たとえば その顔を見るとき  彼のことを考えるとき
その瞬間でなくても 彼のいない日常のなかで

なんの前触れもなく ふと、思うときがある
奥から湧き上がるこの熱さは 病気なんじゃないか、と





















「おい!さみ〜ぞ!」
火の気のなかった部屋に、いきなり暖を求めてはいけないなんて理屈は、彼に通じない。
ブーブーとあるかぎりの文句を言っている美堂くんに小さく溜め息を吐いた。
そして手早く暖房のスイッチを入れると、彼を中へと通した。
思った以上に冷えていた手を引いて、電源の入ったストーブの前へ案内する。
「今、暖房もつけました。直に暖かくなると思いますよ」
「よっしゃ!」
「マフラーはその辺にかけて置いてください」
耳に届いてない様子の美堂くんからコートを預かり、隣の部屋へと掛けに行く。
戻ってくると、彼はストーブの前で猫のように丸まっていた。
「あ〜〜あったけー」
「そんなにストーブに近づいては部屋が暖まりませんよ」
「いいじゃねーか。俺があったけーんだから」
まったく。
小さな子どものようにストーブから離れない美堂くんに苦笑する。
マフラーも預かり、同じように部屋に掛けに行ってきた。
「コーヒーかなにか煎れましょうか?」
「ん〜♪いや、いい。これあるし」
美堂くんが指差したのはさっき買ってきたビニール袋。
さっきの興味が戻ってきて、私は彼の横へと座った。
「なにを買ってきたんですか?」
「見たい?」
彼は反動をつけて起き上がると、転がしてあったビニール袋を引き寄せた。
ガサガサと音を立てて中から取り出されたのは赤茶色のカップと木製のスプーン。書いてある銘柄はハーゲン○ッツ。
「…なんですか?これは」
「見てわからねぇ?どっからどう見たってアイスクリームだろ?」
そう言うと彼はフタを開けて嬉しそうにパクっと食い付いた。
たしかに見れば何かはわかる。でも聞きたいのはそんなことではない。
「なぜ、こんな寒い日に?」
今日は本当に寒い日で、外は雪まで舞っている。この部屋だって暖かいのは此処だけ。
だいたい、さっきまで寒いのは嫌いだとか言いながら来たのは彼のほうなのに。
わざわざ買ってきたものがアイスクリームだなんて。
「ちょっと贅沢すんのもいいかなって思ってよ」
「贅沢?」
「寒い冬に暖かい部屋で冷たいアイスを食べる。これって最高の贅沢だと思わねぇ?」
これを年相応の笑顔というのでしょうか。
そう言って彼は、あどけなく可愛らしい笑顔を見せた。



















赤屍は俺の答えに呆れている風ではなかった。
そんなこと思いもしなかった、といったところか。
寒い日にアイスクリームという発想が認めたくない貧乏の証だけど、現実は残酷。
だって今の俺たち、Get Backersの持ち金じゃ部屋に暖房はまず無理で。
アイスを買うどころか、その日の飯だって危ないときがあるくらいだから。
まぁ、結局この贅沢だってコイツからの借金という形だけれど‥。
「美堂くん、大切なことを忘れてますよ」
「は?はひほ?」
スプーンをくわえたまま、なにか?と聞き返した。
このとき、既になにか予感みたいなものがあった。場の雰囲気からも。
「もう一つ。最高の恋人の隣で、でしょう?」
赤屍は人の耳もとで嬉しそうに囁いた。溜め息は吐かなかったものの、かなり呆れた。
とつぜん人を抱きしめて、なにを言うのかと思えば。この男は。
「お前、自信過剰すぎ」
「お褒めいただき光栄です」
「べつに褒めてねぇよ。邪魔だ」
鬱陶しく絡みついてくる腕を退けて、真面目にアイスに向き合う。
せっかく人の金で買った久々のデザートなんだから存分に楽しまなくては。
それにストーブの前で食べているのだから、ノロノロしていたらあっという間にアイスが溶けてしまう。
「ん〜美味い!」
完全に無視した俺の態度が気に入らなかったのか。
赤屍は腕に力を入れて、とつぜん耳にキスしてきやがった。
「おい…んぅ‥」
思わず耳を押さえて振り向いたら、今度は口を塞がれた。
「んんんっ……ふ…ぅん……」
閉じる暇すらくれず、熱い舌が俺の口内を犯していく。
首を無理やり赤屍のほうを向けられたような不自然な体勢で、黙って受け入れるしかない。
アイスのカップにできた露がポタポタと足に落ちた。
「美味しいですね。少し甘いですが」
いいようにキスを貪ってから、ヤツは離れていった。
「テメー‥」
思いきり睨んでやると、赤屍は楽しそうに笑った。
「な、なんだよ?」
「貴方は相変わらず素直じゃありませんね。わざわざ待っていたのでしょう?」
確信犯の笑みでみつめられて、わずかに目を見開いて俺は赤屍の顔を凝視した。
…バレていたのか?はじめから?
でも、まさかとは思わなかった。この男なら気づくかもしれないという予感があったから。
それなら‥と無駄な抵抗は諦めて、体の力を抜いた。
「…わかってんなら今さら言うんじゃねぇよ」
クスクスと笑いながら、赤屍は俺からアイスを取りあげた。
半分溶けかけのアイスは、まるで今の俺みたいだ。
「あなたがかわいいからですよ。いじめたくなってしまうんです」
ため息とともにコロンと寝転がると、すかさずヤツは覆い被さってきた。
熱に逆らいはしねぇけど、せめて抵抗はしねぇと。
「かわいい?瞳、腐ってんじゃねぇの?病院に行ってこいよ」
「えぇ、病気ですよ。あなたも自覚があるのではないですか?」
逆に聞き返されて返事に困って、目を逸らしてしまった。
自覚するのは結構簡単なこと。でも認めるのはとても難しい。
「心配しなくても他の医者では治せませんし、私も治してあげませんよ」













俺たちはずっと病にかかっている。  治療方法もわからない奇の病。

一番の問題は、治せるのが目の前の男だけな医者がいないことではなくて、

この想いが病気だというならば、このまま一生治らなかったとしてもそれでいいと思っている俺自身。





















じゃあ、夏期限定も作らなきゃ!なんてね(笑) この後はアイスプレイvなんてないですよ〜

2002/12/12



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