ガラにでもなくかなりの時間をかけて選んだ

ただお前に笑ってほしくて 本当にそれだけを望んで
















今日はクリスマスで、街全体が明るい雰囲気に包まれていて、もちろん俺も例外じゃなく浮かれていた。
ケーキにビールに小さなクリスマスツリー。
先日成功した奪還のお金でいろいろと買いそろえて、せっせと用意していた俺に蛮ちゃんが言った一言。

「出かけるか?」

それを聞いたとたん、俺は持っていたものを放り出して蛮ちゃんに抱きついていた。
蛮ちゃんはオーバーだと感じたのかもしれない。
抱きついたら蛮ちゃんに喜びすぎだって頭叩かれちゃったから。
でもしかたないじゃん。
蛮ちゃんは寒いのが嫌いだから一緒にデートなんてできないだろうなって諦めてたんだもん。
俺はそれでもかまわなかったから。
蛮ちゃんと二人で過ごせればそれだけで十分って思ってて。だから本当に夢なんじゃないかって思うくらい嬉しかった。





ぶらぶらと街を歩いて、適当に食事を済ませて。叩かれるのがオチだから手なんか繋がなかった。
だけど俺はただ一緒に歩くだけでも嬉しくて、いつもの仕事探しのときとはぜんぜん違う。
1年に何回とない、今日はデートの日。
そろそろ帰りたいっていうかな?と思っていた蛮ちゃんから「ツリーでも見に行くか?」と聞かれて俺は迷わず頷いた。
大通りの先にある、小さな広場みたいになっているその場所。
さすがクリスマスの恋人たちのメッカと呼ばれてる(らしい)場所だけあって、人がいっぱい。すごく賑やか。
「うわぁ‥すごい」
トテトテと先に歩いて、見上げて思わず呟いた。
初めて見た、大きな大きなクリスマスツリー。
てっぺんにはライトで作られたきらきらと光る星。
上から下まで全部綺麗に彩られて、柔らかい照明に照らされてすごく幻想的だ。
「見に来て良かっただろ?」
「うん!すごいね。すごい綺麗」
同じ言葉をバカみたいに繰り返すしかできない。
だって本当に綺麗で。言葉を知らない俺にはそれしか言えない。







「そろそろ帰るぞ」
「あ、蛮ちゃん待って」
後ろからかかった声に慌ててふりかえったのと同時にふわりと巻かれたマフラー。
今日、さっきまで蛮ちゃんがしていた蛮ちゃんのマフラー。
「風邪ひくだろ?マフラーぐらいしてこいよ」
「うん。ありがと。蛮ちゃん、今日優しいね」
「なに言ってんだ。俺はいつだって優しいだろうが」
「そうだけど、今日は特に優しい気がするの」
言葉が。態度が。仕草が。
なにより俺を見てくれるその瞳がすごく優しい。ぜったい気のせいなんかじゃない。
蛮ちゃんはポケットのなかをごそごそさせると、俺に手を出せと言った。
言われるままに両手を出して、コロンと掌に転がった小さな箱。
「なにこれ?」
「クリスマスプレゼント」
「えぇっ?!」
蛮ちゃんから俺に?ホントに?
「ホントに?ホントにホントに?俺にくれるの?」
嬉しすぎて信じられなくて。
しつこく聞いたから不機嫌になっちゃったみたいで蛮ちゃんの眉間に皺が寄った。
「いらねぇなら返せ」
「いや、いる!いるいる!いるよ!」
のびてきた手から逃げまわったら転んだ。それでも箱はしっかりと離さない。
そんな俺を見て、蛮ちゃんはオーバーな奴‥と苦笑いした。
オーバーじゃないよ。俺は必死だもん。
「安物だけどな」
「額なんか関係ない…あぁ!俺、なんにも用意してない!」
バカだ。俺ってなんて気がまわらないんだろう。
あんなにクリスマスって騒いでいたのに全然考えてなかった。
どうしよう。これから買っても…ダメだ。それ以前に俺、金がないし。
「いらねぇよ」
「えぇ?どうして?」
「今日はサンタクロースになってやろうと思ってな」
「サンタクロース?蛮ちゃんが?」
「似合わねぇか?」
「ううん。そんなことない」
似合わないどころかピッタリだよ。
「ありがとう。サンタさん」
お礼を言ったらどうやら照れちゃったらしく、蛮ちゃんは俺に顔を見せずに歩き出した。俺もすぐ後に続く。
ちょっと先を歩く蛮ちゃんの背中を見ながら普段使ってない頭をフル回転させた。
蛮ちゃんはああ言ってくれたけど、なにか。なにかないかな?なにか……あ、そうだ!
「蛮ちゃん待って」
「ん?どうした?…わっ!」
立ち止まってくれた蛮ちゃんの体勢が調わないうちに飛び付いた。
そのまま背に腕をまわして、至近距離で見るその瞳。
イルミネーションの明かりを点す深い夕焼けの色。
近くで見れば見るほど綺麗で、もっともっと見ていたいなぁって思うんだけど。
「蛮ちゃん」
ちょっともったいない気持ちを抑えて、その柔らかい唇へ。
ここは大通り。目は閉じてるけど、まわりの人たちが見てるのがわかる。
ちょっと恥ずかしかった。だけどかまわなかった。
逆に見てくださいって言いたいくらいの気持ち。

「どうしたんだよ。急に」
「えへへ。サンタさんに俺からのクリスマスプレゼントだよ」





この人は世界でたった一人

俺に幸せを運んでくれる最高のサンタクロースです


















奪還屋で作っててこんなに恥ずかしかったのは初めてです…///
因みに、クリスマス企画のSSが甘くなったのも、銀蛮を1から書き直すことになったのも
全部コイツのおかげだったりする

2002/12/15



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