「だって」という言葉は 言い訳でしかないのだ



















「あれ?士度って蛮ちゃんの誕生日知らなかったの?」
花月からもらったチョコレートを食べながら、銀次は驚いて士度の顔を見た。
「銀次、アイツが俺に教えてくれると思うか?」
「え、でもさ〜」
そんなわけないと言外に言う士度に銀次は反論した。
もともとそういうものに全くこだわりを持たない蛮なのだが、士度に関すると変わってくる。
蛮の性格からして素直にではないだろうが、自分に士度の誕生日を聞いたときのようにそれとなく話しているだろうと思っていた。
だから銀次は、当然士度は知っているのだと思っていたのだ。
「つまり士度は、美堂くんになにか贈りたいんだね」
「…うるせぇ」
そっぽを向いて、でも否定はしないその姿に、思わず花月は苦笑した。
これが蛮だったら同じようにするのだろうと思い、その姿が目に見えたからだ。
普段は喧嘩ばかりして、まったく気が合わないかのようだが、本当は愛情表現が下手なだけ。
好きだから相手につっかかっていって、だからすぐに喧嘩になってしまう。
あまりにも不器用な二人。
たとえ素直に言葉や態度に出せなくても、士度も蛮も。
お互いに思っているほど、お互いが好きなのだと花月たちはわかっている。
もっとも、本人たちはそれを認めたがらないが。









「あっ!」
ずっと黙ってなにかを考え込んでいた銀次が不意にポンと手を叩いた。
「どうした?銀次」
「わかった!だからパーティのとき蛮ちゃんが…」
「銀次さん」
言いかけた銀次の言葉を遮ると、花月はくいっと首を右にやった。
「あれ?蛮ちゃん」
遠目から見てもわかるくらい不機嫌そうな顔をして、蛮はこっちにズンズンと歩いてきた。
そして士度のほうをまったく見ずに銀次に怒鳴った。
「お前はこんなところでなに油売ってんだ!行くぞ」
「じゃーね、カヅっちゃん、士度」
引っ張られていく銀次を見送りながら、花月は士度に話しかけた。
「ところで、さっきの話の続きだけど、美堂くんへのプレゼント、指輪なんてどうかな?」
「…花月、俺を殺す気か?」
士度が真顔で言ったせいか、花月は口に手を当て苦笑した。
「たしかにね。彼も君同様、かなりの照れ屋みたいだから」
「俺はべつに‥」
「僕は士度からのプレゼントなら美堂くんはなんでも喜ぶと思うよ」
絵になる笑顔を残して去っていく花月の背中。
すっかり見送ってしまってから、結局悩みはなにも解消されてないことに気づく。
「チッ‥」
舌打ちをしてベンチに座りなおすと、再び一人で考え込んだ。









さて、本当にどうすればいいのだろうか。
せっかくの花月の提案だが、指輪なんて贈れるわけがない。
渡そうものなら殴られて右手の餌食になるのがオチだ。
もっと何気なく貰ってもらえそうで、普段アイツが持ち歩いててなんの違和感もないもの…
「…って言ったらアレくらいしかねぇか」
ガシガシと頭を掻いて、古ぼけたベンチから立ち上がる。
目指す目的地にまっすぐ向かって歩き出した。
















「急に呼び出して、なんか用か?」
ポケットに手を突っ込んで、当たり前のように玄関ではなく塀を飛び越えてきた。
昼間に会ったときと変わらない、相変わらず不機嫌そうな声だ。
もっとも、コイツが俺と顔を合わせるときはいつもこんな感じで、機嫌が良さそうなほうが珍しいのだが。
「さっさとしろよ。俺はテメーと違って忙しい…」
「美堂」
不意打ちで名前を呼んで投げたのに、大して驚きもせず美堂はそれを受け取った。
右手の中に収まってしまうほどの、小さな細長い箱。
それを選ぶのにいったいどれくらいの時間がかかったか。
コイツにはきっとわからないだろう。
「は?なんだよ、これ?」
「誕生日プレゼント。遅いけどな」




















「おめでとう」




















何回も何回も、くり返し練習した言葉。
言い慣れてないからかもしれないが、やっぱり面と向かうと照れてしまう。
今まで、なぜ人が生まれた日を祝うのかわからなかった。でも、今ならそれがわかる気がする。
嬉しい、というのだろうか。この気持ちに対するうまい言葉は浮かばないのだが。
目の前のコイツが生まれてきてくれたこと。
ここに、俺のとなりに存在すること。
その奇跡ともいうべき幸運に感謝を言いたい気持ち。
「おめでとう、美堂」

























士蛮だったらどんな誕生日を過ごしただろうか? 年が変わってからそう思って書いたやつです。

2003/01/15



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