時々 ふと思ってしまうことがあるんだ

あたたかく包んでくれるこの腕も 柔らかいキスをくれるこの唇も

いや 自分を愛してくれているこの存在 それすらも

そのすべてが もしかしたら………
















ふと、士度は目が覚めた。明かりの灯っていない室内は薄暗く、時を刻む音がいやに響く。
目を凝らし闇の先を見ると、まだ2時半。草木も眠る丑三つ時である。
なんでこんな時間に起きちまったんだ?
ガシガシと頭をかいて再び寝ようかと考えたが、不思議と寝る気が起きてこない。
目が覚めてしまったらしい。
となりに寝ている人を起こさぬようにそっとベッドから抜け出して士度は外に出た。
満月ではないが、まわりが見渡せるほどに注がれている月明かり。寒いせいか空気が透き通っているかのように感じられる。
綺麗だな‥
もっと近くで見たくなって屋根の上にでも上がろうかと思ったとき。
「なにやってんだよ」
苛立った声が後ろからかかった。
いつの間に来ていたのか。
腰に手をあて、不機嫌そうな蛮が立っていた。
その姿は軽く上からシャツをはおっただけである。
寝ていたはずなのに起こしてしまったのか?
「くしゅん!」
「バカか?なんて格好で出てくるんだ。風邪ひくぞ」
薄着のまま出てきた蛮を叱咤し、自分がきていた服を着せる。
「いいって。お前のほうが風邪ひくぜ」
「俺はお前と違って丈夫なんだよ。いいから着てろ」
「それより中に入ったほうが早いって」
心配する士度を促して腕をひいた。





「おい、どうしたんだ?」
部屋に戻ったとたんに抱きついてきた蛮に驚いた。
「べつに。なんでもねぇ」
「なんでもねぇってことはねぇだろ」
情事のときでもなければ蛮が士度になついてくることはない。
ふり払われたりしたことはないが、温かさを感じさせない程度にそっけなくて。
もっとも、士度も蛮が素直に甘えてくれるタイプじゃないなんてことはわかっていたから要求しなかった。
だから今の状況は嬉しくもあるのだが、驚きのほうが強かった。
話してくれる気はないらしく、蛮はそのまま黙ってしまった。
でもなにか言ってくれるだろうと士度は言葉を待った。





抱き合ったまま、どれほどの沈黙が過ぎただろう。
添えるだけになっていた蛮の腕に力が入った。
そして、たった一言。














「慣れねぇ‥」














独り言のような小さな言葉を士度は聞き逃さなかった。
見た目よりずっと小さい背中を強く抱きしめる。
胸を覆うなにかから安心させてあげたくて背中をポンポンと叩いた。




















慣れない。










いったいなんのことなのか士度にはわからなかった。
わからなかったけど、なぜかわかった気がした。
蛮が言いたいこと。思ったこと。
これを説明することはできないけれど。



知り合ってからまだ数えられるほど。
お互いが理解できるほどの時間もまだ過ごしてはいない。
顔合わせれば喧嘩ばかりで、自分たちは肝心なときに言葉が足りないと感じる。
今だってなにも言わない。言えない。
けれど、ここにあるたしかなぬくもり。
なにも言わずにそばにいるだけでも通じあえるものはある。
震える腕の中の存在がこんなにも愛しくて。
一番大切なことは理解っているかではなく、相手を理解ろうとしているかということ。















たとえ 今が一瞬の夢だったとしてもかまわない

かまわないから まだ覚めないでほしい


言葉がすべてじゃないけれど でも伝えたいと願うから

そして抱きしめてくれるこの存在に まだ なにも伝えられていないから


















また同じような話で成長が見られない。蛮ちゃんには幸せになって欲しいです(意味不明)

2002/10/22



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