸い込まれてしまった。
いたずらっ子みたいな彼の瞳に私が映っている。
「次から一通で一回キスな」
「え?」
「手紙はまた届くだろうし、やつらのこともあるから世間に言うわけにはいかねぇけど、もし誰かからまた手紙が届いたらこうする。だから必ず俺の隣に居ろよ」
「工藤くんっ・・・」
「こういう時は新一って呼べよ。あ、志保に拒否権なしな」
とても楽しそうな彼の声がふりそそぐ。
瞼へ。頬へ。唇へ。
少し離れて、もう一度。
また離れて、もう一度。
瞳を開けてる暇も与えてくれない。
苦しくはない。
ささくれ立った私の心を癒すためのキス。
「・・・手紙より多いんじゃない?」
わからないほどのキスの雨のあと。
呟いた私の声色からもうトゲは無くなっていて。
私も彼もそれに気づいて、恥ずかしくなって、ふてくされた顔を作った。
「バーロー、手紙の数よりするに決まってんだろ?」
基本じゃねぇかと幸せそうに笑う彼に、ずっとかなわないんだわと改めて思った。























原因だけ考えてオチをどうしようか考えていなかったんですが、新一ナイスアイディア!採用!
恋人設定だとゲロゲロ甘くなるのがうちのお二人。
蘭ちゃんとだと、この雰囲気で書けない。幼馴染って、難しい・・・

2019/10/12



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