俺より先にきていることが多い彼女を出し抜いてやろうと、いつもより早めに家を出た。
待ち合わせは米花町駅の西口。
今日は志保のリクエストで映画を見る約束をしている。
映画が終わったら、どっかで食事だよな。
どこにしようかななんて考えていたその時、携帯が鳴った。
表示された名前はまさに今考えていた彼女。
「どうした?」
「ごめんなさい。今日、体調が悪くて、行けそうにないの」
「大丈夫か?」
「少し熱があるの。ただの風邪だと思うから心配いらないわ」
「そっか、気にすんな。ゆっくり寝てろよ」
「ごめんなさいね」
電話を切って、携帯をポケットに突っこんで、くるりと向きを変えた。
まっすぐ博士の家へ向かう。
インターホンを押して、出迎えてくれたのは博士。
「博士、アイツ寝てるか?」
「おぉ、新一。志保くんなら上じゃ、少し熱が出とる。わしゃ、薬を買ってくるから志保くんを頼んだぞ」
任せとけと答えて、教えてもらった2階へ向かう。
コンコン。
「博士?」
「俺」
「えっ・・・えぇ?なんで?」
「心配で看にきた。入っていいか?」
「・・・いいわよ」
がちゃりとドアを開けてみると、ベッドの上で赤い顔のまま起き上がっている志保。
「バーロー、おまえ寝てろって言ったじゃねぇか」
「バカはあなたよ。ただの風邪だって言ったじゃない」
「ただの風邪を心配してきちゃいけねえか?」
答えながら上着を脱いで、机の上に置かせてもらった。
机の椅子をベットの近くまで持ってきて座る。
「ごめんなさい、今日の映画」
「謝んなって。俺は今デートのつもりでいるけど?」
「出かけられないのに?」
「家ん中だってデートだろ?志保と一緒なら俺はどこだっていい」
俺としては本心を伝えただけのつもりだったが、志保の頬がみるみるうちに染まっていく。
「もう・・・熱、上がらせないでよ」
「本心なんだから仕方ねーだろ」
あぁ、まったくかわいいやつ。
たまらなくなって、その額にキスを落とすと、赤い顔の志保ににらみつけられた。
「うつるわよ」
「おめえのだったら大歓迎だって」
「バカね、あなたの推理力を必要としてる人が、この瞬間にいるかもしれないでしょう?」
「そうだな、悪い」
彼女の言うことはごもっともだ。
ここで俺が風邪をもらうと彼女が変な罪悪感を持つ可能性があることに気づいて、少し椅子を離して座った。
よくよくみてみれば、頬は少し赤くて、目はちょっとうるんでて、肩にかけたカーディガンから覗く鎖骨のあたりとか結構扇情的で。
・・・・うーむ。
「おめえと過ごせるのは幸せだけど、今のお前を看てるのは男としてはしんどいな」
「え?」
それはどういう意味なのか。
はじめは意味を計りかねていたみたいが、そのうち理解できたらしく、だんだん志保の目がジト目になっていく。
その意味が正解と答える代わりに口元へ笑みを浮かべる。
「信じられない・・・私は病人よ?」
「そんなこと言ったって、おめえが好きなんだから当然だろ?」
半分冗談だったけど、本当に不埒なことを考えそうになる。
もう少し離れようかと動いたら、志保はそれを席を立とうとしたと勘違いしたらしい。
「あら?もうデートはやめるの?」
やめる気はなかったけど、素直に答えるのは思いとどまった。
茶化した口調に合わない、あからさまに寂しいって訴える瞳。その表情。
「だって、今デートしたいのって俺だけだろ?」
ちょっと志保に本音を言ってほしくなって、わざと拗ねた顔をみせる。
志保は伝えようかどうしようか迷ったみたいで、顔を伏せてしまった。
やべ、強請りすぎたか?
わかってるって伝える為に志保の頭を撫でようと立ち上がったら、服の裾をちょっとだけ掴まれた。
「志保?」
「・・・デートしたいのも一緒にいて嬉しいのも、あなただけじゃないわよ」
あ。やべぇ、威力強すぎ。
ノックアウトされた俺は、そのまま勢いに任せて抱きしめてしまった。
「ちょっとっ・・・」
「さっき忠告しただろ?なのに俺を誘惑した志保が悪い」
「誘惑って・・・私はべつにっ」
かわいいかわいい俺の女王様。
熱い吐息が感じられてくらくらする。
言わせたのは俺だけど、でも、もう止まることなんてできなくて。
頬に手を添えて、その瞳を見つめながら本当にダメかどうかお伺いを立ててみる。
「志保」
「ま、待って、事件が起きたらどうするの?」
「白馬か世良に頼む。服部呼んだっていいし」
「うつったら次の約束が出来ないじゃない」
「次は俺の家にしたらいいだろ?」
「私が治る前にあなたが寝込んだらどうするのよ?」
「そしたら、ここで一緒に寝る。なぁ、だめ?なぁ・・・?」
鼻が当たるくらいの至近距離。
我が愛しの女王様に、俺は最後のお伺いを立てる。
早くその唇に触れたいんだって視線で訴えかけてみるのも忘れない。
「・・・もう、誘惑してるのはどっちよ・・・」
まわされた手。
許可が下りたのを確認して、俺はその熱い吐息を頂きに行った。






















ごめんなさい。新一くんはもっと理性があります。ないのは管理人です・・・
もう書いてて楽しくて楽しくて(笑)

2019/10/19



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