それが真実でない以上 どんな完ぺきな嘘にも必ず綻びができる
あなたは 手に入れたものを手放す勇気が持てますか?

お金で買えないものがあるように 邪眼ユメじゃ誤魔化せないものもある
あなたは 偽りの魔法に縋ることを望んでしまいますか?



















「おい、大丈夫か?銀次」
「へ〜きだよぉ〜」

士度に体を支えてもらいながら銀次はヒラヒラと手を振った。
その足元はかなり頼りなく、ぜんぜん平気そうではない。

「ったく、足元がフラつくまで飲むんじゃねぇよ。そんなに強くねぇくせに」
「だぁってすっごく美味しかったんだもん。飲むのも久しぶりだったしぃ〜」

ちょっとハメがはずれちゃったと笑うタレ銀次。
まったく‥と思いつつ士度はそれ以上なにも言わなかった。
今さら言っても仕方がないし、ここまで止めないでしまった自分も悪いのだ。





「…あれぇ?あれって蛮ちゃんじゃない?」

銀次が指差した先を見てみると、たしかに蛮の姿があった。
その隣にいるのは漆黒のコートと帽子を身に纏う長身の男。
運び屋の赤屍 蔵人のように見えるがどうやら気のせいではないようだ。

「ずいぶん珍しい組み合わせだな」
「蛮ちゃん、赤屍さんとなにやってるんだろ〜?」





蛮に声をかけようと上がった銀次の手はそのまま空中停止した。
視線の先。蛮の手の中には今、赤屍が渡した白い封筒。そこから蛮が取り出したもの。

「士度、今、蛮ちゃんが袋から抜いたのってお金?」

士度にもそうとしか見えなかった。
あの蛮が金を借りているのか?
士度から借りようとしないのになぜ赤屍から?
二人はなにかを言い合っていた。その様は見ようによってはなにか口論しているようにも見える。









「「………えっ‥………」」









銀次と士度の声が綺麗にハモった。
人気のない暗い公園のなか。赤屍と蛮の影が重なったからだ。
夢じゃないかと二人とも思った。でもたしかに目の前で繰り広げられている現実。
まるで恋人たちの逢瀬のような甘さと、敵同士の戦いのような冷たさを持ち合わせて。
何度目かのキスを交わして、赤屍の影が蛮から離れた。
恐らく別れの挨拶でもしたんだろう。
後ろ姿を見送った蛮がこちらを向き、銀次たちに気がついた。

「お前ら、こんなとこでなにやってんだ?」

士度はちらっと銀次を見たが銀次が答える様子はない。

「銀次を送っていこうと‥」
「蛮ちゃん、今、赤屍さんとなにしてたの?」

代わりに答えようとした士度の言葉を遮って、銀次は真面目な顔で聞き返した。
さっきまでの酔っぱらいの影はどこにもない。

「なにって、べつになにもしてねぇよ」
「じゃ、なんでお金もらってたの?」
「金?気のせいじゃねぇか?」
「誤魔化さないでちゃんと答えてよ!蛮ちゃん!」

銀次の真剣さがわからない蛮ではないはずはないのに。誤魔化されるわけがないとわかっているはずなのに。
まっすぐ自分を見ている銀次にやはり無理だと悟ったのか。
蛮は煙草に火をつけ一息つくと、まっすぐ銀次に向き合った。
そして、口を開こうとしたまさにその瞬間。
















「美堂くん」
















狙ったようにかけられた声に3人が3人とも驚いてふりかえった。
闇のなかから抜き取ったかのような漆黒のコート。
その表情は同じ漆黒の帽子に遮られて窺えないが、おそらくあの笑みを浮かべているんだろう。

「おや?銀次くんたちもご一緒でしたか」
「…赤屍、なんか用かよ?」

さもたった今銀次たちの存在に気がついたという赤屍の態度。
蛮の目があからさまに来るなと言っているのが銀次たちにもわかるのに、赤屍はそれに気づかないのか、
気づいてないふりをしているのか。そのまま笑みを浮かべて近づいてきた。

