目の前にはコンドーム。それからローションと汚れてもいい大判のタオルも用意されていて、いよいよ後に退けなくなった。…もう今更退くつもりもないが。
ただ、それらに囲まれて正座で向き合う自分たちがあまりにもまぬけでどうしようもなかった。
「―で?」
「あ…?」
「どーすんだ。スルんだろ。さっさと力抜け」
「なっ!てめ…」
あっさり確信に触れられて腹が立った。わかってる。確かに俺は今、セックスをしようとしている。しかもこの男―流川とだ。
誰が聞いても信じないと思うが、俺と流川は所謂そういう関係で、流川はもちろん俺もこの行為に合意している。
当然ここに至るまでには一言ではとても言い表せない紆余曲折があったわけだが、それも含めて今二人はお互いがお互いを想っているし、ひどく求めてもいた。
だけど求めているものが二人して違っていた場合はどうしたらいい?
シャワーを浴びて、両親不在の流川家の流川の部屋で、先ほどまで無我夢中にキスして身体を擦りつけあっていた。
今日の練習試合の余韻も引きずっていたのかもしれない。熱を持て余した肌はじりじりと発熱して、もつれ合うようにベッドに転がってしまえばもう今日は耐えられないと感じた。
欲しい。ほしい。流川が欲しい。
未だにそう認めるのは悔しいが、流川が好きで、ほしくてたまらないと思ってしまった。
流川も同じように、いやそれ以上に思っていることはわかった。…だって、俺の太腿に触れるヤツの下半身がばかみたいに反応してたから。
単純に驚いた。それと、その…なんだ、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しいと思った。絶対口に出せないけど。
俺にそういう反応ができるくらい、流川が俺を求めてるとわかったんだ。正直ホッとしたというのが正解かもしれない。
でも俺は実際そうなった時、次の段階への道筋をまったく考えていなかったのだ。
だから流川が俺の髪を柔らかく撫で、濡れた唇で「したい」と言った時、俺は単純に頷いてしまった。それがどういう事になるかも知らずに。
天才、一生の不覚。
だが今更、後には退けない。
「いーから、大人しくしろ。勝ったのは俺だ」
「ぬ…、…クソ!あんときチョキ出してれば…!」
「なんだ、どあほう。男と男の勝負にケチつける気か」
「そうじゃねえ…けど、」
「それとも怖気づいたか」
「ち、ちげー!」
「だったらもう諦めろ」
諦めて、俺に任せろ。そう耳元に吹き込まれて背筋に何かが這い上がってきた。ぞわぞわとした寒気だか悪寒。思わずぶるりと身体を竦めれば、流川は妙に楽しそうに俺に触れてきた。
額にひとつ。頬にふたつ。ゆっくりと唇を落とされて息を飲む。目が合って、耳の後ろを擽られて、…互いの呼吸を読むこの瞬間はいつだってすこし緊張した。
タイミングを計るように瞬きすらしない流川は、今日いちばんの丁寧さでキスをして、不覚にも俺はその頃には観念していた。ああもう、なるようになれだ。
したい、と言われて頷いて、「じゃあしましょう」と自然の流れに持ち込めるほど、男同士のセックスは単純ではない。
当然俺は男同士でセックスなんて無理だと思っていたし、せいぜいお互いのアレを擦りあって達くのが関の山だと信じてた。でも流川は違った。
男同士でもできる方法がある、なんて真剣な目をしてベッドサイドから徐にコンドームとローションを取り出された時の俺を想像して欲しい。
お前そんなもんいつ買ったんだとか、どんな面してチョイスしたんだとか言いたいことは沢山あったが、それよりも。そこまでしてヤりたかったのかといっそ笑えたくらいだ。
