「ん、…っは」
夢中でキスに酔い痴れながら、花道は流川の首に腕を回す。気付いた流川が花道のシャツの裾に手を忍ばせたところで花道は我に返った。
「ちょ、ちょっと待て、おまっ、なに…」
「なにって」
「いやだから、なにして…ん、」
花道の動揺に構う様子もなく、流川は着々と事を進めてゆく。喚こうする口は唇と舌でねじ伏せ、右手は花道の胸を彷徨わせた。
「うおっ!」
唐突に襲った感覚に花道の肩が揺れる。
色気がねー、文句を零しながらも流川は楽しそうである。触れた胸の頂を今度は爪でひっかいた。
「っ!ま、ま、まて!コラ待てルカワ!」
「待たねー。四年も待ったんだ。今更待てるか」
「よ、四年ておま、そんな前からこんなハレンチなことを…、じゃなくて!ちょ、ま、」
「るせー。黙ってろ」
「あっ!」
予告なく胸に吸い付かれ、更に舌で舐められた。瞬間、身体を駆け上がるなにか。
それが何なのか理解できずに花道は起き上がろうとした。
しかしそう易々とそれを許す流川ではない。
両肩を掴んで花道の腹の上に馬乗りになると、今度は後手に花道の下腹部を弄りだした。
ルカワ!と叫ぼうとしてキスされた。
ちゅ、ちゅ、と音を立てながら唇が吸われ、それがどうしようもなく気持ちよくて力が抜ける。
その隙に流川はずるずると身体の位置を変え、手にしていた花道のものを服の上から扱き出した。
「ん、んっ、」
声が漏れる。
しかも、うっかり反応し始めている。
やばい。これってやばい。
いくら花道が鈍くとも、ここまでされれば流川がこれから何をしようとしているのかは解る。
でもそれはいけない事だ。
だって流川は男で、年下で、中学生で、花道のかけがえのない大切な…、
花道の結論が出かけたところでタイミングを合わせたように強くものを扱かれた。
「ぎゃ!」
「だから色気がねー」
「あ、あってたまるか!ていうかなにする気だお前、も、いい加減…んっ!」
暴れる花道を流川の手が制する。今度は直に触られ、あっという間に穿いていたパンツを下着ごと抜き取られると、そこに顔を埋められた。
抗う暇もない。
熱いなにかに包まれたかと思えば、ねっとりと柔らかい塊がかたちをなぞるように這い上がってくる。
そのまま顔ごと上下に動かれて、花道は完全に言葉を失った。
あの、流川が。
自分のものを。
しかし呆気にとられる頭とは裏腹に、身体は正直に反応を返す。
ぐんぐんと立ち上がる己に、花道は羞恥の限界に達した。
「も、やめ…っ」
「やめねー。だってどあほう、しっかり勃っ」
「わああああ!言うな!」
「もう諦めてヤられろ」
「ヤ…っ!?お、お前ほんとに中学生!?どこでこん…っんあ!」
再開された動きに声が裏返る。
今度こそ本気でやばい。あと少し繰り返されでもしたらイってしまいそうだ。
花道がそう思った時、流川は急に動きを止めた。
助かったと息をつく間もなく、次に訪れたのは指の感触。それも、尻にだ。
なにをするのかと聞く前に、そのままぐい、と足を開かされ拡げられた場所。そこを躊躇なく舌が這ってゆく。
「ルっ…!」
さすがに許容範囲を超えた。
花道は無我夢中で身体を起こすと、足の間で揺れる黒髪を掴んだ。
だけど顔を上げた流川の目が、いつか見たあの目と同じで、真っ直ぐに花道を射抜くから。
もうここで離したくない。
流川をなくしたくない。
「…も、…すきにしろよ、」
上体を横たえ、花道は力を抜いた。
その言葉に、流川が目を見開く。
「いーのか」
「…早くしろ」
続きを許可されて、流川は気を良くしたらしい。
さきほどよりも執拗に、丹念に、そこを濡らしてゆく。
花道の息が上がる。
内股が痙攣する。
どのくらいそうされていたのか、気付けば指が二本、第二関節以上体内に埋められる程度にはそこは解れていた。
「…は、っ、」
「どあほう、挿れていー」
「やだっつったって、挿れるんだろ」
「…イヤダっつーなら、しない」
「え、」
「どあほうが良くなきゃ、意味ねー」
流川の前髪がふわりと揺れた。
その間から見える瞳。上に圧し掛かる体重。力強い腕の筋肉も骨ばった指も全部、ここへきてその全部に愛しさが募った。
もう恐怖は感じない。
あるのは、真っ直ぐ向けられる自分への想いに、応えたいという気持ちだけ。
「いい…、オレも、ルカワと同じだ」
直後、流川に喰われるような口づけをされた。
もちろん花道も同じように返してやる。
そこには少しの隙間さえなくて、合わさった唇から熱が発火して溶けていくのを感じた。
ああそうか、これが所謂ひとつになるっていう…
ぼんやりとそんな事を思いながら、花道は流川を受け入れるために目を閉じた。
情けないけど、そうでもしなければ心臓が破裂しそうに脈打っていたから。
できるだけゆっくり、でも流川も大人ではない、先を急きそうになるのを耐えながら自分の持ちうる全ての技巧でもって花道に自身を埋めてゆく。
「い、っつ…」
「痛い?痛いのか」
「い…、くねぇ」
「っ、…どあほう、息、吐け」
「…はっ、」
「はい…った、」
流川の額から落ちる汗が花道の肩に雫を残す。
漸く全て収まったと顔を上げた流川は、余裕なんて微塵もない、眉間に寄せた皺がその青さを匂い立たせていた。
「も、我慢、できね…っ、どあほう、」
動いていー?