「これを渡し忘れてしまったことに気づきまして。戻ってきたんですよ」

そう言って差し出されたのは蛮のグラサン。
蛮は赤屍の顔を見ずに適当に礼を言うと、グラサンを受け取った。









「赤屍さん‥」









蛮しか見ない赤屍を咎めるかのように、いつもは恐れているはずの名を当たり前に呼ぶ。
逸らさずまっすぐ赤屍を睨みつけるその瞳はいつもの銀次と変わらない。変わらないのに。
いつもの明るさから1オクターブ下がった声と気持ち少し上がった髪。
仕草や雰囲気に雷帝が少しはいっているような気がするのは、士度の気のせいではないだろう。

「なんですか?銀次くん」

帽子を少しなおし、赤屍はクスっと笑みをこぼした。ILの奪還のときに見たのと少しも変わらない。
その一挙一動すべてが楽しくて楽しくて仕方がない。そんな笑顔だ。

「……さっきのお金って、なんなんですか?」

少しの躊躇の後、わずかに視線をそらして、まるで呟くほどの小ささで。
肩透かしを食らった赤屍はつまらなそうにため息をついた。

「銀次くん。そんなつまらないことより、別に聞きたいことがあるのではないですか?」

もっとも、聞きたい相手は私じゃないでしょうが、と赤屍は口許を押さえた。

「赤屍、いい加減にしろよ。用は済んだだろ?さっさと帰れ」

不機嫌そうな蛮の視線を少しすねたように見つめ返して、赤屍は再び銀次に向き合った。

「…銀次くん。とてもわかりやすく教えてあげますよ」

独り言のような小さな小さな悪巧みの合図。
言ったのが先か動いたのが先かわからないくらい早く、赤屍はとても自然に蛮の腰を抱き寄せた。
そのまま抵抗の暇すら与えず唇を塞ぐ。

「ぅん…っ」

蛮の抵抗がなくなるまで、逆に縋りつくくらい息が荒くなるまで。
こぼれる吐息さえ心地よく、赤屍は緩慢な動作でふりかえった。









「どうです?おわかりになりましたか?」









ポカーンと二人を見つめていた銀次がハッと我に返った。
驚きとそれ以上のなにかを宿し、闇夜に映える燃え上がるのは真っ赤な炎。
人が殺せそうなほどのきつい視線を赤屍は愉しそうに受けていた。
銀次が赤屍に掴みかかろうとしたそのとき。




















「ジャスト一分だ」




















鮮明に流れ込む聞き慣れた声。なんの前触れもなく目の前の世界にひび割れが入る。
音をたてて崩れ去ったのは周りの景色。飛び散るのは初めて見るきれいな破片。

「悪夢は見れたかよ」
「ユ‥メ?今の全部?全部ユメだったの‥?」

愛用の煙草に火をつけた蛮に、銀次は呆然と呟いた。

「当たり前だろ。いいユメは見れたか?」
「ひ、ヒドイよ〜蛮ちゃん。邪眼をかけるなんて〜」
「テメーらが立ったまま寝てるみたいだったから起こしてやったんだよ。感謝しろよ」

煙草をくわえ、薄い笑みを浮かべている蛮に銀次はタレてポカポカと殴りかかっている。









呆れるほど見慣れたお馴染みの風景。









「俺、帰るわ」
「ん?すまなかったな、猿マワシ」
「士度、おやすみ〜」

元気よくふられた手をふり返して、しかし背を向けたまま考えの淵へと沈む。
あの形容しがたい違和感に銀次は気づいていないのだろうか?









「あれがユメだって?」









たしかに、途中からは邪眼だったのかもしれない。
でもはじめは、赤屍と蛮の影が重なったのは、紛れもない現実だったはずだ。
あの、ユメから覚めたときの一瞬の交錯。
蛮がそれに気づいていたことは間違いない。
すべてがわかっていて知らないふりをとおす。
恐ろしいほどに冷たい男。残酷なほどに優しい男。

「寒いな‥」

見上げた夜空は、皮肉なほど綺麗な闇色に晴れわたっていた。

























屍蛮の設定を忘れて書いたため、蛮ちゃんがどっちつかずになってしまったぁ〜!!

2002/11/21



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