先に捕まったのは  いったいどちらのほうだったんだろうか?



















「はぁ〜暇だぁ〜‥」




裏新宿の一角に位置する喫茶店HONKY TONK。
いつものようにブルマンを頼み、カウンターに伏せながら蛮が呟いた。
外はもう日が沈んでいて暗く、しかし店内にいるからにはその暗さは気にならない。
閉店間際に現れた酔っぱらいのような迷惑客をどうしようか。
ずっと思案していた波児が、広げていた新聞の向こうから初めて顔を覗かせた。




「そういえば蛮。銀次はどうしたんだ?」
「アイツなら昨日から赤屍んとこ行ってる。今ごろイチャついてんだろ。猿マワシも嬢ちゃんと一緒に九州行ってていねぇし」




完全にふて腐れた態度。
まるでオモチャを買ってもらえなかった小さな子どものようだ。
そういえば、先日まで銀次が全く同じ様子だったのを思い出した。
たしか赤屍が仕事でいないのだとか言って。
ふーん、そういうことか。
つまり蛮も士度がいないことで少なからず拗ねているのだ。
いくら外見は大人でも、銀次と蛮は同じ年なのだとわかって微笑ましくなる。
口に出して言ったら殺されそうなことだが。




「あぁーマジでつまんねぇ‥ん?」
「どうしたんだ?蛮」




ゴロゴロとカウンターに頭を付けていた蛮がなにかを察知したかのように空を見た。
その先を波児も追ったがなにも見えない。感じない。




「いや、なんでもねぇ。急用思い出したからちょっと行ってくるわ。ご馳走さん」




早々と席を立った蛮の様子に、不自然さを感じなかったわけではなかったけれど。




「…これでやっと店が閉められる」




そのこと以上に、蛮がいなくなったことにホッと喜んだ波児の姿があった。
















昼間の人気が掻き消えてしまった夜の公園。
ポツリと立つ街灯の明かりは、賑やかさの面影を一切感じさせない。
灯の当たらない公園内を蛮はどんどん進んでいく。そして空いているベンチの一つに腰をかけた。
愛用のマルボロがオレンジの光を放ち、蛮の顔を仄かに照らす。
どうやら言わなければならないと気づいたらしい。
誰もいないはずの薮に向かって蛮は声をかけた。




「いつまでコソコソしてんだ?そこにいるんだろ?出てこいよ、絃巻き」




指摘された花月のほうは苦笑しながらも木の上から飛び降り、姿を現した。




「いつから気づいてたんですか?」
「はじめっからに決まってんだろ。で、俺になんの用だ?」




尋ねながらも花月のほうには目もくれない。
正直、興味があるのかないのかわからない態度だ。
こんな彼だけど、でも彼だからこそ、自分はこんなにも惹かれているのかもしれない。




「君が暇だ暇だとこぼしていたのでお相手がしたいなと思っただけですよ」




花月の答えは蛮の予測外の言葉だったらしい。
キョトンとした表情のまま、驚いたように花月を見上げた。
サングラスの向こうにあるのは不現と言われる貴き紫蒼の瞳。
もっと近くなら、その中に己の姿が見えるだろうか。




「‥ったく、なにを抜かすのかと思えば」




心底その言葉に呆れたと言いたそうな声。
しかし、その表現とは裏腹に、蛮の興味を惹くことはできたらしい。
その証拠に、蛮の目の前に立っても蛮はなにも言わない。




「君は暇潰し。僕はそれに付き合う。それだけのことです」
「それ、知ってて言ってんのか?」




蛮に触れようと、伸ばしかけた手がピタリと止まる。
静寂が支配した空間に、花月はなにも答えられない。
















「ふーん、そういうことか」
















その沈黙という答えが意味すること。わかっている蛮はゆっくりと紫煙を吐き出した。




「つまりテメーは、猿マワシも俺も、両方手に入れてぇってことか」




花月はクスリと苦笑いをこぼし、やはりなにも答えなかった。
闇に冷やされた風がサラサラと互いの黒髪を揺らす。
眠らない街の光が二人の横顔を照らしていた。

























つーことで無謀にも初花蛮に挑戦してみました。カヅっちゃんの口調が赤屍サンみたく感じるのは私だけだろうか?

2003/10/21



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