俺を抱いてるときの山本はいつものヘラヘラした顔なんかじゃなくて、何かに追いたてられてるような泣きそうにも見える表情をしていて、俺は何でそんな顔するのって言いたいんだけど未だに言えずにいる。必死に俺を抱く山本。そうやって抱かれると俺の心は切なさでいっぱいになって、山本のことが愛しくて堪らなくなる。
「ツナ」
別に俺はどこにも行ったりしないのに、山本は迷子になった子供みたいに必死で俺にしがみつく。俺もぎゅっと抱き返す。山本は俺に何か見てる。得体の知れない何かを見てるみたい。
「山本、好きだよ」
俺を押し潰す勢いでぎゅうぎゅう抱きしめる山本に囁いた。それでやっと安心したように腕の力を緩める。
「ツナ、置いてかないで」
「何言ってるの、そんなことしないよ」
「ごめん」
何か、ツナが遠い。溜め息混じりに呟いた。何言ってるのこんなに近くで抱き合ってるのに、って、多分そういう意味の遠いじゃないんだろう。
「ツナは俺の知らない人になってくみてーだ……ずっと一緒にいんのにセックスもしてんのに全然埋まんなくて、逆にどんどん開いてくみてー」
山本がそんな風に思ってたなんて知らなくて、俺は山本のシャツの背中をただぎゅっと握った。
「……俺は、山本に助けられてばっかりだったから、早く山本に追い付きたいってずっと思ってたよ、今も思ってる」
そうか、と呟いて山本は、はぁと息を吐いた。
「ツナが強くなったら、俺はもう要らねーのかな」
いつからそんな風に思ってたんだろう、っていうか山本は俺をそんな風に見てたわけ?追う俺と追われる山本。けれど出会った頃のその構図は、山本の中ではとっくに逆転してしまっていたようだった。俺はいつでも、今でも山本の背中を追ってるつもりなのに。どうして?頭の中がごちゃごちゃしてきて訳が分からない。切ないし悲しいし怒ってるけどやっぱ愛しいよ、山本の強さだけじゃない、いつも余裕綽々で自信家でキラキラしてる山本も、俺だけに弱さを見せてしょげてる山本も全部全部俺にとっては必要で愛しいよ。
「好きだよ、大好き、ずっと俺の側にいて」
言い聞かせるみたいに囁くと、山本はぐうと体重を預けてきた。抱きしめる。魂一つぶんの重さを、漸く背負った気がした。
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