なにをしたらいいかわからなくて‥ でも、なにかしたいと思う 「どうしようかなぁ」 クッションを抱きながら天井を見上げては呟いた。 どうしようか、どうしようか、と言っている間に遂に明日になってしまった。 明日でと不破が付き合い始めてちょうど一年になる。 「放課後、一緒にデート。っていっても不破くん、部活あるだろうし。何より不破くんってそういうことに興味ないもんね」 そう。不破がそういうことに興味がないことははわかっている。 だからは不破からは何も期待なんかしてない。 一年も一緒にいられたんだって考えるだけで幸せだから。 とは、確かに思っているが、やっぱりお祝いっていうかはしたいとも思う。 このへんが女の子の微妙な気持ちと呼ばれるところなんだろう。 「どうしようかなぁ」 いい案が浮かばず、ゴロゴロ転がりながら考えていたらいきなり携帯が鳴った。 「び、ビックリした〜誰だろ、こんな夜中に‥しかも携帯になんて」 夜中‥といっても、まだ11時をまわったばかりだったし、着替えてもいなかったのだが。 はブツブツ言いながらも携帯を見た。 ディスプレイに表示されてる名前は“不破 大地” 信じられないと思いつつ、は慌てて通話ボタンを押した。 「もしもしっ?!」 『もしもし?か?』 「うん。不破くん、どうしたの?こんな時間に‥」 もう夜遅いし、しかも不破くんから電話だなんてと思ったが、口には出さなかった。 いつも電話をかけるのはのほうからだったからそう思うのも当たり前のことだろう。 『すまん。寝るところだったか?』 「ううん。まだ着替えてもなかったから」 『じゃあ、今から外に出られるか?』 「今から?‥出ようと思えば出られるけど?」 『なら出てきてくれ。待ってるから』 それだけ言うと、不破は電話を切ってしまった。 切られた電話を見つめ、は首を傾げた。 「何なんだろ、急に‥‥まさか」 放り出されていた上着を羽織り、鍵をもって、は静かに家を抜け出した。 「」 「不破くん、どうしたの?」 不破の突然の来訪には驚きを隠せない。まぁ、不破の言動にはいつも驚かされてばかりなのだが。 「に見せたいものがあるんだ」 「私に見せたいもの?」 わざわざ来てくれた不破の気持ちはすごく嬉しかった。だけど。 「だったら明日でも‥不破くん、風邪ひいちゃうよ?」 いくら暦の上では春と言っていても、やっぱり夜は冷える。 「俺はそんなに柔ではない。それに今でなければ駄目なものだからな」 そういった不破の瞳が少し悪戯っぽく輝いて見えたが、気のせいかなと思った。 誘われるまま不破の後をついて、手を引かれるまま電車に乗り、降りたのは聞いたことのない小さな無人駅だった。 は電車内から外を見ていたけれど、夜の暗さでどこをどう走っているのかわからなかった。 どこへ行くのかと尋ねたけど、不破は着けばわかると言っただけで教えてくれなかった。 いったいどこまできたんだろう? 辺りを見回しているに不破が声をかけた。 「、こっちだ。行くぞ」 「あ、待って」 先に歩き出した不破をは慌てて追いかけた。 駅からそんなに離れていない場所にある小さな公園。 「‥‥南紫奈崎公園?」 やっぱり聞いたことがない、どこまで来たんだろうとは首を傾げた。 たちの目の前には階段があり、それはずっと上へと続いている。 「この階段の上に公園があるの?」 「そうだ。登るぞ」 差し出された手に、は微笑んで自分の手を重ねた。 「‥うわぁ、すごい‥」 もう、それしか言える言葉はなかった。 目の前いっぱいに広がる美しい夜桜に、はただただ感激していた。 「私、夜桜なんて初めて見た。こんなに綺麗なんだね」 風の舞い散る花びらは雪のような軽やかさ。でも冬の冷たさはまったく感じさせない。 春だけに降るあたたかい雪。 「でもどうして‥」 「今日で俺たちが付き合い始めてちょうど1年だろう?」 「不破くん、覚えててくれたの?」 「当たり前だ」 なにを言っているという感じで不破が即答してくれたのが嬉しくて嬉しくて。は堪らず不破に抱きついた。 「1年だということはわかっていたが何をしたらいいかわからなくて。気に入らなかったか?」 「ううん。私、もっと不破くんのこと好きになったよ。ありがとう」 前よりももっと。ずっと不破くんのことが好きになった。 「‥‥‥不破くん、ごめんね」 「なぜ謝る?」 「私もなにかしたかったんだけどわからなくて‥何も用意してないの」 不破くんはこんなに素敵なものを用意してくれたのに。 こんなことなら何でもいいから用意すればよかったと後悔の念が襲う。 「気にするな。代わりはもらう」 優しい春の風に誘われて 目を伏せたのは どちらからだったか‥ 「不破くん、来年も一緒に桜を見に来ようね」 ドリの中で出てきている南紫奈崎公園。 この公園は実在していないと思いますが、モデルは在ったりします。 私が中学の時に遠足か何かで行った公園でとてもいい思い出になってますvv ちなみに… もう終電もない時間なのにどうやって帰ったんだとか、次の日は学校なんじゃないのかとか、 不破っちはなんでそんな所を知っているんだとか、っていう諸々のツッコミは無しでお願いします m(_)m 2002/03/05 |