どこからか聞こえてくる鐘の音。
花嫁は頬を薔薇色に染めて。花婿も嬉しそうに微笑んで。
降り注ぐたくさんの祝福の声。そして拍手。
もうすぐ。
今度は私が幸せになる番‥なんて、そんな夢物語。














実際は鐘の音なんか聞こえない。
薔薇色に頬を染める花嫁も。嬉しそうに微笑む花婿も。
たくさんの祝福の声と拍手…はあるかもしれないけど。
「…………………」
べつにドラマチックなことを期待してたわけじゃない。
ま、私も女だし、そういうのに夢がないって言ったら嘘になるけれど。
なぜだろう。
なんか。なぜか。
不安というか、妙に気持ちが冷めている。
現実が見えていてもそのすべてが見えているわけじゃないのに。
こういうのをマリッジブルーって言うのかしら?
ボーっと考えてたらとつぜんノックがされた。
ハッとして慌てて答えれば中学のときからの付き合いのが顔を出した。
「やっほー。どう?緊張してない?」
「残念ながらまったくしてないわ」
「ちぇっ」
「ちぇっ、じゃないでしょ」
「…………………」
「なに?」
、すっごく綺麗だよ」
「はいはい。どうもありがとね」
「も〜、少しくらい照れてくれたっていいのに」
は口を尖らせて明らかにつまらなそう。
申し訳ないけど私、のオモチャになる気はないわ。
「でも、なんか考えてたでしょ?わかってんだから」
…そういえばって昔から妙なところだけ鋭かったよな。
「そりゃ、私も人間ですからいろいろとね」
なにか言いたそうなの言葉を遮るように、またノックがされた。
答えれば今度は随分と見慣れた顔が。
「あれ?三上くん」
「三上?」
式の直前だっていうのに、いったいなにしにきたのよ。
「よぉ」
三上は私たちの反応を予測済みだったみたいで、ニヤリと余裕の笑みを見せた。
「あ、携帯かかってきちゃった。ちょっとごめんね」
「えっ?ちょっ‥?!」
引き留める暇もなくはドアの向こうへ姿を消した。
携帯かかってきたって、それ、ぜったい嘘でしょ。
ちらっとだけどかかってきてないふうに見えたもの。
そんなに都合良くかかってくるわけないし。
なに、変な気を利かせてるのかしら?
ため息をつきそうになったところに視線を感じて、新たな来客に向き合った。
「‥なによ?」
人のことをジロジロと見て。
「う〜ん。馬子にも衣装ってところか」
入ってきて最初のセリフがそれ?
「‥アンタね、普通そういうことを結婚式の前に、しかも自分の花嫁にむかって言う?」
「言う」
「…………………」
バカげた即答に呆れて言葉もない。
そんな私に三上はニヤリと特有の笑みを浮かべると、パンパンパンと大きな拍手をした。
「おぉ、。スゲー綺麗じゃん!惚れ直したぜ」
「…………………」
「ん?どうかしたか?」
「‥なんか頭痛がしてきたわ」
思わず頭を押さえると、くくくっと楽しそうに三上は笑った。
「だいたい式の前に来るなんて‥新郎はおとなしくバージンロードの向こうで待ってればいいのよ」
この私が歩いていってあげるんだからね。
「うるせぇな。いいじゃねぇか、べつに」
最後までこんなままなのかと我ながら呆れていたその時。白い扉の向こうから再びコンコンというノックの音が。
まさかが戻ってきたのかと思っていたら違った。
「失礼します。そろそろ式のお時間です」
「はい、わかりました」
パタンと閉じた扉とともに、お姉さんが連れてきた静寂。
「‥行くか」
三上の言葉に私も立ち上がった。ドア口に立つ三上に、ずっと思っていた言葉がこぼれた。
「それにしても、まさかアンタと結婚することになるとはね」
「その台詞、そっくりそのまま返してやるよ」
歩き出した私に三上が手を差しのべ笑いかけた。
さっきとは違う。
私の大好きな、優しいと形容するにふさわしい笑み。
「でも‥」
「わかってる」














優しくなんかしてくれない。
陳腐な言葉の一つも囁かない。
わが侭勝手な私の恋人。
そんな彼は今日から私の旦那サマ。























ここで言葉の確認を。新婚と結婚。明らかに意味が違いますね。
申し訳ありません!でもこれもある意味新婚ってことで。

2002/11/24



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