上目使いで問われ、ああもうなんていうか狂いそうなくらい愛しい。
視界が滲んで、花道は殆ど衝動的に流川に腕を伸ばしていた。
揺れる、揺れる、二人の髪。汗、つま先。
イヤダと花道にしがみついた小さな手が、今や腰を捉え、足を抱え、花道の手のひらと合わさっている。
痛みと背骨から込み上げる熱に耐えながら、花道は流川の髪を梳いた。
「でもやっぱ、あの頃と変わってねー、」
夢中で揺さぶる流川に、その声は届いていないかもしれない。
花道も次第に余計な思考に靄がかかってきた。
「どあほ…、すき、好きだ」
「っ、…知っ、てる」
「どあほうは」
「あ…、なに」
「オレが好き?」
「…」
「オレがいないと嫌?」
「…、」
「どあほう、」
切羽詰った声がぞくりと下腹に響く。
花道は可哀想なくらい真っ赤な顔で空中に視線を彷徨わせた後、意を決し、流川の顔を引き寄せた。
そうして耳元で囁く。
彼にしか聞こえぬように。
流川は、その言葉にふわりと目を細め、オレも、と口づけを贈るのだった。
クーラーのない花道の部屋に耐えかねて向かった流川邸にて。
シャワーから上がった流川に、先に済ませていた花道が振り返って睨み上げた。
「二回もイキやがって…」
ぼそりと呟くその声に、流川は素直に悪かったと謝った。
結局あの後勢いが止まらず、花道の抗議をゴリ押しして至してしまったのだ。
若気の至りとはよく言ったものである。
けれど花道が不機嫌なのはその事ではないようだ。
何故かそれだけは理解できて、流川は花道の前に回りこんだ。
彼は体育座りをしたまま、視線を窓に送っている。
「どあほう…?」
「別に、なんでもねーけど、」
明らかに何かありげである。
色素の薄い唇が突き出され、心なしか頬がぷくりと膨れていた。
しかし流川は皆目検討がつかず、腹減ったのか、などと的外れな事をほざいてしまう。
案の定、減ってねーよアホ!と怒鳴られる始末。
…困った。どうしたらこの可愛い年上のひとを笑顔にできるのだろう。
流川が頭を悩ませ始めた頃、見かねて漸く花道が口を開いた。
酷く、決まりの悪い顔で。
「カノジョ、どーすんだよ」
そこで流川はやっと、自分にそんなものがいると花道に吐き捨てた事を思い出した。
そして花道に負けないくらい決まりの悪い顔で呟く。
「…いねー」
「あ?!」
「だから、いねー」
「な、だってあの時…」
「あれは、ウソ」
「何ィ!?」
思わず花道は頓狂な声を上げた。
だってあの時、確かに言ったのだ、このガキは。カノジョだと。
それが嘘だって?
いやでもおかしい。
あの時、女の子は…
そう、女の子は。
「で、でもあの子、お前んちから出てきた…」
「試合の申込書、間違えてオレに渡してて、夜取りに来た」
「申込…」
「あれはマネージャー」
「マっ…」
マネージャー!?もう一度花道は声を上げた。
それから思い返す。
そういえばあの子、彼女か?と問いかけ何も答えなかった流川に、特に反応はなかった。
そうか、マネージャーだったのか。
しかし…ならば何故あの時流川は、
「どあほうがカノジョの一人でも作って、っつーから」
「ムキになってウソついたのか…アホかお前…」
げんなりと肩を下ろす花道に、流川はニヤリと笑みをつくる。
なんだよ、顔を上げた花道を抱き寄せるとその唇を啄んだ。
「でもどあほうが気付いたから、」
もうその後の台詞は聞くまでもなかった。
嫌ってくらい、花道は思い知ったから。
流川楓が必要だって事。
いちばん、大切なひとだという事。
だから花道は立ち上がって流川に手を差し出す。
「使うなら、やる」
その手をとった流川は、手のひらに乗せられた銀色の金属を確認して頷いた。
合鍵は、差し込む夏の陽を受けて透明に光っていた。
END