走って走って走って
             ドコマデ?
進んで進んで進んで
             イツマデ?
止まらず戻らず前だけに
             君にも等しくシが訪れるまでどこまでも。




















ロンゾの御山みたいな一面の白が見渡す限り続いてる。右も左も前も後ろもわからない。
走っていたのか、歩いてきたのか。
記憶も朧気な時間。息は当然切れていた。
こんなにたくさんの白は知らない。




俺が初めて雪を見たのは年も覚えていないような子どもの頃だった。
ザナルカンドでは滅多に雪が降らなかったから、雪に対する憧れはあった。
スピラにきて雪をみたのは旅の目的地手前のガガゼト山。
でも目の前にあるものより、その先にあるものばかりが頭を占めていた。
この山を越えたらザナルカンドにたどり着く。祈り子に会って、ユウナが究極召喚を手に入れる。
ユウナが、死んでしまう。
それしか考えられなくって、見てたけど見てなかった。
でも、求めていた究極召喚はただのまやかしにしか過ぎなくて。
だからユウナレスカを倒して、別の選択を探すことになった。










探して探して探して。









他の方法はまだみつかっていなかったけど、ただユウナは死ななくて済むことになったことが嬉しくて。





「雪、綺麗っすね〜」
「急にどうしたの?さっきまでずっと歩いてきたのに」
「感動してる余裕がなかったっス」









ユウナと一緒に見たあの時はキラキラと輝いて綺麗だなと感動したのに、今は‥









「ユウナ?」
ふりかえれば其所にあったはずの仲間の姿がない。隣にいたはずのユウナの姿も見えない。
「ユウナ?みんな?」
ゴォーゴォーと轟音を立て白い悪魔は踊り狂い、俺の視界をすべて遮る。
なにも見えないのにポツンと浮き上がって見えるユウナの姿。
「ユウナ!!」
力一杯叫んだはずなのに声は音として届かなかった。
自分の声が自分の耳にも聞こえない。それに驚いている暇はなかった。
「ねぇ、どこにいるの?」
真っ白に包まれた辺りを見回すユウナに駆け寄り、飛び付いた。
抱きしめたかったのにすり抜けた瞬間。捕まえたかったのに届かない距離。
言葉にならない。ユウナは俺を通して遥か彼方をみつめてるのがわかった。
まるで空気のようにその瞳に映ることはなく、触れることもできない。
もしかして俺は、始めから此処に存在していないのか?
浮かんだ問いを否定することができなくて、そう思ったら動けなかった。
体が今までと違う意味で震え始める。
寒さにではなく、生まれてしまった見えない思いに押し潰されてしまいそうで。





「ねぇ、どこにいるの?」
さっきよりずっと小さい声が耳に届いて我にかえった。
どんどん離れていってしまうユウナを必死に追い掛ける。
冷えきった空気のせいで呼吸が苦しい。
積もる雪は視界より道のりを塞ぎ、走ることもろくにできずに、足がもつれて転んだ。
雪に手をついた途端、指先に幾つもの光がともり、雪の中に手が解けていく。
「ユウナ!」























待ってくれ!ユウナ!

俺はここだ!ここにいるんだ!!




















張り上げる言葉もなく飛び起きた。辺りを見回し、今の自分が何処にいるのか確認する。
一筋の光さえ差し込まない真っ暗な室内は、けっして無音じゃなかった。
隣のベッドで安らかに夢の中を泳ぐワッカは起きる気配さえない。
慣れた騒音は悪夢から現実へと引き戻してくれたが、まだ体は震えていた。
自分はなにを見ていたのか。それはどんなものだったか。
肌に感じる現実がだんだん記憶を虚ろにしていく。
でも、落ち着く呼吸とは対照的に体の震えは一層強くなった。
拭い去れない恐怖が生々しく体に残っている。どうしようもなく叫びたくなって、でも、渇れた喉から言葉は出てこなかった。
もし叫んでも、声が出なかったらどうする?
誰も来てくれなかったら?
俺が‥、見えなかったら?
浮かんだ問いを追い出したくて、左右にブンブンと頭を振った。
落ち着け。落ち着くんだ、俺!
そんなことはきっとない。ないから大丈夫だ!
大丈夫だと何度も何度も自分自身に言い聞かせる。
今は真夜中。まだ夜明けまで時間があるだろうけど、とても寝られそうにない。
水でも飲んで、もっと気分を落ち着かせたほうがいいかもな。
まさか起きないだろうけど、出来るだけ音を立てないように注意しながら部屋を出た。




















薄暗い廊下を進み、食堂の扉を押し開けて水道の蛇口をひねった。
勢いよく溢れ出る冷水を頭から被り、流れていく水を眺めていたら突然辺りが明るくなった。
驚いてふり返ると、入り口に立っていたのはユウナだった。
「ビックリした!居るなら明かりくらいつければいいのに。どうしたの?」
体の震えが止まらなくて、俺は駆け出してユウナに抱きついた。
ユウナの体は小さくて温かくて柔らかくて、余計に涙が出そうになった。
いきなりで驚いてるはずなのに、ユウナは静かに背に手を回してくれた。
「どうかしたの?」
「夢、見たんだ‥」
「夢?」
俺が君の視界から消える夢を‥
原因はわかってる。ずっと、出来るだけ考えないようにしてきた。
俺はユウナのガードなんだから、ユウナの命のことだけ考えていればいい。
あんなワケわかんない奴の言ったことなんて気にしなくていい。
そう自分に言い聞かせてた。でも、夢はどこまでも自分に正直だった。




















「俺を、消すな‥」





















震える唇で、そう言うのが精一杯だった。
俺はそんなに頭が良くないからアイツが言ったこと、言いたいことがわからなかった。
わからなかったけど、感じとるとでも言うんだろうか。
自分の記憶。自分の存在。自分の世界。
そのすべてが実は、蜃気楼のように儚く虚ろで危ういものだと。
どうすればいい?どうしたらいい?
俺はここに居たい。消えたくないんだ。ずっと生きていたいんだよ。
そう思っていても、それを口に出すことはできなかった。
なぜなら俺は、他人よりも自分の生を貫き通すほど子どもではなく、他人の幸せのためにあっさり未来を諦められるほど大人でもなかったから。
ユウナに母親のような温かさを感じながら、俺は静かに瞳を伏せた。




















止められない涙が頬を伝っていた。


























いつものことながら暗い。でも、普通は怖いものですよね。 麦=希望ってことで

2004/01/25



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