俺は崩壊寸前の思考の中でどうにか男同士でもできるというその根拠と自信の仕入先を問うた。今思えばここで「頭平気か?」と一発殴ってしまえばよかったのかもしれない。
流川はまるでヤマオーの小坊主との対峙を再現するかのような眼差しで、ひどく真摯に、それこそ、もういいそれ以上言うなって事を説明してくれやがった。
それを聞いて先ず思ったのは、俺は絶対に掘られるなんてゴメンだという事だった。しかし流川もそこは折れなかった。どういうわけか自分が挿れる側だと思い込んでいて、そこからはまぁ…いつもの如くってやつだ。俺と流川の激しい争奪戦―という名のジャンケン―が始まったわけだが、結果は前述の通り。
俺は敗北した瞬間、らしくもなく逃げたいと思った。でも敵前逃亡、しかも流川から逃げるなんてみっともない真似はできるわけないと腹を括った。
男らしく全てを受け入れてやろうと決意し、現在に至るわけだが、しかし。
「ふ、…っく、くはは!」
「……」
「っは、はははは!もうムリ!やめろ!」
「てめー…」
流川は俺の胸元から顔を上げてこちらを睨んだ。言いたいことはわかる。でも無理なものは無理なんだから仕方ない。
首筋も、肩も鎖骨の上も、流川に触られるところ全てが擽ったくてたまらない。
「いい加減にしろ。ちっとは我慢しろ」
「だってお前、それ…っちょ、ぶはは!」
「……」
俺が笑い続けても流川は手を止めなかった。シャツの釦を外し、なかに着ていたTシャツを巻くり上げ、笑いの止まらない俺の口を塞ぐ。
いつもなら性急に舌を入れられてしまえば上がる息も、腹の辺りを弄る流川の手が気になって中途半端に吐かれるだけだ。
「…何してもそんなんだと萎える」
ぼそり、呟かれた言葉も拾えないほど俺は笑いの境地にいた。人は、一旦笑いのスイッチを押されると止まれないものなのかもしれない。
けれど躍起になった流川が唐突に性器を触れば、俺の身体はびくりと大袈裟に反応した。
「っ、…きなり、なに…、」
「集中しろ」
「ふぉっ!」
次いで胸の真ん中に吸い付かれて声が出た。しかも…変な声。
流川はそれで気を良くしたのか、そのまま口に含んだ突起に歯を立てた。思わず、あ!と高い声が出て俺は慌てて両手で口を覆う。
「や、やだ、やめろ!それ!」
「なんで。気持ち良くねーの?」
良いわけあるかと口を開きかけた瞬間、今度はそこを舐められた。ぺろぺろと子猫のように舐められて腰の辺りがむずむずする。痒いような、擽ったいような感覚だ。
落ち着かなくて流川の頭を押しやれば、顔を上げて「ダイジョーブだから」と意味のわからないことを言われた。
そうして再び舐められる。
こんな、男の平らなものに何が楽しいのか、流川は右の乳首を口に含んだまま左のそれも指で捏ね始めた。そうされながら、空いた手はスラックスを弄ってくる。
なんだこいつ、こんなに器用だったっけ?そう思う思考にも靄がかかってぼんやりしてきた。
「っ、は、…く」
吐き出される自分の息が熱を孕んで嫌になる。執拗に舐められ触られたところがジンジンと痺れてきて、なんだかそこにもうひとつ心臓があるみたいだと思った。
流川に触られて、流川のせいでこうなってる。やっぱり殴ってやめさせようか。
「るか、わ…、」
腰を浮かせて流川の肩を掴む。流川はいつの間にか俺のスラックスを下着ごと引き下げて、剥き出しになった性器を凝視していた。
「おおおまっ!!」
「なに」
「どこ見てんだばか!!」
「どあほうのチ」
「言うなあああああ!!」
力の限り叫んで俺は決心した。もう無理だ。こいつの息の根を止めてやる。男と男の約束なんてクソ喰らえ。
けれど殴ってやろうと振り上げた腕を掴まれて、流川は笑った。
「キモチイイんじゃねーか」
ホラ。そう言いながら性器をするりと撫でられ声が詰る。信じられないことに、そこは硬く張り詰めて上を向いていた。
