一人きりでどこへ行くの? 僕をおいて何しに行くの・・・?
どこからか流れてくる優しいメロディー。
朝の目覚ましみたくうるさくなく、ゆりかごを思い出させる緩やかな温かさ。
夢うつつのなか、俺は隣にいるはずの人に手を伸ばしたが、その手はそのまま空をきった。
時間感覚どころか現実すら知覚できないまま、頭を掻いて体を起こす。
「…?」
いない‥?
見慣れたベッドルームからの景色に欠けた破片。
なんとなく不安に駈られた俺は、ベッドから起き出し真っ先に一番可能性のある洗面所のドアを開いた。
「おい、?」
辺りを見まわして、浴室も見たがやっぱりいない。その現実に頭が、目が覚めた。
「?おい、どこだ?」
リビングに戻り、ソファーに放り出されているパジャマを見つけた。
もしかして出かけたのか?
俺はすぐに寝室に入って携帯を握ると、短縮1をコールした。
ピーピピピピ♪ピーピピピピ♪
首輪はすぐ近くで明るいメロディーをあげて答えた。
「チッ、役立たずが」
俺は力任せに携帯をベッドに放り投げた。
小さなテーブルの上には財布とこの部屋の鍵、そしての携帯。ついてるストラップはひとつ。
ジャラジャラつけるのが好きじゃないが唯一つけてる、俺があげたストラップ。
そういえば、出かけたかと思ったけど財布も鍵も此処にあるんだから、ただ聞こえないだけかもしれない。
「おい、?」
そんなに広くない部屋のなかを探しまわるには十分で。
散歩にでも出たのかもしれないと思い直して即着替えて部屋を出た。
ったく、のヤツ、俺に黙ってどこへ行きやがったんだ?
はじめは支配していた苛立ちも、時が経てば経つほど別のものに変わっていく。
思い当たる場所が失くなればなくなるほど、世界が色をどんどん失くしていった。
頭まで響く街のうるさい雑踏すら遠く感じて、絶望感ってこんな感じなのかもしれないと思った。
「あ、おかえり」
ドアを開けた途端、望んでいたいつもの笑顔で迎えられたから完全に拍子抜けだった。
「亮くん、いったいどこ行ってたのよ?」
「こそ‥今までどこへ行ってた?」
「亮くんが起きたらお腹すいたって言うかなって思って買い物にだけど」
それがどうかした?となんにもわかってない顔で聞かれて、どっと脱力した。
「んな時だけ余計な気を遣わずに起こせよ」
本気でいなくなったかと焦っちまったじゃねぇか。
「一応起こしたんだよ。でも亮くん、ぜんぜん起きないんだもん」
「そんなもん、起きるまで起こせ」
「うわ、わが侭。だったらパッと起きるようにすればいいじゃない」
「んなことできるかよ。…昨日スッゲー疲れたしな。もそうだろ?」
「‥っ!亮くんのバカ!」
ニヤニヤと笑いながら聞くと、は真っ赤な顔をしてクッションを投げつけてきた。
「なんだよ。事実だろ?」
林檎のように赤い頬をつつくと、は脱力して抱きついてきた。
俺に体を預けて、まるで猫がじゃれつくみたいに。
「おい、なに急に甘えてんだよ?」
「いいじゃない、私、眠いの。それに私は亮くんの彼女なんだし」
俺は、やっぱりまだガキなんだと思う。
ちょっと姿が見えないと不安になるし、本当なら毎日だってに会っていたい。
会えない時間は寂しいし、不釣り合いかも‥って考え込んだりしてる時もある。
でも、ガキはガキなりに一生懸命だから、その背中に追い付こうと必死だから。
今はまだ、虚勢をはってるところもあるけれど、いつか本当の俺の姿になるように努力するから。
たとえ夢でも、もう俺の腕のなかからいなくならないで。
自分で書いておいてだけど、こんなの三上先輩じゃない・・・(殴)
2002/09/24
|