夏の蒸し暑さも嫌いだけれど、冬の凍るような寒さはもっと嫌い 俺にとって今は、一年で一番嫌いな季節で過ごしにくくて… 「なにをやってらっしゃるんですか?」 後ろからかかったのはあまりにも聞き覚えのありすぎる声。 ふりかえるのに躊躇いはあったが、肩に手をかけられれば無視するわけにもいかなかった。 「…………べつに」 ぶっきらぼうに答えてふりかえると、男は思った通りの笑みを浮かべていた。 殺しが趣味というこの男のイメージをそのまま表す、闇に溶け込むような透き通った黒。 鮮血の赤すら塗り潰してしまいそうな強い暗黒。 自分たちとは違って金銭的に困っているわけじゃないはずなのに、この男はこれしかないのだろうか。 「今日は、銀次くんとご一緒ではないのですか?」 「べつに俺たちだって、年中いつでも一緒にいるわけじゃねぇよ」 なぜか苛立ちを感じて、顔をわずかにだけど背けた。 俺たちは組んで仕事をしているが、あくまでも関係はビジネス。 気は合っていても、プライベートでまでベッタリと一緒にいるというわけではない。 もっとも、借金のせいでそのプライベートタイムがないから、銀次と一緒にいることがほとんどではあるけれど‥。 「そうですか。もしお暇なら、これから少し付き合っていただけませんか?」 「どこに?」 赤屍からの意外な言葉に驚いて、つっかからずに聞き返してしまった。 素直に何処か?と尋ねるということは、自分は暇だと言っているようなものだというのに。 「私の家に」 嫌なら無理にとは言いませんが‥と言いながら、男はクスっといつものように笑った。 俺は頷き、その笑みを忠実に再現して笑い返した。 「………いいぜ…………」 まさか頷くとは……… 静かに隣を歩く希有な存在に、表情には出さず驚いていた。 自分から聞いておいてとは思うが、彼が自分からの誘いに素直に頷くわけはないと思っていた。 どんな手で静かに罠を張り、どれだけ巧妙に彼を填められるか。それが楽しみであったのに。 もちろん、彼を連れてくることが一番の目的なわけだから、頷いてくれたことは嬉しい。 時には正攻法でいくのも悪くないのかもしれませんね。 「おい、あとどれくらいで着くんだ?」 一緒に歩き出して彼が初めて口をきいた。口調、雰囲気から少しイライラしているのがわかる。 黙って歩いていたほうが意外だったから、驚きもしないけれど。 「あと5分くらいですよ」 「じゃあ、ちょっと金貸して。千円でいいや」 「どうぞ」 サンキュと言うと、彼はどこかへ走っていってしまった。 いったいなにを思いついたんでしょうか。 暫くして、彼は戻ってきた。片手にはコンビニのビニール袋を提げて。 「なにを買ってきたんです?」 「へへっ、ついてからのお楽しみ」 そう言って笑った彼のほうが、ずっと楽しそうだった。 「おっ、雪が舞い始めたな。もう少しなんだろ?急ごうぜ」 夏の蒸し暑さも嫌いだけれど、冬の凍るような寒さはもっと嫌い。 俺にとって今は、一年で一番嫌いな季節で過ごしにくくて。 だから、その中でなにか幸せをみつけないと、俺は生きられない。 去年のクリスマス企画SSの際に間に合わなかった屍蛮です。視点がごちゃ混ぜ……ι 2002/12/12 |