最初は、なに言ってんだって思った

つまんねぇ冗談なんか言ってんじゃねぇって















夕暮れの公園で久しぶりのデート。人の気配は一切なくて。
いつもは気にならなかったのに、そのときだけは噴水の水音がやけに大きく聞こえた。
遊び半分でOK出して付き合い始めた、どこにでもいるような平凡な女。
俺が誰といても、何をしていても文句一つ言わない。
だけど、抱きたいときに抱かせてくれる。
今まで付き合ってきたどの女よりも都合のイイ女。
それがだった。


「別れよう」


それはあまりにも突然の発言で。
驚きのあまりってほど驚いたわけじゃないけど、とっさに言葉が出なかった。
別れる?おいおい、急に何言ってんだよ。
そう思ったけど笑い飛ばせなかった。のしかかる空気が重くて、重苦しくて。














ずっと俯いてたがわずかに顔を上げた。なぜか目元がキラキラとしてて綺麗だった。
なんで?‥あぁ、そうか。泣いてんのか。
が泣いてるところなんて初めて見たな。いや、俺が知らなかっただけかもしれねぇ。
俺の気づかなかったところで、いつもいつも泣いていたのかも…
そう考えたら心臓が痛くなってきた。
ズキズキと。痛い。痛い。痛い。それ以上に‥苦しい。
全力で走った後みたいに、うるさいくらいの鼓動が俺の中に響いてる。
緊張してる?違う、そうじゃない。じゃあ、何?





痛さのせいか、まるで指先が痺れてるみたいな感覚。
動かない。何ひとつ。金縛りにあったみたいに。声すら出ない。
なに一つ言えねぇ。言う資格すらねぇってことなのかもしれねぇけど。
俺はいつも女どもに見せていた笑みを浮かべて、まっすぐをみつめた。
動くことも出来ず、何も言うことが出来ない俺にできることはそれだけだったから。





















あぁ、そっか。





















きっと今までの俺は十分すぎるほど幸せだったんだ。
だからこれ以上、に傍にいて欲しいと願っちゃいけねぇんだ。
これ以上、羽根を踏みつけちゃいけねぇんだ。飛べないままにしちゃいけねぇ。
どこにでも行ける自由の翼がにはあるから。
飛ばないでいてくれたにこれ以上甘えることは許されない。
気づけなかった俺への罰だから。







は再び俯いて、そのまま俺の横をすり抜けていった。
そう、まるで風のように。音一つ立てず軽やかに。
途端に金縛りが解けた。小さな足音がだんだん遠のいていく。
わかっていても、追いかけるどころか、ふりかえることすら出来なかった。














「いいぜ。飽きてきてたとこだったし」
いつもの俺なら軽く言えた言葉。
「お前の代わりなんていくらでもいるしな」
いつもの俺なら笑って返せた言葉。
静寂な公園に響くそれは、今となってはただの強がりでしかなくて。





















嘘だったはずの真実。





















不意に笑いがこみ上げてきた。あまりにも馬鹿馬鹿しくて。
馬鹿馬鹿しすぎて自分でも笑ってしまうほどに。だって言ってる端から後悔してる自分がいるから。
「バッカみてぇ‥」
今さら気づいたって遅ぇっていうのに、なんで気づいちまったんだろうな。
から告られたとき嬉しかったのは、新しい玩具を見つけたからじゃなくて。
他の女で遊んでいたのは、いつもどおりなんかじゃ決してなくて。
少しでも気にしてほしかったから。見ていてほしかったから。
本当は俺も…  俺自身こんなにもを…














失ってから初めて気づくなんて間抜けな話。
今さら何を言っても遅いってことはわかってるから。
だからきっと伝えない。
伝えないけど、これだけはわかってほしいと思う。

自由の翼を持つ君は、間違いなく俺のたった一人の女性ヒトだった
誰も君の代わりにはなれないだろう。
優しい君を苦しめた代わりに、俺はずっとこの枷をつけていく。
もう届かない言葉。本当は鏡合わせだった心。














「愛してなんかいなかった‥」














それは愛する君に捧げる最初で最後の真実の嘘だから。
























はじめは遊び半分で形だけの彼女だったのに、いつの間にかかけがえのない人になっていたというベタな設定。
元ネタはPHAMELAHの『SPIRIT』。私と同世代のアニメ好きな方は聞けば聞き覚えがきっと…(苦笑)

2002/03/23



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