ついたのは慰安室。
渋沢くんにドアを開けてもらって中に通された。
中には泣き崩れてる藤代くん、そんな藤代くんを支えてる笠井くん、
辛そうに顔を逸らしている辰巳くんなどサッカー部の人たちと、真っ白な布を被った…


「三上‥」


ゆっくりと確実に、寝ている三上に歩み寄っていく。
脇に膝をついて被さっている布を取った。
布と同じくらい真っ白な肌。
三上の顔を見ていて、まるでいつもどおり眠ってるみたいだと思った。
触れたら起きそうなくらいいつもと変わらない寝顔。
女の私が悔しく感じるくらいに綺麗な寝顔。
男のくせにこんなに綺麗でいいのかと思う。
といっても本当の寝顔を見たことは一度しかないのだけれど。
いつも寝たフリばかりだったもの。
三上は私が来ると勝手に目が覚めて起きてしまうんだと言っていたけれど、
本当だったのかどうかわからない。
もし本当だったとしたなら今すぐ起きて欲しい。
起きてよ、三上。
心の中で強く強く願った。
触れたら本当に起きてくれるかもしれないとか馬鹿なこと考えて、その頬にそっと触れた。
でも、それはもちろんありえないことで。
逆に三上の頬の冷たさを確認することになって辛かった。


「三上‥」


あぁ、ここで泣けたならどれだけ感動的なんだろう。
どこか冷めた頭でそう思った。
小説とかなら間違いなくここで泣くのだろうに。
泣き崩れてひたすら三上の名前を呼ぶのだろうに。
どうして私は泣かないの?
こんなにも胸が苦しいのに‥
こんなにも悲しく感じているのに‥
涙一つ出てこない自分が憎らしくて。
三上。私、彼女失格だね。


「三上‥」


三上はいつも私を名前で呼んだ。そして私が苗字で呼ぶたびに三上は言った。
「付き合っているんだから名前で呼べ」と。何度も何度もそう言われた。
それでも私は、一度も名前で呼ばなかった。
恥ずかしいとかじゃなくて呼べなかった。
私に三上を名前で呼ぶ資格があるのかどうかわからなかったから。
「やっぱり‥なかったよ‥」
三上を名前で呼ぶ資格なんて私にはなかった。
あなたのために泣くことすら出来ない私に名前で呼ぶなんて、
三上の彼女だなんていう資格は無いよね。
「ごめんね‥」
でも私は貴方を愛していたよ。本当に本当に愛していた。
あなたほど思える相手はもういないかもしれない。
そういえば一度も伝えないままだった。
あなたに甘やかされてばかりで言葉にしなかった。



冷酷な女でごめんね。
こんな私を想ってくれてありがとう。
愛してくれてありがとう。
「ありがとう‥‥亮」





アイシテルヨ









重ねた唇にのせたのは伝えないままだった彼への想い

そして狂おしいほどの祈りの言葉









私ニ涙ヲクダサイ‥
















とつぜん慰安室から始まってます。すみません。わかりにくくて。
一応、三上先輩が歩いていたところにトラックが居眠りで突っ込んできたという設定です。
あんまり死んだところは詳しく書きたくなかったのであとがきで説明。
だったら死にネタで書かなきゃいいんですけど、浮かんじゃうんですよ。何故か。

2002/03/08



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