昨日は俺の嫌いな白い悪魔がいっぱい降りてきて 今も外を占拠してる

部屋の中の息すら凍えて見える  今日はとってもとっっても寒い日

動くことすら嫌なこんな日は  そう こんな日は ・・・



















「蛮ちゃん寒~い」
毛布を纏ってみのむしのように膨れた銀次が蛮のところまで転がってきた。
蛮も同じように毛布を纏って、しかしピクリとも動かない。
「寒いよ~ねぇ~寒いよ~寒~い」
「だぁーーーっ!うるせぇ!俺だって寒ぃわ!」
銀次の煩さに耐えかねて蛮は叫び返した。
寒いのは当たり前だ。外の気温は一桁。その上、この部屋には火の気というものがない。
しかし、寒い寒いといくら騒いでみてもストーブを点けられるほどの経済的余裕はない。
ここの家賃だってヤバいくらいな状態なのだ。
今年は例年より寒く、スバルのなかで冬を越せば凍死することは確実。
この部屋で冬を越したいと思うなら、なにがなんでも追い出されるわけにはいかない。
それには我慢するしかないのだ。








「ねぇ、HONKY TONKに行こ~よ。俺、耐えられな~い」
「ガソリンがねぇって言っただろうが。我慢しろ。歩いていくって言うなら止めねぇぞ」
銀次が救いようのない方向音痴だとわかっているはずなのに、毛布のなかから聞こえてくる声に容赦はない。
空腹も手伝って相当不機嫌なのが目に見てわかる。それでも銀次は騒いだ。
「蛮ちゃ~ん。俺、お腹空いた~」
「お前だって冷蔵庫の中身知ってんだろうが。なんにもねぇよ」
「わかってるけど、でもなんか食べた~い。お腹空いた~」
「…………………」
これ以上は言うだけ無駄だと判断したらしい。蛮は再び銀次無視の状態に入った。
蛮の態度にプーっと頬を膨らませて。そのまま蛮を見つめていたが、不意にポンっと手を叩いた。
なにか案が浮かんだらしい。
毛布を吹っ飛ばして蛮のそばにしゃがみこんでみのむし蛮をつついた。
「なんだよ?」
「蛮ちゃん、蛮ちゃん。入れて」
「はぁ?入れるってなにを?」
銀次はそれに答えず、笑顔で毛布を掴んだ。次の瞬間。
バッと毛布を剥ぎ取られて、冷たい空気が直に肌を撫でていく。
「おいっ!なにすん…」
「これのほうが温かいでしょ?」
抱きついてきた(というよりのしかかってきた)自分より少し大きいタレタレ銀次。
その行動に一瞬言葉をなくしたが、蛮はすぐにいつものように殴り飛ばした。
が、空腹で力不足なのか、銀次はしがみついたままだ。
「だぁーーーっ!うっとうしい!なんで野郎二人でくっついてなきゃならねぇんだよ。離れろ!」
「蛮ちゃん温か~い。それに腰細いね~」
「銀次。お前、人の話聞いてるか?…って、勝手に手回してんじゃねぇ!」
「えへへ、いいじゃ~ん、べつに減るもんじゃないし~」
「減るわ!だいたいお前にはお前の毛布があるだろーが」
「だって寒いし。蛮ちゃんだって寒いの嫌いでしょ?」
「そうだけど、だからってくっつくな!」
「う~ん。蛮ちゃんってホントいい匂いだよね~」
「頬擦りするんじゃねぇ!」













