ill ⇔ well






 ライブの後、まだ熱に浮かされたようなヒロミを抱くのは、すごくいい。
 普段は理性が働くせいで、ヒロミが言わないことを言わせたり、しないことをさせたりできる。
 端的に言うと、とてもエロい。
 膝の上に乗せて、下から突いてやると、
「阪東……阪東……」
 俺の名を切れ切れに呼びながら、しがみついてくる。

 これが、あの桐島ヒロミだ、信じられるか?

 誰に対してともなく、俺は問いかけた。






 ライブが終わって、二人で打ち上げを抜け出して、家まで待てずにホテルに入った。
 汗だくだから、シャワーを浴びさせてくれ。
 ヒロミの、実にまっとうな要求は無視して、ベッドに引きずりこんだ。
 やめろとヒロミは言ったけれど、少し肌に触れてやれば、もう。
 簡単に、熱はよみがえる。
 ステージで、客の視線をひとりじめにして、転がりながら吠えていたときの、その熱だ。
 ほんの数時間で冷めるわけがない。
 視線を合わせて笑ってやると、思い屈したように顔を歪める。
 次の瞬間、ヒロミが抱きついてきた。

 やっぱりな。

 背中に回った腕の力強さを感じながら、阪東は思った。
 ねだられてキスをして、急かされて服を脱がす。
 嫌がるのを無理やりするのだって、もちろん興奮するけれど、ヒロミの方から求められてするのはもっといい。
 最高だった。
 裸の胸と胸とを合わせ、何度もキスをした。
 握りつぶすように手首を握り、唇に噛みつく。
 そんなことをくり返していると、ヒロミの呼吸が荒くなってくる。
 痛いのと気持ちいいのと区別がつかない。
 そんな顔だった。
 たまらなくなって、阪東は、ヒロミの手を取り、指先をきつく噛んだ。
「……ッ」
 息をのみ、声を漏らす。
 その瞬間の顔も、見逃すまいと阪東は思った。
 ヒロミの手を取ったのとは逆の手で、ほとんど反射的に、後頭部を掴んで固定する。
 視線がぶつかり、誘われるままにキスをした。
 ヒロミの指先に、くっきりと歯型がついている。
 視界の隅でそれを捕らえて、阪東は、しごく満足な気分だった。

 俺の歯型だ。

 嬉しくなって、もう一度、ヒロミの手を取った。
 まじまじ見ていると、いつのまにか、放っておいた方のヒロミの手が、下半身へと伸びてきていた。
 歯型をつけられたのとは逆の手。
 阪東の下半身に。
 勃起した男性器の形をなぞるように、ヒロミの手が動いている。
 それを見て、躾が悪い、と阪東は思った。

 こっちも噛んでやりゃ良かったか。

 そう考えると、思わず笑みがこぼれた。
 下半身を探る手の、手首を掴んで、
「待てねーのか?」
 嘲るように言ってやった。
 ヒロミとのセックスがいいのは、ただ肉体的にいいから、だけじゃない。
 そこには、動物を躾けているような快感があった。
 誰にも懐かなかった犬が、自分にだけ尻尾を振るようになった。
 寝転がって腹を見せるような真似までするようになった。
 気持ち良くないはずがあるか、と阪東は思う。
 しかも、その犬は、ほんの数時間前まで、ステージの上で、視線も音も、全部ひとりじめにしていた犬なのだ。
「俺が好きか?」
 ヒロミの手首を掴んで、「待て」の姿勢を取らせる。
 阪東は、空いている方の手を、ヒロミの下半身に伸ばした。
 勃ち上がったものを握る。
 親指から三本で握ってやり、残った二本で睾丸を、押しつぶすように触ってやった。
 ヒロミは顔をしかめた。
 痛いはずだ。
 同じ男だから、阪東だって知っている。
 そこに力を入れられると痛い。
 けれど、ヒロミは、
「気持ちいいか?」
 阪東に聞かれると頷いた。
 顔をしかめたまま、それでもはっきりと。
「だろ?」
 そんなヒロミの反応に、阪東は気を良くする。
 痛いのが気持ちいいんだ。
 ヒロミの体と精神に、そう覚えこませたのは阪東だった。
「俺が好きか?」
 もう一度、阪東は聞いた。
 こんなことまでしていて、何が恥ずかしいのか、普段、その手の質問に、ヒロミは決して素直に答えない。
 普段は。
 今なら別だ。
 阪東は、ヒロミの下半身を弄りながら、その顔をのぞきこんだ。
 熱に浮かされたような顔、目。
 ほんの数時間前、失った理性は、今なお完全には戻らない。
 そんな顔をしていた。

 ずっとこんなだったらいいのに。

 誰にも言ったことはないけれど、阪東は思う。
 ヒロミは白痴になってしまえばいい。

 俺の歌を歌って、俺の好きに抱かれて、いつか、俺が死んだら、その瞬間に自分も死ぬような。
 俺が斃れるときには、ともに斃れることが約束されているような、そんなものになってしまえばいい。

 誰にも言ったことはないけれど、隠すつもりもなかった。
 誰にも、ヒロミにも。
「俺が好きか?」
 三度、阪東が聞くと、ヒロミは、少しだけ迷うような素振りを見せて、それでもはっきりと頷いた。
「阪東……」
 好きだと言って名前を呼ぶ。
 その声の、腹の底から、乞うような響きに満たされた。






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阪東がヒロミを愛している話を書こう!と思うと、いつもこんなになります。
しかし、ああは言いつつ阪東は、ヒロミの思い通りにならない、逆らいまくるところが好きなんだろうとも思います。









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