あの人は まるでガラス細工のようだと思った

弱くて脆いけど 透き通るほどの強さをもっている

そんな矛盾した弱さと強さをもっている人















パタンと後ろ手でドアを閉める。
はぁ‥と自然に溜め息が漏れた。
「失敗‥したな‥」
せっかくここまで気づかせずにきたのに。
最後の最後で気づかせてしまうなんて。
告げるつもりなんかなかった。
俺が先輩の視界に入っていないのは俺が一番よくわかっていたから。
だから‥ だから俺は‥
そこまで考えてパンッと両頬を叩く。
過ぎたことを考えていても仕方ない。とりあえず下に行こう。
ゆっくりとした足取りで階段に向かう。
下から足音が聞こえてきたので歩むのをやめると、親友の顔が見えた。
「誠二‥」
きっとキャプテンに説得されて三上先輩のところに行くところなんだろう。
本気で走ってきたのか多少息が荒い。
「竹巳」
誠二の顔を見ていて、ふとある考えが浮かんだ。
「今ね、三上先輩の部屋に行ってきたんだ」
誠二が驚いたように目を見開いた。
「三上先輩って唇柔らかいね。肌も凄く白いし」
クスッと少し笑いながら口もとを押さえる。
「男とは思えないくらい凄く綺麗だった」
「竹巳‥」
誠二の声は低く、怒っているのがわかる。
そんなに大切なら、他人に触れさせたくないほど大切なら手放さなきゃいいのに‥
離れれば想いが消えるなんてことはないんだから。
まぁ、もうわかってるみたいだから敢えて言わないけど。
「早く行きなよ。いいことあるかもしれないよ?」
かもしれないじゃない。
先輩は誠二の望んでいる言葉をきっと言ってくれるだろう。
それは、確信に近かった。




誠二が無言のまま俺の横をすり抜ける。
俺は静かに誠二の背中を見送った。
足音はだんだん小さくなっていき、ドアの閉まる音が聞こえた。
「‥‥これくらいの意地悪、許されるよね?」
誰に聞くともなく小さく呟いた。








「笠井‥」
小さく自分を呼ぶ声に反応して、ゆっくりそちらに振り返る。
「キャプテン」
「本当にこれでよかったのか?」
「えぇ」
すごくムカつくけど。すごく悔しいけど。
「俺、三上先輩も好きだけど、誠二のことも好きなんです」
二人とも大好きだから 二人とも大切だから二人とも幸せになって欲しい。
それにはこれが一番だから。これが一番いい結果だから。
「キャプテン」
「何だ?」
「俺が三上先輩を忘れられるまでそばにいてくれますか?」
我が侭だけど 残酷だけど そばにいて欲しい。
俺は力いっぱい拳を握りしめながら俯いた。
胸が苦しくて‥
「笠井‥」
辛そうなキャプテンの声を聞いて我にかえる。
「‥なんて、冗談ですよ。気にしないでください」
俺は笑ってキャプテンの横を通り抜けた。
「とりあえず、俺たちの部屋にきますか?戻るわけにはいかないでしょう?」
キャプテンのほうを見ないで、なんでもない風に話をする。
自分は何て馬鹿なことを言ったんだろう。
あまりにも都合が良すぎる。
三上先輩に振り向いてもらえないからってキャプテンに甘えるなんて。
「笠井」
ぐいっと引き寄せられて抱きしめられた。
「キャプテン?」
「笠井がそう望むならそばにいるよ」
俺は驚いてキャプテンを見上げた。
「‥ほ‥んとうに?」
「あぁ」
耳もとで聞こえた言葉が 微笑んで言ってくれた言葉が
嬉しくて‥ 哀しくて‥ 涙が溢れた。














ごめんなさい‥

そして、ありがとう‥









綺麗な綺麗なあの人が好きだったけど

優しい優しい貴方を想い始めてる

この想いが本物に変わるまで

貴方は想い続けてくれますか?














「竹巳が好きだから傍にいるよ」




























あとがき

やっぱあったほうがいいかなって思って作った笠井くん視点です。
なんか関係が複雑‥‥というほどでもないですか。
いちおう藤三←笠←渋。という図です。
ってことは三上先輩総受け?!(爆)

2002/01/30



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