カァッと全身に熱が集中する。知らないうちに涙まで滲んできて、俺は今にも恥死できると思った。
男同士だとか、好きな相手だからなんて関係ない。こんなところを揶揄されて正気でいられる方がおかしい。
なのに流川はさらに信じられない行動に移った。なんと、そこをぱくりと含んでしまったのだ。
「っ…!!」
熱い。熱くて柔らかい。性感帯の源であるそこに感じる熱は、乳首の比じゃなかった。
呻くように声を上げて俺は悶えた。この行為自体生まれて初めてだけど、これが気持ち良くない男なんていないと思う。
いきなり与えられた感覚は殆ど強引で、だけど的確だった。流川は緩くもなくきつくもない圧力でそこを締め、顔を上下に動かしてゆく。濡れた口内は熱く、丁寧に扱かれてくらくらと眩暈がした。死ぬほど気持ちがいい。
「る、かわ、…あ、あっ、あ!」
だめ、出る。
俺は情けなくも切羽詰って流川の髪を掴んだ。これ以上されたら達してしまう。
止めてほしくて何度も名前を呼べば、流川は俺の性器を含んだままこちらを見上げてきた。目だけで微笑される。
もうだめだ、思った瞬間根元をきつく握られて行き場のない熱量に視界がちかちかとした。
「ん、っ…、」
「まだイかせねえよ」
「な、に…、…あ!」
快感にまどろんだ下肢に、突然冷たい液体の感触。それが、流川の指で俺の尻に宛がわれたものだと気がついたのは、視界の端に蓋を開けたローションが転がっていたからだった。
何をするのかと問う暇もなかった。ぬめる液体を絡めた指は、俺の性器を咥えた時と同じように躊躇なく穴を探った。
「い、…あ、やめ…!」
「やらねーと、どあほうが痛ぇ思いする」
「だ、から、って、そんなとこ触…っ」
「ダイジョーブ。思ったより、いけそう」
何がだ、と聞きたかったけど、それよりもクチュクチュと響く下肢の音に耳を塞ぎたかった。
流川は慎重に入り口を撫で、襞を傷つけないように指の腹で擽ってくる。そのうち、一本の指がゆっくりと中に進入して第一関節あたりで止まった。
痛くはないが、気持ち悪い。それがそのまま顔に出ていたのだろう。流川は更に指を進めて内側をぐるりと掻き混ぜた。
「っ、…気持ち、わり…い」
「そのうちヨくなる。…から、ちょっと力、抜け」
再び再開される行為に、俺の身体は極度に強張った。腰を捩って足をバタつかせると、流川は片足を掴んで大きく広げさせ、その間に身体を割り込ませてしまった。
なんて格好だ。股を開いてヤツに全てを晒している―そう思うとじっとなんてしてられなかった。
「ちょ、ヤダ!やだってばか!」
「うるせー。我慢しろ」
流川は暴れる俺を上から押さえ込み、尻への挿入で萎えてしまっていた俺の性器を再び扱いてきた。
ローションのぬめった手で擦られる。その良さは、抗えないものがあった。けれどもっと抗えなかったのは、そうされながら内側を擦られることだった。
無意識に緩めてしまった入り口は指を奥へと誘い、そこで上壁に向けて曲げた指の先端をしこりに擦り付ける。その衝撃に、俺は目を見開いた。
「うあ、あ、あ!?」
「…どあほう?」
「あ、あっ!やだ、やっ…さわ、んな!」
「これ…?」
「ヒ、やだ、あ、るかわ!やめ…!ああ、あ」
何が起きたのかわからないくらいの刺激。性器の裏側を直接触られているみたいな感覚に、勝手に涙が溢れた。
流川は止めるどころか益々執拗にそこを嬲り、増やした指で押すように、撫でるように、そして時折引っ掻くように繰り返した。
ぐちゅぐちゅと漏れる音は先ほどよりも粘度を増していて、それが尻の穴からなのか、扱かれている俺の性器からなのかわからない。
