絆-3 (1/5)  その日、学校から帰宅途中の和美の胸は、今までにない程の鼓動で揺らされていた。 「お…女の子にあんなのがついてるなんて…」  学校の性教育の授業で初めて見た、男女の性器。保険の先生が、腰〜太股の人体模型を使って  丁寧に説明してくれた。最初は一部の男子生徒が先生をからかっていたが、先生が説明を進めて  いく内に、皆真剣に聞き入るようになっていた。性器の外観、仕組み、そして子供の作り方。 ”へぇ、男の子のおちんちんってあんな風になってるんだ” ”あれが大きくなるなんて信じられない ”しかもあれ、あたし達のここに入るんだって…嫌だわぁ”  友達全員が男性器の話題で持ち切りになっていたとき、和美は配布された解説書に目を奪われていた。 (わたしの股間に…こんなものが入ってる…)  それは、女性器の図解だった。股を開いて正面から見た図、そして断面図。和美はその形状の  複雑さ、そして神秘的な機能の事で頭が一杯になっている。 (家に帰ったら…確かめてみよう)  学校から帰宅した彼女はそのまま自室に駆け込み、ドアの鍵をしめた。 「ふぅ…」  溜め息をついた和美は鞄を椅子に置き、ベッドの端に座り込む。 「…」  深呼吸を数回繰り返し、心を落ち着かせてから立ち上がると、スカートの裾をめくりあげた。  そのままパンツのサイドに手をかけてスルリと脱ぎ捨て、手鏡を片手に床へ座る。 「私の…」  合わせていた膝をゆっくりと開き、手鏡で自らの股間を映し出してみた。 「…よく見得えないや」 絆-3 (2/5)  膝の開き方が中途半端だったせいか、太股の間に走る縦スジが鏡に映し出されているだけだ。  割れ目の中央付近には何かが詰まっているように見えるが、小さ過ぎて確認が出来ない。 「図解だとあんなに中身がよく見えてたのに…」  鏡を持っていない方の手を割れ目にかけようとしたが、その手が途中でぴたりと止まる。 (…本当にあんなのが…入ってるのかしら)  彼女の知っているものにたとえれば、それは鮮やかな赤身を帯びたアワビというのがぴったりだ。  二枚の扉を目の前にして、彼女の心にはある種の恐怖心が芽生え始めていた。 「…そうだ…春海ならきっと…」  彼女の頭に、一人のメイドの姿が浮かび上がった。メイドロボの彼女なら、私の疑念にきっと  答えてくれる筈だ。そう思った瞬間、ドアをノックする音が和美を現実へ引き戻した。 「和美様? どうかされましたか?」  あわててパンツを履き直す和美。 「な、なんでもないの!」  服装を素早く整え、ドアの鍵を開ける。少し間をおいて、ドアの向こうから黒髪の少女が  顔を覗かせた。 「御返事が聞こえるまで、初回のノックから1分12秒を要しています。体調に何か異常が…」 「大丈夫よ、うん」 「お顔の色に変調が見られます。通常時と比較すると、赤味成分が23.87%増加していますが」 「あ…その…ほら、今日は走って帰ってきたから、体温が上がっちゃったのよ、きっと」 「…確かに心拍数も平常時より高い傾向が見られます」 「汗もかいたし…そうだ! お風呂! お風呂に入りたいな」 「入浴には少々時間が早いかと思われますが」 「汗かきっぱなしだと、気分が悪いわ」 「…申し訳ありません、ただいますぐに準備を」 「ちょっと待って!」  踵を返し、立ち去ろうとした春海の肩を掴む和美。 「なんでございましょう?」 「…わたしの背中、流してくれないかな」 絆-2 (3/5)  大宮電工株式会社会長、大宮 重太郎。人間の肌触りだけでなく、関節駆動に人工筋肉を用いた  汎用アンドロイドが大ヒットしたおかげで、今や納税額ベスト100の頂点を極める男に成り上がった。  製品の中でも特に売れたのが、一般家庭向けメイドロボだ。人間に圧迫感を感じさせないサイズ、  柔軟な動作。そして最新のソフトウェア技術を駆使した、当時の同型ロボットと比較しても群を抜いた  コミュニケーション能力。それらの最新試作パーツのテストベッドとなっていたのが、大宮家のメイドを  勤める”春海”だった。 「お湯の温度はこれぐらいでよろしいでしょうか」 「うん、熱過ぎず温過ぎず…丁度いいわ」 「ありがとうございます」  和美の身体を流しながら頭を軽く下げ、笑みを浮かべる春海。試作品の塊である彼女には、それまでの  ロボットにはない様々な技術が用いられている。 「笑顔、すごく自然になったわね。なんだか本当に嬉しそう」 「そう見えますか? お母様が先日試作された、表情の遷移ロジックが功を奏していると思われます」 「お母さん、笑顔には本当にこだわってるものね」 「わたしも和美様にお褒め頂いて、嬉しく思います…もっと和美様のお役に立ちたいです」 「ふふふ…」  数ヶ月前から春海のAIには、”欲望”がプログラミングされていた。単純な受け答えだけではなく、  自らの欲求に従って動作し、知識を手に入れ、自身の思考ルーチンを構築していく。作られたばかりの  頃と比べると、彼女の挙動はかなり人間らしくなってきているのだ。 絆-2 (4/5) 「ねぇ、春海」  湯船につかり、身体を洗っている(これも春海が和美に教えて欲しいと懇願したことだ)春海に  話しかけた。 「いかがされましたか?」  シャワーで身体の泡を洗い流しながら春海が答える。 「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな」 「和美様がおっしゃられることなら、なんでも」 「じゃあ…そのまま立ち上がって」 「こうですか」  シャワーのお湯をとめ、中途半端に泡が身体に残った状態で春海が立ち上がった。 「そうそう。次は…こっちに歩いてきて」 「かしこまりました」  湯船の前まで春海が歩を進める。 「ん…そこで止まって」  和美の言う通り、春海は湯船の前で立ち止まった。丁度和美の視線の先に、春海の股間が位置する状態だ。 「そこでじっとしてて…泡が邪魔だわ…」  股間にこんもりと付着していた泡に、和美が手で湯をかけて洗い流した。そして泡の切れ目から、先程和美が  鏡で見た割れ目がその姿を現す…筈だったのだ。 「嘘…」