笠井はそのまま首筋へと唇を滑らせてくる。
藤代には感じなかった靄のようなものが俺を襲う。
それを認めたくなくて。
俺はできる限り声を殺していた。
「‥‥っ‥‥ぁ‥」
「先輩、声出してもいいですよ?」
「うる‥せぇ‥っ‥」
精一杯睨みつけてやったけど迫力はなかったと思う。
その証拠に笠井は笑っていた。
畜生‥
シャツのボタンを外し、上半身が露わにすると、笠井は舌をゆっくりと俺の上を這わせた。
ヌメヌメとした生暖かい感触。
俺は必死に声を殺していたけど、胸に愛撫されると、たまらず声が漏れた。
「‥ん‥あっ‥あッ‥‥」
俺の様子を見て笠井が笑いながら言う。
「先輩、かわいいですね」
耳もとで囁かれた言葉にゾクッとする。



「先輩、かわいいっすね」



重なる言葉になぜか胸が苦しくなった。







「‥ぁ‥‥はっ‥ぁん‥」
だんだん下りていく口付け。
ジーンズごしに自身に触れられると、身体が反応した。
「‥‥ひゃあっ‥!」
藤代のときと明らかに違う快と不快。
そして恐怖。



「ねぇ、三上先輩。俺と遊びません?」



なんで?俺、本当は‥‥?



「俺と付き合ってくださいよ」



違う!遊びだから!アイツのことは遊びだから!
頭では思ってるのに心が痛い。
身体は快を拾い上げているのに心がついていかない。
苦しくて苦しくて‥
俺は気づかぬうちに泣いていた。





「三上センパ〜〜〜イvv」

「今のシュート見ました?やっぱ俺ってスッゲェvv」

「センパ〜イ。デートしましょvv」






あるとき、疑問に思って一度だけ聞いたことがあった。






















何で相手が俺だったんだ?と‥






















ちょっと驚いた顔をして、たしかアイツは笑って答えたんだ。






















「それは、三上先輩が好きだからっすよ」






















ふざけた感じで告げられた告白。

かるい感じで返された答え。

なのに何故か今も心に残っている言葉。






















「‥先輩。もう終わりにしましょ」






















俺は‥ 俺は‥!
「‥っ!‥‥やだッ‥‥笠井‥やめ‥‥」
わかった。やっと気が付いた。自分の気持ちに。俺は!!
「‥‥‥ふじ‥‥しろっ‥!」
まるで俺のその言葉を待っていたかのように笠井はあっさり手を止めた。
「か‥‥さい?」
「‥やっとわかりました?」
「えっ?」
笠井が俺の上から退く。俺もゆっくりと身体を起こした。
「誠二のこと、遊びじゃないって」
「笠井‥」
スッと手が伸びてきて涙を拭われた。
「言わなきゃ伝わらないですよ?」
笠井はそう言いながら苦笑いを浮かべた。
そのとき気付いた。笠井の気持ちに。
「笠井。俺は‥‥!」
「言わなくていいです。わかっていたことですから」
「笠井‥」
「先輩見てたら嫌でもわかりますよ。先輩の気持ち。俺のことは気にしないでください」
「‥‥悪ぃ」
笠井の顔を見れなかった。
どこまでも優しい後輩。
「‥先輩、一度だけ、抱き締めさせてくれませんか?」
俺はなにも言わずに肩の力を抜いた。
ゆっくりと笠井が腕をまわしてくる。
その様子はまるで怯えてるみたいだと思った。
でもそれがなにに対してなのか俺にはわからなかった。



俺は笠井の背中に手をまわせなかった。
俺にできることはそれだけだったから。
「‥すみません」
謝りながら笠井がゆっくりと俺から離れる。
「いや、謝るのは俺のほう。マジ気づいてなかった。サイアクだよな」
俺は本当に藤代しか見えていなかったのようだ。
こんなに近くにいたのに気づかないなんて。
バカだな。本当にバカだ。
ここまできてようやく自分の気持ちに気づくなんて。
「そろそろ誠二たち戻ってきますね」
もうそんな時間か。
「俺、見てきます」
「笠井!」
部屋を出ていこうとする笠井を呼び止めた。
「なんですか?」
「‥‥ありがと、な」
笠井は笑って部屋を出ていった。





























あとがき

ま、マジ笠三になりかけた‥
危うく本題からズレちゃうとこでした。なんとか軌道修正です。
いや、別にヤっても良かったんですけどね。(爆)
う〜ん‥どうも笠井くんはいい人で終わってしまう‥。
い、いつかメインで!

2002/01/21



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