「好きだ」 初めて言われた言葉じゃなかった。 でも、彼が軽々しくそういう言葉を口にする人じゃないと思ってたから。 ううん。たとえ私だけに向けられた言葉じゃなかったとしても、彼からその言葉をもらえた。 それだけで充分嬉しかったから。 「ありがとう。私も好きだよ」 有頂天だった。 それに気づいたのは、付き合い始めてすぐのこと。 その日は私が夕飯の買い出しをする日で、パーティの中でクレイとトラップだけバイトが休みだった。 買ってくる物は多くないんだけど(予算がそんなにないから当たり前)ちょっと私が持って帰ってくるには重いものもあって。 だから、どちらかに一緒について来て欲しかった。 べつにどっちに頼んでも良かったんだけどね、私はトラップに頼みたかった。 クレイにはルーミィたちの世話をお願いしたかったし。 ううん、クレイに頼もうという選択肢は始めからなかった。 私たちが付き合ってることは、すでにパーティのみんなに話してあって。 だからなのかな、クレイは笑って「いってらっしゃい」と言ってくれた。 バタバタとバイトから戻り、ドキドキとしながら男部屋にノックをした。 無反応の扉を開けてみると、トラップはお昼寝の真っ最中で。 ようやく起こしたトラップにクレイが行けないからと言うと、トラップはしょうがねぇなぁとか言いながら起き上がってくれた。 とりとめもない話をしながら、静かな町並みをゆっくり歩く。 「うぉ、あの女、スタイルいいな〜」 「まーたそんなこと言って。ほら、行くよ」 特に重要視するほどでもない普通の会話。 ただの仲間だと思ってたころには、何度となくかわしたセリフ。 前は笑って流せたのに、どうして今はこんなに辛いんだろう。 こうして側にいるのに、何故こんなに不安になるんだろう。 …。 考えるまでもない。本当はわかってるんだ。 トラップが好きなのはマリーナで、私は彼女の代わりに過ぎないってこと。 私はトラップが好きだから、だからこそわかってしまった。そんなこと、気づきたくなんかなかったのに‥。 トラップが、どうして彼女の代わりとして彼女と正反対な私を選んだのかはわからない。 ううん、理由なんかどうだっていい。 たとえ代わりだって、こうして側にいてトラップの彼女を名乗れる。 それだけで夢みたいな感じだから。嬉しくって仕方ないから。 もちろん、代わりってことで痛みがないわけじゃない。でもそんな痛みは、もらえた好きの嬉しさに比べれば本当に些細なもので。 今までだって好きになった人はいたけど、こんなに誰かを好きになったことはなかった。 だから怖い。この恋を失くしてしまうことが。 トラップが私の側を離れてしまうことが何より怖い。 もしかしたらその瞬間、自分は壊れてしまうんじゃないかとさえ思うほどに。 「トラップ?」 声をかけると、トラップは私を見て泣きそうな表情をしていた。 どうして? なぜそんな表情をするの? 「どうかした?」 不安になって聞くと、抱きしめられた。 ぎゅっと強く抱きしめられて、すごく苦しい。 「好きだって言ってくれ」 吐息混じりに囁かれた言葉を、意外だとも思わなかった。 私の知ってる彼ならそんなこと言わないのに。いつも自信満々で、皮肉っぽい笑みを浮かべて絶対そんなことを言わないのに。 なぜだろう。 私と二人きりの時の彼は、いつもいつも言葉を望む。満たされない想いを抱え、側にいない彼女を想って私を求める。 私は、それがわかっていながら答えるんだ。 「好きだよ」 ねぇ、お願いだから泣かないで。 私はあなたが望む限り、あなたの側にいる。 彼女よりずっとあなたのことを愛してるから。 痛いくらい強く抱きしめられて苦しかったけど、私は笑った。 とびっきりの笑顔。 たぶん、トラップには見えないだろうけど、トラップのことだけを想って笑った。 「好きだよ」 誰よりもあなたが好き。誰にも負けないくらいあなたが好き。 だから、お願い。 私を見て。私の好きに答えて。 嘘なんか要らない。嘘なんか欲しくないの。 一度でいい。ただのその一言を、私にくれれば… 「好きだ」 あぁ、まだ彼は気づかない。 私の頬に伝う一筋の涙に。 ただ願う。 トラップが気づいてくれるように。 トラップが私を愛してくれるようにと。 ウチの二人はこんなのばっかです。いつか救済SS書きたいな。 2004/12/28 |