お願いだから気づいてほしい。 僕が発しているこのサインに・・・ 空は雲一つない快晴。時刻はお昼をちょっとまわったところ。 ここは人が溢れる街中で、俺の隣には笑顔のパステル。 実は俺たち、只今デートの真っ最中だったりする。 「今度はあっちに行ってみようよ」 ニコニコしながら俺を見上げるその瞳を見て、俺も笑い返す。 人にぶつからないよう少し前を歩いて、でも、歩調は彼女に合わせてゆっくり。 もちろん、はぐれないように手はしっかりと繋いでる。 「さっきの置き物、すごく可愛かったよね〜」 嬉しそうにさっき寄った店の話をし始めるパステル。 あぁ、なんて可愛いんだろう。 あんなどこの誰が作ったかわかんねぇもんより、おめぇのほうがずっと可愛いっつーの。 「おめぇよりずっとな」 ‥なんて、ひねくれたこの口が言えるわけはないのだけど。 「ひっど〜い」 ぷ〜っと膨れたパステルの頬をつつくと、二人揃って笑った。 かわいい。目が離せない。 放っておけない。守ってやりたい。 想いが通じる前はそんな想いのほうが大きかった。 なのに今は‥ 例えば、今この場でその赤い唇を塞いだら?その首筋に顔を埋めて噛みついたら? おめぇはいったい、どんな表情をするんだろう。 「ねぇ、聞いてる?」 「あぁ」 べつに壊したいわけじゃない。今だって守りたいと思ってる。 いつまでも笑っててほしい。その穢れない心と瞳のままでいてほしい。 そう思うのに。 それとは真逆な位置で駆り立てられる。沸き上がる。 壊してしまえ。引き裂いてしまえ。 そんな破壊衝動。 笑っててほしいけど泣かせたい。守りたいけど壊してしまいたい。 矛盾ばかりな俺のココロ。 「トラップってば」 突然世界を覆った。瞳に姿が映るほどの至近距離。 とっさに出てくる言葉はなかった。 「どうかしたの?」 心配そうな表情をして、俺の顔を覗き込む。 なんて無防備。 目眩すら覚える。 痛い。痛い。痛い。 哀しい。苦しい。泣きたい。 こんなに側にいるのに果てしなく遠い、俺たちの距離。 「‥おめぇは本当にガキだなと思って」 「なっ‥何よ、いきなり。私だって立派な大人だもん」 失礼しちゃう。 肩で怒るその背中を見つめて、苦笑いがこぼれた。 お願いだからもう気づいてほしい。 この心の内の矛盾に。 お願いだからまだ気づかないでいてほしい。 この醜い欲望の気配に。 まだ、美しい少女のままのキミ。 「悪かったって」 「本当にそう思ってる?」 「あぁ」 謝罪とともに落としたのは触れるだけのキス。 それだけで頬を染めるパステルを見て、ズキッと痛みが走った。 ありがちなお預けトラップ。両想いなのに幸せじゃないってどうよ‥(汗) 2004/12/01 |