それに出逢ったのは今からわずか一週間前

誰にも言えず 俺はきっと忘れられないだろう














「あぁ〜美味しかった〜」


ぐ〜と大きく伸びをして、こぼれてしまう笑みを浮かべながら鳴かなくなったお腹を摩った。
このお金の出資者は昨日の依頼人さんだ。依頼金は高かったし当然生活がピンチだったから即引き受けた。
それだけに奪還のほうは当然生易しいものじゃなかったんだけど。
なにしろ敵はいっぱいで潜入するだって一苦労だったし、縁がある(とは思いたくないんだけど)何故か赤屍さんまでいたし、だからずっと戦ってばかりでお腹は空くし。
でも、無事に仕事が終わった今としては文句なんかより逆に感謝したいくらいになってる。
だってそのおかげでリッチにもコンビニ弁当ではなく、久々にお店でご飯が食べれたんだもんね。


「んっ」
「どうしたの?蛮ちゃん」


ふりかえって店の前でつっ立ったまま何かやっている蛮ちゃんに声をかけた。
その手の中にチラチラと見え隠れするのは、蛍光色のような目に強い黄色。
まさかねと思ったのと同時くらいに蛮ちゃんの眉間に皺がよった。


「ライターが点かねぇんだよ。やっぱ拾ったもんじゃ駄目だな」


チッと聞こえるくらいの舌打ちをして、諦めたらしい蛮ちゃんは百円ライターを握りなおした。
蛮ちゃんの次の行動がわかって、考えるより先に本能で俺は止めにはいっていた。









「…蛮ちゃん。そのライター、捨てないで」









瞬きすらできずに堅く右腕に縋りついて訴える。
蛮ちゃんは怪訝そうに俺を見てから、わけがわからないというかのように首を傾げた。


「なに言ってんだ?ゴミなんか持ってたってしょうがねぇだろ」


言い終わるかどうかのうちに、綺麗に弧を描いて蛮ちゃんの手から離れた片割れ。
音もなく夕闇に溶けていくその様は、もう恐怖しか呼ばなかった。
















わかってる。わかってるんだ。
普段は考えないようにしてるだけで本当は。
蛮ちゃんにとって邪馬人さんは愛用のジッポで。
役にたたなくなったとしても、煙草を吸わなくなったとしても捨てられたりしないんだってこと。
だとしたら、俺は?俺はいったいどっちだというんだろう?
















「なにやってんだ?銀次、行くぞ」


俺の数歩前でピタリと足を止めて、こちらには顔だけを向けて。
たとえ手さえ差し出されていなくても、どこか期待している自分がいるのは確か。
だからこそ。だからこそ俺は…


「…待ってよ。蛮ちゃん」
















為す術すらなくただ願うのだ

今は差し出されているこの掌に

要らないゴミだ捨てられる言われる日が

どうか永久に訪れませんように、と



























何気ない幸せな日常。その中で突然襲いかかる恐怖がテーマ。

2003/01/04



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