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もしアンタが仲謀様に仕えるってんなら考えてあげる。
おめぇが言ったんだぜ?
「ー」
「ぎゃああ!」
後ろから抱きつかれ・・・もとい、体当たりをくらって乙女らしからぬ悲鳴が漏れてしまった。
みなくても誰から何をされたかわかるあたりが悲しい。
「相変わらずかわいくない悲鳴だな。でも今日もはかわいいぜ」
「うっさい!」
耳もとでしゃべるな、くすぐったいから。
っつーか、引っ付くな。すり寄るな!重い!
「離れろ、ば甘寧」
力任せにひじで排除しようとしたら、かるく避けられた。
くっそぅ。
「なぁ、。今日こそ俺のとこに嫁に来いよ」
「行かないわよ!」
夢にまでみた男性からの求愛の言葉。
うっとりする?
アホかっ。
決めたつもりでいるバカに、間もおかず即答で断ってやった。
理由は簡単。
「アタシには許嫁がいるって知ってるでしょ!」
従兄弟であり幼馴染であり、我が主君でもある仲謀様とアタシは親同士が決めた許嫁だ。
アタシが生まれる前から決まってたから、呉にいる武将は皆知ってる。来たばかりだけど、このバカだってもちろん知ってる。
「ああん?そりゃ予定であって、まだ婚姻結んでねぇんだろ?」
「ふつうはね、他人の許嫁を口説いたりしないの!」
だいたい、いくらまだ婚姻を結んでなくても主君の・・・というか、他人の許嫁を口説かないでしょーが。
なに考えてんだ。
非常識なのはその格好だけにしてよ。
そもそもなんで鈴はつけるのに上の服は着ないのよ。
百歩譲ってそれでもいいけど、それでアタシに抱きつくな!
「孫権様がいいっつったんだから気にすんなよ」
「いや、アンタは少し気にしなさいよ!」
そう、アタシの許嫁である仲謀様は甘寧が騒いでるのを知ってる・・・というか、甘寧の様子に仲謀様は止めるどころか、信じられないことを仰ったんだけど。
「お?よお、アンタ、戦場であった奴だな?」
「え?・・・アンタ、こんなとこで何してんの?!」
「何って、約束通り降りにきただけだぜ」
「はあ?アンタ、バカじゃないの!?」
「?」
「なんでもありません、仲謀様。こんなやつ知りませんからさっさと追い出してください」
「へぇ、アンタが孫権様か。おい、約束だぜ?こうして来たんだから名前教えろって」
「・・・。」
「ね。、アンタ、男はいんのか?」
「個人的なことをあなたに話すつもりはありません」
「は私の許嫁だが・・・?」
「許嫁?ってことは、まだって事っすね?じゃあ、俺にください」
あー・・・今、思い出しても頭が痛い。
お父さん、娘さんを私にくださいってやつ?
いやいやいや、降った武将がこれから仕える主君に一番最初に言う挨拶じゃないって!
「俺、に惚れちまったんです。駄目っすか?」
「な、何言ってんの、アンタ?!」
「がいいなら、私はかまわないが」
えぇ?えーーー?!?
何言ってんですか、仲謀様。
いやいやいや!
駄目でしょ?
駄目でしょ。
駄目でしょっ!!
たしかに、お互い家族みたいに思ってるから恋愛感情はないけどさ、約束した私の父も孫堅様ももういらっしゃらないけどさ、婚約を解消しようかって冗談で話が出たこともあるけどさ、そういう問題じゃないっての。
大広間の、しかも皆の前で繰り広げられたこの話は瞬く間に広がり、仲謀様から許可をもらったってことで、誰か止めてくれる人もなく。
降ってきたその日からこのバカの猛攻を受け続けて、現在に至るんだけど。
「好きになっちまったんだから仕方ねーじゃねえか。なぁ、嫁に来いって」
「アタシはアンタなんか好きじゃない」
毎日毎日うっさいし、すぐ抱きつくし、重いしあっついし。
まさか本当に降ってくるなんて・・・信じられないバカだし。
「アタシは周瑜様みたいな人が好みなんだって何回言わせるの!」
我が軍最高の頭脳を誇る軍師、周公瑾様。
頭が良くて思慮深く、剣舞のような剣術とそれに似合う美しさ。
軍師としても武将としても男性としても、もう完璧!
このバカとは正反対だわ。
「軍師さんに聞いたけど、おめぇは好みじゃねえって言ってたぞ?」
「うっさい、バカぁ!」
知ってるわ!
アンタがバカでっかい声で聞いた言葉を繰り返したから、イヤでも知っちゃったわ。
うすうすは知ってたけど。知ってたけどさ・・・もう泣きたいわ!
うわーん。密かに周瑜様の追っかけしてたのにー。
・・・遠くから見つめてるだけで幸せだし、いいんだ。いいんだ。
ふーんだ。ぐすん。
「ーなぁー」
あーもうほっとこう!
まだ後ろで何か言ってたのは聞こえたけど、アタシは置いて歩き出した。
こんなことで叫んでたら朝から疲れちゃうし。
さてと。今日は朝稽古の日じゃないから、まずは厩へ先に行って・・・
なんて、考えてたら、突然それは来た。
「オラオラオラぁぁーーーーー」
「ぎゃああぁぁぁーーーっ」
がっしり腰を掴まれて、すごい勢いで景色が後ろへ流れていく。
舌噛んじゃうから心の中でだけ叫ぶ。
こんなとこで無双乱舞かますな、ばかぁーーーー!
連れて来られたのは庭の端。木が背中にぶつかった衝撃でアタシは思いっきり咳き込んだ。
「げほっげほっ・・・」
もう!突然なんなのよ!
むせ込んで文句も言えなくて口元を押さえていると、腕が伸びてきた。
「」
「な、なによ?」
近い。
いつも距離の近いやつだけど、なんだか空気が違う。
「わかってんだろ?俺、本気だって」
ただまっすぐ見つめてくる瞳。
強い意志、強い想い。
目で伝えてくる。
アタシが好きだ、と。
「・・・っ」
「なぁ、・・・」
ドキン。
うっそ。
やばい。うそでしょ?
・・・・・・え?え?
このバカに、本気ですか?アタシ。
バキッ!!
「いってーーっ!!」
「あ、ごめん」
バカばっかり。
一番バカなのは、こんな毎日に喜びを感じ始めてるアタシ?
バカなのは管理人です。無双なのに横文字いっぱいですみません。でもこういうノリ、好きです。
戦場でいきなり口説く甘寧が書きたいと思ったんですが、あまり面白くならなかったので、やめました。
甘寧が呉にきた頃はもういいお歳ですが、スルーで。
2019/10/01
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