『たとえ報われない想いだって僕は構わない。』


ガキの頃に読んだ三流小説に出てくる男のセリフだ。
ったく、信じらんねぇよな。好きな女がいるのに見てるだけでいいなんてさ。
バッカじゃねぇの?なんて、あの時は笑い飛ばしたんだが‥
現実はその馬鹿馬鹿しさってやつが溢れてる。













今、俺たちはとある村に向かって旅してる真っ最中。
まぁ、頼まれた荷物を届けるだけのおつかいクエストってやつだ。
情けねぇけど、金もなくレベルも低い俺たちのようなパーティじゃ、選り好みなんかしてる余裕はねぇ。
とりあえず、金がなけりゃクエストも買えねぇしな。
日が沈み、だんだん辺りが暗くなって、クレイの判断で今夜はここで野宿することになった。
さっきも言ったが、俺たちは貧乏パーティだ。
いつも宿代に苦しむ俺たちにとって、野宿なんて慣れたもんなわけで。
いつもの分担でキットンとノルが食い物探し、クレイとチビスケたちが薪拾いに行った。
ちなみに俺は飲み水探し。この森は泉が多いようで、昼間も何回か湧き水の出ている泉を見かけた。
その内、モンスターにも何度か出会したから、不便だがこの場所で今日は休むことになったわけ。
まぁ、俺は耳がいいからな。多少暗かろうが、音さえすれば泉を探すことができる。
次はクレイたちの手伝いに行かねぇといけねぇんだが、それは後回し。
俺の目の前で我がパーティの財務担当サマがせっせと夕飯の用意をしてるからな。
「ちょっとトラップ、サボってないでちゃんと働きなさいよね!」
「だぁーから水汲んで来ただろうが」
「じゃあ、クレイたちの手伝いに行きなさいよ」
「あぁ?あれだけありゃ、そんなにいらねぇだろ」
たぶんクレイたちが一度置きに来たんだろうな。火の近くに薪の小山が出来てらぁ。
「それに、おめぇが鍋焦がさねぇか見張ってねぇとな」
「焦がさないわよ。失礼ね」
意地悪く笑うと、パステルはプ〜っと膨れて見せた。
ったく、どこまでもガキっぽいやつ。
これが可愛く見えるっつーんだから、俺は既に末期症状ってやつか?



「ぱぁーるー」
どこからか子供独特の高い声が聞こえてきた。ガサガサと茂みの中から顔を出したチビ二人。
「どっから出てくるんだ、おめぇらは」
頭に葉っぱをくっ付けてるルーミィの姿を見て、呆れて呟く。
もちろん道らしい道なんかねぇんだけど。
「ぱぁーるー、ルーミィね、いっぱい取ってきたんらお。ね?しおちゃん」
「そうデシ。いっぱい取ってきたデシ」
「偉いね〜ルーミィもシロちゃんも。クレイもご苦労さま」
ルーミィの頭の葉っぱを取ってやりながら、後ろから出てきたクレイに声をかける。
火の近くに出来てた小山は、更にでっかくなりやがった。
「キットンたちはまだなんだな。俺も手伝うよ」
「ありがと。じゃあ、こっちお願いするわ」
パステルが立ち上がり、自分の座っていた位置を譲った。
当然のように二人が並ぶ。
途端にざわりと胸を撫でる不快感に、思わず顔をしかめそうになった。
「トラップ、もう少し薪を集めてきてくれないか?」
「へいへい」
気のない返事を返して立ち上がると、頭の後ろに手を組んで歩き出した。



鬱蒼と四方に生い茂る葉っぱたち。
ガサガサとわざと音を立てて道を作って、ふと後ろをふりかえった。
葉っぱの隙間から見える二人の姿。
俺には見せない表情で笑って、アイツはなんて楽しそうなんだろう。
「‥チッ!」
名前も知らねぇ感情に委せて樹に拳をぶつけた。
ムカつく以上に哀しくなる。
だって、あんな表情をさせること、俺には絶対無理だから。
俺とクレイは正反対。
クレイは俺にできないことをいつも容易くやってみせる。
それにいちいち波風立ててたらキリがねぇんだけど。
今度は、今度の恋は本物だと思ってた。いや、思ってたじゃなく本物だな。
現に無理だとわかってても諦めきれねぇでいる。
俺がその視界になくても。それでも。
「くっくっくっ‥ガラじゃねぇな」
報われなくたっていいなんて笑っちまう。こんなのは全然俺らしくねぇ。
でも、紛れもない本心。だからタチが悪い。
俺自身が誰よりもあの手を、あの笑顔を望んでいるっつうのに。
心のどっかでアイツになら一番を譲ってやってもいいと思ってる。
あの笑顔が、もし見れる位置にあるなら、隣にいるのは俺じゃなくてもいいって。
卑怯くせぇな。
そう、俺はただの卑怯者。いや、臆病者か。
どっちにしても情けねぇ話だ。
そうは思うが、敗けるのがわかってて立ち向かえるほど、俺は強くねぇんだよ。
「……ッてぇ………」
突然胸の辺りが痛くなって、服の上から掴んだ。
ズキズキと突き刺されるような痛みと、キリキリと締め付けてくるような苦しさ。
この苦痛にももう慣れつつあるけど、本当はいつだって救いを求めてる。





たすけて。
おれをみて。
アイしてほしい。



なんて、言えるわけねぇんだよッ!






木々の間から顔を照らす仄かな光。
明るい声が僅かにこぼれてくる別世界に、今の俺はただ背を向けるしか出来なかった。











たとえ報われない想いだって構わない。
君が僕を見てくれなくても。
この苦痛に心が壊れてしまっても。
僕はずっと、ずっと君だけを愛してるから。
















暗い。暗すぎる。このあとパステルが追いかけるシーンがあったんですが、やっぱりカット。

2004/11/25



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