「野田、なにやってんの?お、知恵の輪じゃん」
「ん〜ちょっとね〜」
肩にかかった南の手を退けて、また視線を銀色の輪っかたちに戻した。
雰囲気でなんか感じたのかな?
うっちーが向かいの席に座って顔を覗き込んできた。
「な〜に〜?」
「野田、なんかマジでやってねぇ?」
「まぁね」
笑いつつ、視線はもう一瞬だって上げない。
うっちーの言った通り。実は俺、結構コレにマジで取り組んでたりする。
「珍しいじゃん。野田って、こういうの嫌いじゃなかったっけ?」
「まぁ、そうだね〜」
後ろからの南の質問に視線を移さず答える。
またまた当たり。
俺はどっちかって言うとこういうのって得意じゃないし、面倒だからやらないタイプ。
なんだけど、今回は話が別なんだよね〜









話の発端は今から約1時間前の屋上。
授業を早々とエスケープした俺は、体が足りないと訴える睡眠をとるために屋上へと向かった。
ろくに掃除もされてない汚い階段を昇り、ボロい扉を押し開ける。
途端に温かい風が俺の頬を優しく撫でていく。
ん〜気持ちいいv
やっぱ保健室じゃなく、こっちに来て正解だった。
「‥あれ?」
誰もいないと思っていた屋上に一つの背中。その後ろ姿だけで十分誰なのかわかる。
この白金学園にいる数少ない女の一人。
俺らの担任であり、俺の愛しの彼女であるヤンクミだ。 珍しいじゃん。ヤンクミが一人で此処にいるなんて。
「ヤンクミ〜」
「…」
べつに小さく言ったつもりはないけど、ヤンクミは背を向けたまま気づいている感じがしない。
腕が動いている辺りから、どうやら何かに熱中しているらしい。
いつもなら他の誰かなら、無視されたらムカついただろうけど、今は全然。
ヤンクミの姿を見つけただけで、俺は信じられないくらい上機嫌になっていた。
「ヤンクミ〜何してんの?」
呆れるくらい無防備な背中に思いきり抱きつく。
このことにヤンクミは本当に驚いたみたい。
俺の腕の中で、ヤンクミの体が少し飛び上がったのがわかった。
「野田!…お前、授業サボってきたな?」
「そういう自分だって、今日中にやらなきゃいけない資料のまとめがある〜とか言ってなかった?」
「う゛っ‥。わ、私はこの後やるつもりだからいいんだよ!」
ってことは、まだ終わってないってことね。
「じゃあ、俺も後で自主学習するからいいの」
「野田が?本当か〜?」
ジト目であからさまに疑わしそうに見つめてくるヤンクミ。
その視線からちょっとだけ明後日の方向に逃げて。
思い出した俺はヤンクミの手を指差した。
「そんなことはどうでもいいとして、何してたの?」
「コレか?知恵の輪だよ。なかなか難しくってな〜お前もやってみるか?」
ヤンクミの手の中で銀色に光る複雑な形の輪が四つ。
差し出されるまま受け取って、ちょっと適当にいじってみた。
「難しいだろ?」
「ん〜」
右に回しても左に回しても捻ってみても、カチャカチャ音はするけど、外れる様子は全くナシ。
どうなってんだろ?コレ。
「野田じゃ無理か〜沢田なら、こういうのは簡単にホイホイ解けそうだよな」
ヤンクミの口から慎の名前が出て、ちょっとだけムカついた。
「うっさいな。俺にだってこれくらい解けるよ」
「じゃあ、放課後までに解いてみろよ。自力で全部外せたらご褒美やるから」
「ホント?ホントに?約束だからね」








で、現在に至ると。
当然ご褒美の言葉に釣られたのは言うまでもない。
だって俺、正直なところ、時間さえあれば解けるだろうって甘く見てたもん。
けれど、この輪っかたちは考えてたより遥かに強敵。
約1時間かかって1個も外れてないなんてヤバすぎじゃない?
こういうものは閃きが大事なんだって聞いたことあるけど、なかなか出ないんだよね〜
まぁ、だからこそとりあえずカチャカチャ鳴らしてみてるわけだけど。
「ちょっと貸してみ」
「ダ〜メ!」
手の中から攫われた銀色くんたちを即行で奪い返した。
俺が自力で解かなきゃ意味がない。ズルなんかしたくないし。
「これは俺に与えられた試練なの!」
「はぁ?」
ワケがわからず首を傾げるうっちーたちを無視して、俺は黙々と格闘を続けた。









授業の終了を告げるチャイムが鳴ったとほぼ同時に、俺は教室を飛び出した。
向かうは職員室。
もちろん、ヤンクミに勝利を伝えるためにだ。
だけど、急いで行った職員室にヤンクミの姿がない。
「あれ?ヤンクミいない?」
「山口先生だったら、まだ戻ってきてないわよ」
側にいた静ちゃんに教えてもらって、ちょっとだけ照れた。
今はヤンクミが一番好きだけど、静ちゃんのことを嫌いになったわけじゃないから。
「野田!」
「ヤンクミ〜コレ、解けたよ」
「お、ホントだな。ほら、ご褒美」
笑顔とともに差し出された物に顔をしかめる。
「えぇ〜缶コーヒー?」
「文句言うな。私が奢ってやるんだから有難く思え」
せっかく授業中、先公の目を盗んで解いたのに、ご褒美が缶コーヒー1本じゃ悲しい。悲しすぎる。
「どうせならこっちがいいな」
なんて、言い終わるかといううちにヤンクミの唇をかすめ取った。
これくらい貰ったってバチは当たらないよねぇ?
「なっ?!なにするんだバカ!」
「いって〜」
当然ヤンクミからパンチももらっちゃったけど、俺は十分満足だったりした。





















オチなしで申し訳ない。始めはヤンクミをもらう予定だったんですが、キスで抑えました(笑)
初がいきなり裏行きじゃねぇ……(苦笑)

2004/06/24



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