なにもわからなくて なにも見えなくて 暗闇の中をさ迷い歩き しかし一度も光は望まず 己の運命に嘆き救済を求め しかし神すら信じずに 届かぬことを知りながら ただ無心に祈りを捧げていた たった一瞬でもいいから、と 「おい、起きろ」 その日はいつもより少し乱暴に揺り起こされた。 目を擦り、寝惚け眼で見上げると目についたのは逆だった金色の髪。 かつて裏新宿で最凶最悪の少年グループと言われたVOLTS。 そのリーダー、無限城の雷帝。もう一人の天野 銀次。 「銀次!てめぇ、雷帝にっ‥!」 怒鳴りつけようとした蛮に得体の知れないポヨポヨしたものが飛びついた。 「蛮ちゃ〜ん!」 「なっ‥」 蛮は驚きの余り、言葉を失った。 自分の腹に引っ付いているのは間違いなく銀次だ。 しかしベッド際に立ち、自分を見下ろしているのも銀次だ。 蛮は頭痛を覚えて思わず額に手を当てた。 「いったいどうなってんだよ‥」 「‥というわけなのです」 タレた銀次がペコリと頭を下げた。ここはHONKY TONK。 とつぜん起こったこの喜劇とも言うべき悲劇の対処法がわからず、銀次が声をかけて(半ば泣きついて)それぞれに知恵を出してもらおうと集まってもらったのだ。 なかには面白いもの見たさに集まった者もいるが、そうだとしても咎められはしないだろう。 「それじゃ、原因がまったくわからないんですね?」 静かに話を聞いていた花月が確認するように聞いた。 「うん。朝起きたらこの状態で」 「なんか変なものでも食べて、それがあたったとか?」 頬に手を添え、ヘブンが一番有り得そうな仮説をたてる。それを聞いた卑弥呼が怪しそうに顔をしかめた。 「食べ物にあたったくらいで分裂なんてするかしら?」 銀次が大飯食らいなことはここにいる全員が知っている。 たしかに好き嫌いは一切ないからなんでも食べる(極度に腹が減ると蛮の腕も) 人間は食べないものも口にしそうではあるが、それでも人間を分裂させるような食べ物はないはずである。 「それはねぇよ。俺も同じもの食ってるから」 煙草を吹かしながら蛮は否定した。 そう。基本的に蛮と銀次は寝食を共にしている。 当然昨日食べたものも同じだが、蛮にはなんの異変もない。 もっとも、その量は銀次のほうが倍以上なのだが。 「ねぇねぇ蛮ちゃん、やるよね?今日の蛮ちゃんの誕生日パーティーちゃんとやるよね?」 ちょっと不安そうに聞く銀次に、蛮は笑顔を見せた。 「そうだよね。やるよね。良かった良かっ……はうっ!」 思いきり足の下にされ、銀次はタレたまま手をビチビチとさせた。 「このボケっ!それどころじゃねぇだろーが!」 「だって俺、ずっと楽しみにしてて‥」 「物事を深刻に考えねぇのはテメーらしいけどな、のーてんき過ぎんだよ!」 ムカつくと怒りを露にしている蛮と、タレた銀次が足蹴りを受けている様を見て、くくくっと雷帝が楽しそうに笑った。 それに気づいた蛮がピクっと反応して雷帝につっかかっていく。 「随分と余裕じゃねぇか。なにか知ってんのか?」 「べつに」 ふいっと顔をそらされたのが気に入らないんだろう。蛮の額に青筋が一つ増えた。 「おい、なにか知ってんなら…」 教えろと言いかけた唇は塞がれた。ピシっと周りと共に蛮と時間が凍りつく。 「あ゛―――っ!!!」 銀次は蛮たちを指差し特大の叫び声をあげると、蛮の腕を引っ張って今度は自分がキスをした。 しばらくはなにが起こっているのかわからなかったらしいが、ハッと我にかえったとたん、蛮の右ストレートが入る。ポヨンポヨンと跳ねながら銀次は床を転がった。 「蛮ちゃんなにするんだよ〜」 ヒドイ‥と涙を浮かべる銀次に、顔を赤くして蛮は怒鳴った。 「それは俺のセリフだ!」 「なんで怒るの?俺はただ消毒を‥」 「消毒もなにもあるか!」 「だってヤダもん」 「ヤダもんじゃねぇ!」 怒った蛮のスネークバイトが飛び交い、そのまま店内は大騒ぎになった。そんな中、カランと小さな音がした。 雷帝が出ていったのに気づいたのは、たった一人だけだった。 強すぎる祈りは届かず、まだ互いの心のなかに… 書きたいなと思っていた雷サマと銀次くんが分裂するお話。 理由にちょっと困りましたが、蛮ちゃんの誕生日で落ち着きました(落ち着かせたとも言う) この続きは蛮ちゃんの誕生日に。 2002/11/01 |