Over time 3






たとえばこんな設定。
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足跡さえつかない夢




もし、キミが突然いなくなったとして────




もし、その時がキミが一番輝いている時だったとして────




もし、その時にオレに力があればキミに夢を見せられただろうか?
















夢の途中。これから駆け上るだけだったというのに彼は突然消えた。
言葉も何も置かずに、彼は霧のように消えていった。
いずれは、彼と別れることになるだろうことはわかっていた。




中学3年の終わり、彼と出会った。
あれからそんなに経っていない。
今は夏。
あれからほんの数ヶ月しか経っていない。




彼は夢を追い求めた。
4月まで野球部がなかった学校に、野球部が出来た。
彼が無理やり作ったようなものだった。
オレの身体を借りて野球をする彼は、それだけで見ているものを
魅了した。
オレは身近にいた。
出会ってから、ずっと一緒にいた。





最初はあれほど嫌だったのに────
彼と比べられるのが嫌だったのに。
オレはオレなのに、オレを通して彼を見る目が気に食わなかった。
怒りだってぶつけた。




彼の夢はそこで廃れてもおかしくなかったんだ。
彼は肉体を失くしたことで一度は廃れた。そして、あの時、二度廃れそうになった。
だけど・・・・
彼の野球をしてる姿は誰にだって影響を与えた。
闘争心、尊敬、嫉妬、感動────
オレだって────いつのまにか。
新品だったグローブに少しずつ傷が付いていった。
ゲームをする時間が減った。
泥に汚れる事だって厭わなくなった。




オレ無しでは、彼は死んだも同然で。
きっと彼はいつも不安で仕方がなかったんだ。
急かす様に、オレをいつも殴って焚付けていたけど────
いつまでも彼の我侭が続くとは自分自身で思っていなかったから焦っていた。




そんな彼に、オレは少しだけ気づいていた。
平凡な日常。
満足している生活、だけど、何かが足りないと気づいていた。
ただ、何かは明確にはわからなかった。




楽して生きることがいつのまにかオレのライフスタイルとして定着していて
彼がその中に入ってくることが嫌だったんだ。
異物がいきなり入ってくる。
排除しなければ────
最初はそんな気持ちだった。
彼の夢。そんな熱い思いも願いも抱いたことはなかった。
そんな熱いものを向けられても、火の粉を振り払おうとするように手を振り続けた。
だから、焦っている彼を無視していたんだ。




だけど、彼が熱すぎるから────
オレもいつのまにか熱くなっていて────
同じくらいの熱さになってしまえば、火の粉なんてかかってもそれほど熱くはなかった。



彼の願いは、甲子園で。
オレの願いは、そんな彼の願いが叶えばいいという願い。




種類が違うけど、そんなのオレンジ色の火か青色の火とかそんな風にしか変わらなかった。
ちょっと温度差があるけどね。




まだ甲子園には行けてはいない。
だから彼がいなくなるのはおかしい。



マウンドにはオレが座り込んでいる。
審判が寄ってくる。
オレに何か言っている。
肩を掴まれるも、オレは何も言えない。
視界が歪んでとてつもなく悪い。
桐嶋くんが駆けてくる。
だけど、それでもオレは何も言えない。
動けない。




だって、まだ野球してる最中なんだ。
野球バカの彼が、オレと唯一入れ替わる時間なんだ。
だけど、オレがオレの身体に入っている。




『鷹見くんは────?』





ほんの数分前までは彼が投げていたのに。




出来立てほやほやの瀬戸川高校の野球部が3回戦まで勝ち続けた。
全部鷹見君のおかげだ。
この試合で勝たなければいけないのに────
彼は突然消えてしまった。





突然、何の前触れもなく。
何も告げず、オレ以外に誰にも知られず、彼はいなくなった。






「オレ・・・投げられないよ」




「おいっ琴吹!体調でも悪いのか?」

「桐嶋くん、オレこれ以上投げられないよ・・・」





だって、オレには彼のような凄い球は投げられないんだ。
みんなの期待するものをあげられない。








そして、オレが彼の夢をつぶした役を背負いたくないんだ────






誰にも知られず、舞い戻ったキミの────


再び、輝きだしたその道を────


埋めてしまうのはオレだなんて────







オレがここ数ヶ月で、頑張るようになった。
だけど、何?
前のオレがいないとでも言えるのか?




卑怯なことは承知で、オレはつまりこの場から逃げたい。
みんなにオレの非力さを知られる前に逃げ去りたい。
オレは投げた。そして負けた。
そんな現実に十分なり得る結末を見たくない。




言い訳は出来るんだ。
オレには鷹見くんほどの実力はない。
もともと、やる気なんてなかったんだ。
ただ、彼に付き合っていてあげただけなんだ。




オレがここで降板して、チームが負けたとしてもオレのせいじゃない。
だって、だって・・・・



もともとこの野球部はオレのためのものじゃないんだからっ!!




だからオレは頑張らなくていい。






















オレは降板した。












だけど、ずっと泣いていた。
彼が消えてからずっと────


降板してもずっと────────




勝っていたチームが負けた事にさえ気づかないほど、オレはそれに没頭していた。










ただずっと悔しいっていう気持ちに気づかないフリをしていた。


























もし、キミが突然いなくなったとして────




もし、その時がキミが一番輝いている時だったとして────




もし、その時にオレに力があればキミに夢を見せられただろうか?



キミの夢の続きをオレが、消えたけど、どこかで見てるキミに見させることが出来たんだろうか?









彼の夢は叶うことなく終わった。
もう少しだった────
だけど、彼は夢を叶えることなく消えてしまって。
残されたオレだけが呆然と彼の姿を探して求めた。


オレの夢も叶うことなく終わった。
たった数ヶ月だけの夢。
だけど、人生のなかで一番、強くねがった夢だった。
彼には知られることなく散った夢。
オレしか知らない散った夢。




オレの日常が戻る。
楽をして生きるのがモットーなオレの生活。
褪せていた生活。

きっと、戻るだろう。
だけど、きっとオレはずっと物足りないまま過ごしていく────

夢のように去っていた時間を思い出しながら。






END




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とりあえず終わり。試合の途中で、入れ替わりがおこるエピがあるかなぁ・・・と思いまして。
多分、そんなことがあれば太朗は投げますけどね。ストーリー展開的に。
なので、あえてBADEDにしてみました。
打ち切りになった場合に考えられる流れです(笑)甲子園に行く前に終わるverです。


宇治の中の補完話なので、人様に見てもらうようなもんじゃないっすね。コレは。



































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