痛いくらいの快感はいっそ暴力だ。性器は閉め忘れた蛇口のように液を零して、喘ぐ声も、ばかみたいに早くなる呼吸も、それを繕う余裕すらなく俺は昂ぶった。
もう、どうにかしてほしい。解放してほしい。なんでもいい。楽にしてほしかった。
「るかわ、るか、わ!」
「なに、」
「もういい、あっ、から、はやく、」
「……」
「なあ、…るかわ、はやく、はやくどうにか、し…っ」
ぐずぐずと泣きながら懇願した。一刻もはやく解放されるならどうだっていいと思った。
なのに流川は俺を凝視したまま動かない。散々嬲っていた下肢への動きも怠慢になって、ただじっと俺をみていた。
「…る、か」
みっともないって思ってんだろ。わかってる。俺は今ぐちゃぐちゃで情けない顔をしてる。でもそうさせたのはお前だろ、流川。
真っ黒でつやつやの目に射抜かれながら、俺はぶわっと涙を溢れさせた。自分だけがこんなで悔しい。服装ひとつ乱れさせていない流川が、悲しい。
ひっく、としゃくりあげながら流川の顔を引き寄せて、その唇を塞いだ。
このまま放置されるなんて耐えられない。ヤるって息巻いてたんならさっさと突っ込めよ。突っ込んでお前も一緒に情けなくなればいい。
お前だけ普通で、冷静でいるなんて許さない。
「…っ、どあほうが」
しがみついていた肩越しから呻くような声が聞こえた。と、思ったら、急に身体を剥がされた。
なくなった体温を名残惜しいと思う間にベッドに両肩を縫い付けられて、流川に口を塞がれる。
ぶつけるようなキスは今日いちばんガサツで性急だった。
「っん、んんっ!」
息継ぎもできず喘ぐ口から唾液が零れ落ちてゆく。流川はそれを気にすることもなく口内を弄って、酸欠になる手前で漸く唇を離した。
俺は何も言えずにはぁはぁと流川を見上げて、流川はまた目だけで微笑する。瞬きもせず見つめてくる。
―あ、タイミング図ってやがる、と思った拍子にゆっくりと唇を落とされて、今度は触れるだけの口づけを何度も繰り返された。
ちゅ、ちゅ、と啄む音の合間、下肢からカチャ、とベルトを引き抜く音がする。
のぼせた頭でそれだけ理解できたけど、それでいいと思った。恐怖がないわけじゃない。でも多分、今を逃して他に機はないと思った。
「っく、あ!!」
貫かれた衝撃は、やっぱり大きかった。痛いし、苦しい。でも我慢できないほどじゃない。さっきまで流川がしつこいくらいぐちゃぐちゃに掻きまわしてくれたお陰なんだと思う。
ただ、指とは比べ物にならない質量に圧迫感は酷かった。流川が少し身じろぐだけで身体の中身全部が振動するみたいな、奇妙な感じ。まるで、腹に生き物を入れられたみたいだ。
どくどく脈打つそれは熱くて、俺は短く息を吐き出しながらどうにか耐える。流川は全部を俺に入れた後、顔を伏せて肩で息をしていた。
止めどなく溢れる涙に邪魔されてよくわからなかったけど、なんだかヤツも苦しがってるような…。―あれ?震えてんのか?そう思った時だった。
「っ!?」
突然、体内で何かが弾けた。
冗談じゃないくらい熱い飛沫。さきほどより大きく脈打つ流川のもの。俺は最初何が起きたのかわからなかった。
けれど流川が肩を落として崩れるように俺に覆い被さってきたのでピンときた。…こいつ、まさか。
「……」
「……」
「……おい」
「……」
「ルカワ、」
「……なにも言うな」
流川は本当に気まずいのか、顔を上げようとしなかった。―まぁ、だろうな。だって挿入した瞬間イってしまうなんて、情けなさすぎてどうしようもない。
俺の肩口に顔を埋めたままわなわなと震える流川に、俺は思わず笑いが込み上げてきた。
「おまっ、早漏って次元じゃねえぞ…っぶ、ははは」
「……」
「さ、散々余裕ぶっかましておいてお前、それ…っ」
「…ウルセー」
