本当にいつの間に?
俺の中に影を作り続けるアイツ
俺だけが盗られるなんてフェアじゃない
いつか必ずもらいにいく















珍しく独りで街へ繰り出すと見たことのある姿が目に入ってきた。
どうやらあちらサンも独りのようだ。
顔を合わせたくないので後ろを向いた。とりあえず横道に入る。
もしかしたら向こうは気づいてないかもしれない。
「おい」
後ろからかかった声は無視。
出てこなきゃ良かったと今さら思っても遅いけど。
「おい、無視すんなって」
肩を掴まれちゃ振り向かないわけにいかない。
「‥‥なんだよ。三上サン」



「一人で何してんだ?坊ちゃん」
「アンタには関係ない」
「可愛くねぇヤツ」
「アンタに可愛いなんて思われたくないね」
っていうか男にかわいいはないだろ‥。
刺々しい俺の態度に三上サンが溜め息を一つ吐く。
「ま、とりあえずどこか入ろうぜ」
はぁ?なんで?
「お、おい!」
とっとと歩き出してしまった自分勝手の塊に慌てて声をかける。
「なにやってんだよ?早くこいって」
どうやら俺の言い分は聞き入れられそうにない。
特に予定もなかったから俺はあとをついていった。





しばらく歩いて。
ついたのは大人っぽい雰囲気が漂う洒落た感じの喫茶店。
「よくこんなところ知ってたな」
ずっと住んでいるのに俺は知らなかった。
「前に知り合いときたとき見つけたんだよ」
「ふーん」
誰となのか少し気になったが聞かなかった。
「ところでお前は何しに行くところだったワケ?」
「別に。暇だったから気晴らしに出てきただけ」
正直に答えると、お得意の皮肉を含んだ笑みを浮かべた。
「一人でか?寂しいヤツ」
その言葉にムッとして言い返す。
「アンタだって一人だろ?」
同じように笑って返してやると眉を顰めた。
「‥お前って本当にムカツク奴だな」
だったら声かけなきゃいいだろ。連れて来たのもそっちじゃないか。
「今、だったら声かけなきゃいいとか思っただろ?考えてること顔にぜんぶ出てるぜ。ったくガキだな」
「うるさい」
たった一つしか違わないくせに‥



なんて口喧嘩(?)しながらも
どちらも席を立たず会話が続いたのは
俺たちがある意味似たもの同士だからかもしれない



「そろそろ出るか」
寮の門限の時間になるからと席を立った三上サンに合わせて俺も席を立つ。
借りは作りたくないから自分の分は払うと言ったけど、
ツケにしといてやるからと、かわされてしまった。
店の外に出ると、もう外は薄暗くて風が冷たかった。
「じゃあな」
「待てよ」
背を向けた三上サンの腕を軽く掴む。
「‥なんで俺に声をかけた?」
アンタは俺のこと嫌いなはずだろ?
好意を持たれてるとはとても思えない。
親父が勝手にやったこととはいえ、彼のプライドを傷つけたことに変わりはないのだから。
だから余計に彼が俺を誘ってくれたことが不思議で仕方なかった。
「‥‥‥代わりをもらおうと思ってな」
小さい小さい呟き程度の声。
「?代わり?なん‥‥!」

それは一瞬の出来事。

「‥じゃあな」
俺は固まったまま消えるまでその後ろ姿を見つめていた。
夢だったんじゃないかと思い、指で唇を撫でる。
微かに残る冷たくて温かい矛盾した感触。
今のって‥キス‥?
なんで?なんで?なんで?
なんで俺にキスするんだ?
なんで俺はそれが嬉しいんだよ‥
悔しいけど、この感情につけられる名前は一つだけ。









「勝手にもらっていくんじゃねぇよ」


















ふつう店先でキスしますか?でも、当初は街中の予定だったからまだマシかな

2002/01/15



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