なんて、二人がギャーギャー騒いでいるとき、ガチャリとノブの回る音が。
「うわ、寒いわね。銀ちゃん、蛮くん、生きてる~?」
玄関のほうから聞こえてきたのは懐かしき高い声。蛮と銀次にヤバイ仕事ばかりをまわしてくれる仲介屋。
「ヘブンさんの声だ。生きてるよ~」
「……なにしてんの?アンタたち」
ちょっと固まってから、ヘブンは思わず尋ねた。
それはそうだろう。大の男が二人で一つの毛布に寄り添って抱き合っているのだから。
「あまりにも寒くてさ~くっついてれば温かいかなって」
銀次らしい短絡思考。
しかしなぜか納得できてしまって、ヘブンの表情が苦笑に変わる。
「それよりヘブン、なんだよ?その袋」
蛮はベリっと銀次を引き剥がすと、ヘブンの手にある紙袋を指した。
「あ、これ?差し入れってところよ。飢え死にしてるんじゃないかと思って」
「わざわざ来てくれたの?ありがと~ヘブンさん」
「近くまで来たからついでにね。そういえば夏実ちゃんたちも心配してたわよ。最近ちっとも顔を出さないって」
「温かいし、コーヒー飲めるし、行きたいのは山々なんだけどね」
「HONKY TONKに行くだけの金もガソリンもねぇーんだよ」
ここからHONKY TONKはそんなに遠いわけじゃないが、夏ならともかく。
真冬にちゃんとした防寒具もろくにないような状態で歩いて行ける距離じゃない。行く気にもなれない。
だいたい、行けばさらにツケを増やしてしまうだけだ。
「だって、この前の奪還、ちゃんと成功したじゃない。その奪還料は?」
「たしかに入ったには入ったが、車の修理費や借金、ここの家賃払ったら空になっちまったんだよ」
大方の借金は返したが、まだHONKY TONKのツケが残っているのだから頭が痛くなる。
「相変わらず金運ないのね。なんなら仕事まわしてあげよっか?」
「マジ?」
「ホント?ヘブンさん」
ヘブンの一言で二人の目に輝きが戻る。
「ちょうど士度クンにまわそうかと思ってた仕事があるのよ。どうする?」
「もちろん受けるよ。ね?蛮ちゃん」
「バーカ。そんなの依頼人から話聞いてからじゃねぇと決められねぇよ」
実際は仕事を選り好みしてる余裕なんかないのだが。
「ま、そうよね。死んでなかったら3日後にHONKY TONKに来て」
「わかった。必ず行くよ~」
「じゃあ私、そろそろ帰るわね。ここ寒いし。あ、そうそう。アンタたち、また携帯とまってるわよ」
「んなことはわかってるよ」
「じゃあね」





バタンとドアが閉まると部屋の中が静かになった。
「蛮ちゃん、今日はいいことづくしだね。食べ物にありつけたし、仕事は入ったし」
これもヘブンさんのおかげ~とタレる銀次に蛮からパンチ。
「まだ受けるって決まったわけじゃねぇだろ」
「そうだけどさ。ま、とりあえず食べよっか。せっかくヘブンさんが持ってきてくれたんだし」
なんだろうなぁと銀次が体を起こしかけたとき。
















……あ………
















蛮の口からこぼれたほとんど吐息と言ってもいいくらいの小さな声。
普通なら間違いなく聞き逃してしまうほどの。
なのに近くにいたせいだろうか。
銀次はそれを聞き落とさずに体を起こしかけたまま蛮を見やった。
「なんでもねぇよ。食おうぜ」
「蛮ちゃん」
少し頬を染めて顔をそらした蛮の考えたことが、なぜかわかってしまった。
体を起こそうとした蛮を引き留めてさっきと同じ体勢に。
「なんだよ、腹減ったんじゃねぇのか?」
再び毛布を被りなおして自分を抱きしめた銀次を見上げる。
「ん~たしかに空いてるけど寒いんだもん。もう少しくっついていようよ」
「俺は寒くねぇぞ」
「俺が寒いの。だからいいでしょ?」














じゃれつくように抱きついて。

大好きなその瞳を覗き込んで。

柔らかい唇にキスをねだって。

さぁ、その答えは?
















「………勝手にしろ」
















どうやら姫君の望み通り。


























もとはまだ付き合い始める(←笑)前の蛮ちゃんの片思い話。クリスマスが関係なくなってしまったので却下に。

2002/12/16



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