俺は体内に流川のものを咥えていることなんか忘れて大いに笑った。なんだ、情けないのはお互い様じゃないか。いや、この場合、度合いでいったら流川の方が数段上だ。
そう思えば笑いは益々止まらず、さっきまでとは全く違う涙を零してしまった。
仕方ねえ…これは俺のせいじゃねえ、往生際悪くブツブツ呟く流川は負け惜しみに俺の首に噛み付いて顔を上げる。
「てめーのせいだ、どあほう」
「わはは、何を言っているんだルカワくん。言い訳はいけないよ」
「言い訳じゃねー。どあほうん中が、気持ちよすぎるからいけない」
「…はっ?」
「それにさっきから散々煽りやがって…あんな顔で入れてとか言われて我慢できるか」
「な…!!」
流川の言葉に危うく憤死しかけた。煽るって、あんな顔って…。いやそれよりも。
「入れてなんて言ってねえ!!!!」
今なら殺せる、そう思って流川の首に手をかけたら、流川はその手の上に指を滑らせてきた。
ぎょっとしたのも束の間、流川は口の端を上げて嫌な笑い方で一言。
「続き、ヤル。ちゃんとどあほうをイかせてやる」
思い出したように中を軽く突かれて驚いた。知らぬ間に流川は硬度を取り戻している。イった後あれだけ笑われてよくもまぁ。
だけどもう俺は臆したりしない。だって、情けないのは俺だけじゃないってわかったから。
それに―。
「そんな口聞いて平気かよ。貧弱キツネめ」
「む…」
「いいから、次はちゃんとしろよ」
中の違和感をぎゅっと耐えて、身体を起こす。ぱちぱちと瞬きする流川の肩を押して、俺はその腰に跨った。
押し倒されてきょとんとする流川はガキ臭い仕種でこちらを見上げる。俺はひどくいい気分で、ニヤリと不敵に笑ってやった。
好き勝手されっぱなしは性に合わない。気持ちいいことなら尚更、俺ばっかりなのは嫌だ。
だから今度は、俺が流川をぎゃふんと言わせてやる。
「覚悟しろ」
恐る恐る腰を浮かして流川の刀身を晒す。中から流川が放ったものが溢れてきたけれど、今はもう気にしてる場合じゃなかった。
まったく、コンドームなんて使う余裕ないくらいに切羽詰っていたくせに、ちゃんと俺をイかせてやるだなんてよく言えたもんだ。
だけど、それだけ無我夢中に求められるっていうのは悪くない。
俺は抜けてしまうぎりぎりまで腰を上げて、今度はゆっくりと下ろした。自分の体重で、さっきよりももっと奥に挿入された気がする。
「ん、うっ」
「…っく、どあ、ほ…」
精液かローションか、それとも俺の先走りかわからないものを潤滑油に何度かそれを繰り返すと、流川が執拗に嬲ったしこりに擦れて腰が痺れた。
思わずがくりと崩れ落ちる俺の腰を流川が支えて、今度は下から突き上げられる。ぐ、と的確にそこに当てられて上ずった声が出た。
気持ちいい。本当に、ばかみたいに気持ちがいい。ケツを掘られてこんな風になるなんて、信じられない。そう思うのと、流川のことを笑えないかもしれないと思ったのは同時だった。
長く持ちそうにない。未知の気持ちよさに、身体は異常なまでに貪欲だ。もっともっと、と自ら咥え込んでいるみたいだ。
恥ずかしい。でもそれは自分だけじゃない。
下から俺を見上げる流川は、余裕のない顔で息を上げている。紅潮した頬やこめかみに流れる汗がその必死さを物語っていて、ああ、なによりその目。真っ直ぐに見つめられて目が離せない。
「うあっ、も…、へん、になるっ」
「っ、おれ、も」
少し寄せられた眉は常にない流川の表情だ。俺の中に放った時、こんな顔をしていたのだろうか。
熱くなる。身体が、内側が、心臓が。
「あっあ、あ!」
見せたくない。誰にも。流川のこんな顔は。俺以外の誰にも。
上り詰めた俺は、薄れゆく意識のなかで初めて独占欲染みたことを思ったのだった。
END