子供部屋立入禁止


 阪東の家は割と大きくて、2階にも風呂がある。
 そんな家だから、この1週間、毎日阪東の家に行っているのに、ヒロミは阪東の家族と一度も顔を合わせたことがなかった。
 家の中で物音はするから、いつも留守ということではない。
 今日も、阪東の部屋で寝ていたとき、階下から水の音が聞こえてきた。
 阪東の部屋で、ベッドに行く間も与えられず、床の上で犯られた後だ。
 ヒロミは、片方の耳を板張りの床につけて寝ていた。
 その床板越しに、下から音が聞こえてきた。
 夕飯の支度をしていると思しき、水の音だった。

「いいのかよ?」

 ヒロミは起き上がり、阪東の方を見る。

「何が?」

 阪東は、ヒロミを床に放置したまま、自分だけベッドに腰かけて煙草を吸っていた。
 裸の体が窓越しの夕日に照らされて、阪東の肌は燃えるように赤く光っていた。

「だから」

 その姿に、何となく、もう大昔の子供の頃に見た絵本を思い出す。
 鬼が島の鬼は、桃太郎に退治された。
 たぶん、日本で一番有名な昔話だ。

「その、親父さんとかおふくろさんとか……いいのかよ?」

 ヒロミはあまり声をあげないし、阪東も同じだけれど、それでも2人が何をしているかは分かってしまうだろう。
 親のいる家に、女ならともかく男を連れこんで、抱き散らかすとしか言い様のない無造作さで抱く。
 お前の神経が俺には分からない。
 ヒロミがそう言うと、阪東は、おもむろにベッドから立ち上がった。
 この男にも、子供の頃があったのだろうか。
 ゆっくりと近づいてくる阪東に、ぼんやりとそう思う。
 跪いたヒロミの後頭部をつかみ、阪東は荒々しいキスをする。

「相変わらずくだらねえことばっか考えてんな、ヒロミ」

 唇を離すと、至近距離に男の顔。
 頭から叩きつけるようにヒロミを押し倒した。
 体勢がくずれてコートかけに肩が当たる。
 次の瞬間、コートかけは派手な音をたてて床に倒れたけれど、阪東は意に介した様子もない。

「俺がホモだったくらいで、今更うちの親は驚きゃしねえよ」

 心底からおかしそうに言って、もう一度ヒロミの唇を貪った。
 笑わない阪東の目を間近にしながら、言葉の正しい意味で親の顔が見たい、とヒロミは思った。




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 「キリシマシークレット」の少し後。
 あの俺様ぶりと裏切りを見抜けない微妙な人の良さ、金のかかっていそうな服装から、阪東は割とお坊ちゃんだろうと勝手に考えています。
 手袋はともかく、革ジャンや革パンはさすがにずっと同じものということもなかろうし。

 単行本の13巻で、美藤次男に戦いを挑まんとす、の阪東がヒロミに、お前は理屈が多い、みたいなことを言うのがとても好きです。
 いや、あの巻は全編通して阪ヒロでどうしましょうという感じですが。
 ヒロミは、鈴蘭の中では割と策士ですが、でも、実は策など弄さず、負けても真正面から戦う方がかっこいいことを知っていて。
 それはたとえば春道や、あのときの阪東で。
 だからこそ、ケンカの強さ云々とはまた別のところで、ヒロミは彼らには勝てないのだと思います(本人もそれでいいと思ってそうだ)。

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