俺たちは連れ立って教室へ向かった。現実ですら二人で並んで歩いたことなんかないのに。自然と緊張してしまう俺を、何固い顔してんだよと山本が笑い飛ばす。俺たち以外に誰もいない校舎は少し不気味だったけれど、山本は全然平気そうな顔をしていた。気にしていないような、もっと適切な表現をするならば…… 慣れているような。そんな素振りだった。

 いつもの席に座って色んな話をした。山本が俺の話をきちんと聞いて会話してくれるのは、ここが俺の夢だからだろうか。話の内容は主に中二の頃の思い出話で、文化祭や体育祭の話、面白かった先生の話なんかが大半を占めた。俺たちはまるで、久しぶりに会った仲のいい友達同士みたいに談話をした。本当は挨拶程度にしか言葉を交わしたことのない、ただのクラスメートなのに。

 話していて俺はふと気がついた。山本が自然に接してくれるからすぐには気付かなかったけれど、よく考えたらこれは絶対におかしいことだ。
 ここにいる山本は中学二年の山本じゃない。
 山本だけがこの空間から浮いていた。この教室やさっきの昇降口は多分俺が俺の記憶を基に生み出したものだけれど、山本は多分違う。いや絶対違う。だって俺は中三以降の山本のことを知らないのだから。どっか違う場所から摘まみ出してきて、ここに放り込んだみたいな違和感がある。俺が望んだことは何でも叶うのに、山本の言動や気持ちだけは思い通りにならない気がした。それに……少なくとも、山本が返してくれる言葉は俺の望んだものに限りなく近いけれど、俺が想定したものではない。

「山本はどこから来たの?」

 思わず尋ねていた。

「どこも何も、ツナが呼んだから来たんだぜ」

 山本はそう言った。どこから来た、とは言わなかった。

「俺の夢に出るの、嫌じゃない?」
「ツナの夢なのにどうしてそんなこと聞くんだよ」

 山本は頻りに俺の夢だと言うけれど、ホントにそうなの?……と聞こうとして、止めた。聞いてしまったら最後、二度とこの幸福な夢は見れないような気がしたから。

「また呼んでもいい?」

 だから代わりにそう尋ねた。

「ツナの夢なんだから当たり前だろ」

 山本が笑ってくれるのは夢だからだろうか。

 気付けば窓からは西日が差し込んでいた。朝から夕方までずっと会話していたはずがない。きっと夕暮れはタイムリミットの合図なのだと思った。山本もそれが分かっているのか、次第に口数が少なくなってきた。つられて俺の言葉数も減ってくる。やがて沈黙が訪れたとき、机の上に視線を落としていた俺の視界に影が差した。
 ふと顔をあげると視界が塞がれた。山本が今どんな顔をしていたかまで確認する暇はなかった。

「じゃーな、ツナ」

 山本はそれが当たり前のことみたいに俺の唇にキスを落とした。山本にキスをされるのは恥ずかしくて、女の子みたいに嬉しくて、でもキスをしたら夢が覚めて山本に会えなくなってしまうから、少し嫌だった。



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