からだが求めるのはたった一人。
それを本能というのなら、守りたいと願うのは?ずっとそばにいたいと願うのは?
わからない。俺はいったいなにを信じればいいんだろう。
















月明かりもない真っ暗な夜。星だけが頼りなく瞬いている空の下。
窓の外に誰かの気配を感じて士度は体を起こした。ベランダに誰か立っているのがなんとなく見える。
カーテンを開いて窓を開けると、そこにあったのは思った通りの人物。
闇に溶け込む漆黒の髪。こんなに暗いのに視界は平気なのか、サングラスをかけている。
高貴な色と言われる紫をおびた蒼の瞳。
奪還屋、Get Backersの美堂 蛮。
「よぉ、猿マワシ」
軽い口調で片手を上げ、挨拶もそこそこで蛮は部屋に上がり込んだ。
士度は呆れたように(というか実際呆れているのだが)ため息をついて蛮を見た。
「やっぱりてめぇか。なんだよ、こんな時間に」
「野暮なこと聞くなよ。わかってんだろ?」
咥えていた煙草を灰皿に押して消すと、蛮は士度のほうにふりかえった。
顔はちゃんと見えていないのに、なぜか笑っているのがわかる。
誘われるがまま抱きしめあって、荒々しくキスを交してベッドへとなだれ込む。
この妖しく甘美な誘惑に抗う術を士度は知らない。知りたいとも思わない。
相手のために、自分のために、感情と本能に流される。







「んぁっ、はっ‥あ‥‥あっ!」
室内に響く普段より1オクターブ高い声。暗闇のなかに浮かびあがる白い身体。
既に両手じゃ足りないくらい繰り返されている行為なのに、何度その身をこの腕に抱いても余裕なんか生まれてこない。この熱すぎる熱に慣れることもない。
ただがむしゃらに。ケモノの本能のままに欲望のすべてをぶつけるだけ。
「やっ‥も‥も‥」
はっきりいってわからないことだらけだ。
初めてのときから一度だって優しくなんかできていないのに、なぜ美堂は俺のもとに訪れるのだろう。俺になにを望んでいるのだろう。
以前、聞いたことがあったが、うまくはぐらかされてしまった。
今日こそ、今日こそは‥
「‥み、どぉ‥‥‥くっ!」
「ああぁっ!」
























…………だめだ。また伝えられない。
























明け方。まだ室内は薄暗かったのになぜか目が覚めた。
となりを見たが蛮の姿は既にない。
「やっぱりな」
苦笑混じりに士度は呟いた。 いつものことだ。
ふらっと前触れもなく訪れて、士度の目が覚める前に消えてしまう。
夢なのではないかといつも思うが、灰皿に残された煙草がたしかに現実だったと教えてくれる。
士度は灰皿の上を確認すると、ゴロリと寝転んで天井を仰いだ。
なぜ美堂はなにも言わないんだ?
ちゃんと伝えられていないけど、俺の気持ちに気づいていないはずはない。
何故ここにくる?銀次がいるくせに、答えは決まっているくせに何故?
考えれば考えるほどわからなくてため息が出てしまう。

気分を切り換えようと窓を開けた。突き刺さるような外の風で凍えそうだ。
いや、既に凍えてる。
体に走った震えはきっと寒さからだけじゃないはずだから。





伝えたいと願ってる。だけどわかっている。
きっと俺からは伝えられないのだということ。
終わりにさせたくないから。だから言わないでほしい。
このままずっと気づかないふりをとおして。







心の伴わない逢瀬。なんて冷たいものなのか。
いつか、伝えられる日がきたらいいのに。









望む夜明けはまだこないままで…


















書き始めたら思ったより長くなってしまって収拾がつかなくなってしまったので大幅削除。
喘ぎ声だけで私の裏ヘタっぴさがわかりますね。もっと色っぽく書けないもんだろうか

2002/10/28



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