美堂は押し黙ったまま、小箱を見つめていた。俺も黙った。
だって、今までこういうことは、やったことがなかったから。
おめでとう以外になにを言ったらいいのかわからなかった。

沈黙が妙に重く感じて、隣に来て座った美堂に倣って俺も座り、咳払いを一つした。
そして、箱を開けずに引っくり返したり振ったりしている美堂の腕を掴み、瞳をまっすぐみつめて聞いた。

「なんで言わなかったんだ?」

とにかく、美堂に会って一番聞きたかったことだった。
一緒に祝いたい云々はともかく、その日のうちにおめでとうくらい言いたかったから。
………素直に言えるかどうかは別問題として。

「誕生日だって、なんで教えてくれなかったんだ?」
「べつに。テメーに教える義理はねぇだろ。だいたいもう誕生日を祝うって年でも…」
「蛮」

言いかけた言葉を遮って、俺は美堂の唇を塞いだ。
何度も何度も、触れるだけのキスをくり返して真顔でみつめた。
俺は、プライドに作られた偽りを聞きたいんじゃない。美堂 蛮の心が聞きたいのだから。

「なんで言わなかった?」
「…………………」
「美堂?」
「…嬢ちゃんの、コンサートがあるって言ってただろ?」

まるで拗ねている子どものような顔。
つまり天秤にかけられるなんてまっぴらごめんだということらしい。

「テメーが嬢ちゃんを選んだら腹立つし、かと言って俺を選んだとしても嬉しくねぇ。知らなかったなら、仕方ねぇから…」
「それで?割り切れたのか?」
聞くまでもないことだった。うつ向いている美堂の表情は晴れていない。
「…わかんねぇけど」
「言いきれねぇってことは割り切れてねぇんだろ」
俺は立ち上がると、なにも言わずに手を出した。
しかし美堂には差し出された手の意味がわからなかったらしい。

「なに?」
「埋め合わせしてやる、17日の。なんでも言えよ」
「コレ、くれたじゃねぇか」
「それじゃ足りねぇ気がするからなんかやる。なにがほしい?」
「いきなりそんなこと言われたって‥なんにもねぇよ」

普段はあんなに傍若無人な振る舞いをするくせに、何故こんなときに限って無欲なのか。
美堂の本心を垣間見た気がして、急に切なくて堪らなくなって、力任せに美堂を抱きしめた。
「今度はなんだよ?」
声は不機嫌なままでも美堂はおとなしかった。
自惚れかもしれないが、美堂は嫌がっていないと思う。
もしかしたら今の俺と同じ気持ちなのかもしれない。

「なんか急に抱きしめてぇなぁって思って」
「それじゃ俺の希望っ‥んぅ‥」
閉じられる前に舌を潜り込ませて逃げる舌先を追う。
目を閉じたままでも美堂の口の端から唾液が伝っていくのがわかった。

「は‥ぁっ‥お‥‥おい、ちょっ‥待てって」
「なんだよ?」
「テメー、ここがどこだかわかってんのか?」

それだけで美堂の言いたいことがわかった。
荒い息と潤んだ瞳で睨まれても、いつもの迫力はないけれど。

「さぁな。忘れた」

美堂の傍にいればいるほど、俺はどんどんバカになっていく。
常識とか、モラルとか、そういうものが霞んで目の前のコイツ一色になっちまう。
「やっ‥さる‥」
弱い首筋に唇を這わせると、いつものようにビクビクと美堂の体が跳ねる。
その様に危うく本当に流されそうになるが、このままここでヤればヤバいと判断できる程度の理性はまだ残っていた。
俺は美堂の首筋に口付けたまま、美堂を抱えると、二階の俺の部屋の窓へと飛んだ。
そして美堂をベッドに寝かせて誰も入れないように中から鍵をかけると、再び美堂に覆い被さった。

「猿マワシ?」

無防備に見上げる表情はあどけなくかわいくて。涙に潤む瞳はゾクゾクするくらい綺麗で。
でもそれ以上は、言葉の少ない俺には言い表すことができない。


「え?あれ?」
「ここならいいだろ?」
「ちょっ‥ぁん‥」



与えているのか、与えられているのか。酔っているのか、酔わされているのか。
頭が真っ白でなにもわからなくなる。どんな擬態も敵わない。
俺は魔女の唄で完璧な獣へと変化する。


















すみません。頭ん中が腐ったままで作ったので微エロ続き(殴)

2003/01/15



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