ぐるっと辺りを見回して、昨日の記憶を呼び戻したとたんに体に震えが走った。
「寒ぃな」
火の気の失せた室内は寒すぎて頭の中がクリアになる。隣で寝ているやつに起きる気配はない。
今目覚められると間違いなく赤面してしまうだろうから起きないでもらったほうが都合がいいのだが。
「……はぁ〜……」
大きなため息は見えないままとけ残る。
自分で思い返してみても、昨日の自分はらしくなかった。
「まったく、新年早々の恥だな」
くだらない悪夢に脅えて気がつけばここに足を向けていた。
去年最後の夢。いつ現実になるともわからない、いや、すでに現実かもしれない夢。
縋りつきたくて、でも負担にはなりたくなくて。
揺らぎを抱えたままのばした手を彼が取ってくれたから。
いつもと変わらず笑ってくれたから安心してしまって。酔いに任せて余計なことまで口走ってしまった気がする。
ため息は出るが仕方ない。忘れててくれることを祈るばかりだ。
そんなことよりも。
『なにがおかしい?』
「………完全に無意識だったよな」
のばした手を受け止めてくれたこと。震える手を握り返してくれたこと。
コイツは本当に俺を喜ばせるのがうまいと思う。
俺より馬鹿なくせに肝心なところを絶対に落とさない。
ちゃんとわかっているわけじゃないとは思うが。
いったいどこまで心赦してしまうだろうか。
「なんか悔しいけどしかたねぇか」
抑えなんかきかないって諦めてるし、なにより嬉しいのだから救いようがない。
ため息がこぼれて今更ながら自分の格好を認識した。熱を持ったまま素早く服を着るとふりかえった。
部屋を支配する規則正しい寝息。
まだ少し熱い頬をかいてベッドに腰かけると、ずれた布団をかけなおしてやった。
くせのある黒髪を撫でて軽く唇を落とす。
「今年もよろしくな」
やっぱりらしくねぇと自分を笑って部屋を後にした。
今年は去年よりお世話になるかもしれねぇな。
まだ慣れない窓を見上げて、そんな予感がした。
最初は本当に夢のつもりだったんですが、どうやら夢じゃなかったみたいですね。(思いっきり他人事)
士度と蛮ちゃんの間でこの日のことが話されることはありません。
士度は夢だと思ってるし、蛮ちゃんは恥だと思ってるし。
2003/01/10
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