あの瞬間からずっと秘めている

言葉には出せないこの想いの代わりに


今日は聖夜ではないけれど

空まで届くように小さく強い祈りを捧げたい
















結局、銀次の頭の上でおねだり攻撃に負け、蛮の誕生日パーティはやることになった。
会場となったHONKY TONKの2階の一室。
後ろから現れた気配を察して、雷帝はふりかえらずに先に声をかけた。
「銀次や他の奴は?」
「みんなで仲良く床に雑魚寝。かなり飲んでたし騒ぎ疲れたんだろ。ったく、誰の誕生日だかわからねぇな」
呆れてものも言えないとでも言うかのように蛮は息をつき、となりにきて煙草に火をつけた。
闇に浮かぶのはオレンジの灯りと乳白色の煙。
月明かりに照らされたその横顔は、言っている内容とは逆にどこか嬉しそうに見えた。
「心配しなくてももうすぐ俺は銀次のなかに戻るぜ」
「戻る?変な言い方するんだな。お前だって銀次だろ?」
笑いながら尋ねられたが、笑い返せはしなかった。
残っているわずかなビールをあおって、蛮に顔を見せない。
「銀次だけど俺に似てる。昔の俺に。素直じゃねぇあたりなんか特に、な」
「昔の?今も十分素直じゃないだろ?」
独り言のような呟きをかるく揶揄して雷帝は立ち上がった。
自ら消えようとするその腕を軽く掴み、蛮はこの場に引き留める。
それは強引さの欠片もない正反対の弱い力。

どうして?

口に出せなかった小さな疑問は、まだ吸いかけの煙草とともに揉み消されてしまった。
見上げてくる紫蒼の瞳のなかには綺麗すぎる月が映る。
「まだもらってないぜ、誕生日プレゼント」
「そんなもん用意してない」
してあるわけがない。 頭の良いこの男がそれを知らないわけがないのに。
「そっか。なら、お前自身でもかまわないぜ」
どーする?と笑う蛮の横顔を艶かしい妖しさが彩る。
言われた言葉に呆けたのは一瞬。
つられるように笑みを刻み、空になってしまったビールの缶は窓際に置き去りにして。
「それって、もしかして誘ってんの?」
「さぁ?どうだろうな。そうだって言ったらのってくれんの?」
明るすぎた月はもう隠れてしまった。この距離でお互いの顔も見えない。
それでも感じられる。気配だけではなくぬくもりさえも。
「アンタは銀次のものだろ?」
「だからお前のものじゃん」
笑い声に重なって、カランカランと軽い物音が後ろから聞こえた。
もはやこの会話に力はない。
彼がなにを言おうと、自分がなにを言おうと既に未来は決まってしまっているから。
だけど意味がある。
不確かなものをなによりも確かなものにするために。
「抵抗なんかしねぇよ。俺は銀次のだからな」
「加減なんかしてやらないぜ」
「上等だ」
クスクスと、闇から響く楽しそうな笑い声。
重なったのは細い指先と影。溶け合うのは吐息と熱すぎるカラダ。





明るいからこそなにも見えないならば。

暗いからこそ見えるものがあるということ。



たった一瞬でもいい。

アンタのその綺麗な瞳に『俺』だけを映してくれるなら

闇に誤魔化されてなにもわからないままでもいいかもしれない。











「誕生日おめでとう、蛮」
















誕生日ネタでもう一つあったりするんですが、それはまた今度。

2002/11/01



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