過度の暑さは人の思考回路を熔かし

時としてその判断力を鈍らせることもある


そのために必要になるのが清涼な場所での安息だが

それが容易に手に入らなかった場合は……
















一足早い猛暑の到来で、陽炎が当たり前になっている大都会の一角。
ハンカチを片手に仕事を頑張る人間とは対照的に、今にも溶けてしまいそうな人間が二人。
キツ過ぎる陽射しと照り返しの激しいアスファルトからさっさと避難してから早云時間。
電池切れの鉄のカタマリの中から金色の頭が一つ顔を出した。
「…暑いねぇ、蛮ちゃん」
ムカつくほど綺麗に晴れあがった青空を見上げたまま、銀次がポツリと呟いた。
運転席に座る蛮は聞こえていないのか、微動だにもしない。
その様子に構わず、銀次は手足をダラリとしたまま続けた。
「プールへ行きたいな〜海に行きたいな〜せめてエアコンのあるところに行きた〜い」
気力もなく、お腹が空きすぎてタレることもできないような状態。
熱風をかき回しているだけのうちわ(夏実から貸してもらったもの)を扇ぎながら足を僅かにばたつかせた。
「波児さんのところのエアコンが壊れなきゃ助かったのにね〜…って、蛮ちゃん?」
「バカっ、触んな!暑いだろうが」
心配して伸ばした手を叩かれ、銀次はプ〜と頬をふくらませた。
「だって蛮ちゃん、さっきからなにも言ってくれないし、ぜんぜん動かないんだもん」
「暑いから動きたくねぇってさっきも言っただろうが」
「わかってるよ〜」
なにも叩かなくてもいいじゃんなどと、ブツブツ文句を言っている銀次を無視して蛮は再び目を閉じた。
所持金はない。ガソリンもない。こんなときに限って卑弥呼もヘブンもつかまらない。
波児のところにある冷房だけが頼りだったというのに。
いくら日陰だと言っても、エアコンのかかってない車のなかは生き地獄に等しい。
かといって車を放っておけばレッカーに連れていかれてしまう。
蝉の鳴き声も聞こえないような裏路地の奥でも限界が近づきつつあった。







「ねぇ、蛮ちゃん。海行きたいね。俺、思いっきり泳ぎたいよ」
「だからガソリンがねぇんだって」
何回も言わせるじゃねぇと頭を叩く力もなく告げただけ。
いい加減、頭がまわらなくなってきてるのかもしれない。同じような会話ばかりになってしまうのは。
「そう言えば、夏野菜って体を冷やす効果があるんだよね〜」
「それだったらアイスやビールのほうがいいだろ」
よく知ってたなと感心する間もなく、言った途端に喉が渇きを訴えだしてきた。
「アイス…ビール…」
「わかってんだろうが金はねぇぞ」
懐かしそうに呟く銀次に間髪入れずに現実をつきつける。
無一文の自分たちが手に入れられるものと言ったら公園の水くらいなものだろう。
「お金がかからずに済む方法は?」
「暑さに強くなることだな」
もっとも、それができればこんなところで溶けてはいない。
本当なら今日だって一日ビラ配りの予定だったのだ。
「じゃあさ、暑さに強くなるにはどうすればいい?」
「そうだな〜‥やっぱ体を動かすことだろ」
しかし、この暑さのなかで動くなんて冗談じゃなくとんでもない話。
「こんな暑さの中で動いたら日射病になっちまうっての」
「じゃあ、仕方ないよね。蛮ちゃん」


























「蛮ちゃ〜ん、言われた通りビラ配り終わらせてきたよ〜」
大きく大きく手を振りながら駆けて来るのが見えた見慣れた面構え。
「おぉ、銀次。いいタイミングだな。こっちもちょうど終わったところだぜ」
「じゃあ、行こうよ」
嬉しそうな笑顔と共に差し出された手に蛮は答えなかった。
そのまま通りすぎてしまうのかと思ったとき。
「………………え?……」
微かに、銀次にだけ聴こえたすれ違い様に囁かれた言葉。
驚きを隠せなくて銀次は思わずふり返り、慣れたその背中を見つめながら頭のなかで何度も反復した後、止まる気配のない背を追い掛けた。そして銀次は変わらず、いつも以上の笑顔で蛮の前に立って振り向いた。
「これから先もず〜っとそうだよ、蛮ちゃん」














過度の暑さは人の思考回路を熔かし

時としてその判断力を鈍らせることもある


そのために必要になるのが清涼な場所での安息だが

それが容易に手に入らなかった場合 『氷の夏野菜』の出番である






















講義の最中につくった久々の作品。暑い中、働いていない頭で作ったので説明不足が多々…

2003/05/06



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