「お、おいっ!」

まだ何か言おうとした唇を塞ぐ。
おそらく煙草のせいだろう。合わさった唇は少し苦くて、とても甘かった。
軽く下唇を舐めて、ゆっくりと瞼を上げる。
閉じる前と何も変わっていない視界。
自らの命を賭してもただ一つ、これが欲しい。

「美堂」

名前を呼んだら、美堂の瞼も静かに上がった。
放心していたのか、始め表情が少し虚ろだったが、我に返ったんだろう。
すぐに紫蒼の瞳に鮮やかな彩が戻ってきた。





「美堂‥」


















背に手を回しなおし、もう一度その唇に触れようとした次の瞬間。

俺がまったく予想していなかったことが起きた。


















「ぷっ!クックックッ‥ははは!」


















美堂が俺の顔を見つめたまま、盛大に吹き出したのだ。























「美堂?」


突然狂ったように笑い始めた美堂に、驚きを隠せない。
いったい、どうしたっていうんだ?今のことがそんなにショックだったのか?
俺の表情から考えていることがわかったらしい。
美堂は俺の肩に手を置き、笑ったままだったが謝ってきた。





「あぁ、悪い。テメーは本気なんだな?」
「当たり前だ。じゃなきゃテメー相手にこんな真似するかよ」
「そっか。そりゃあ、そうだよな」
クスクスと笑いをこぼし、美堂は俺の視界から消えた。
端で揺れる黒い髪。服ごしに伝わる温かさ。
突然抱きつかれて思考が停止する。

「テメーは冗談でこんな真似したがる奴じゃねぇ‥」

耳もとで囁かれた吐息混じりの声のおかげで心拍数が跳ね上がる。
耳から首筋へ滑る濡れた感触に、ゾクゾクしたものが背筋を走った。


















「おい、美堂‥‥ッ!」

我に返った途端、電気のようなビリビリした痛みが駆ける。
顔を上げた美堂は、まるで悪戯が成功した悪ガキのような表情をしていた。

「これでテメーは俺のモン、と」

楽しそうに告げたその言葉の意味を、わざわざ訊く必要はなかった。
美堂の瞳に、俺と同じものを見つけたから。
そっちがその気なら、こっちだって負けてはいられない。
美堂の体を床へと引き倒し、半ば引き千切るようにしてシャツを剥いだ。





「おい、跡残すなよ」

「人には付けておいて、よく言うぜ」














君とのキスはやっぱり苦い。

でも、この苦さが僕を虜にして止まないんだ。



















長々と引っ張りましたが、好みシリーズ(?)これにて終焉です。
ホントは蛮ちゃん視点を入れたかったんですが、それはまた気が向いたらってことで

2003/11/03



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