@@ 「そこで若様は立ち上がって私に言った訳。 若葉、もっとこっちの方を洗ってくれ。って」 若葉が身振り手振りを交えながら得意げに胸を張って喋っている。 「はい、そこで嘘。秀様は若葉なんて呼ばないでしょ。」 私がそう言うと頬を膨らませる。 「呼びました。呼んだもの。でね、でね、若様は私に体を洗わせながらこう言ったの。 若葉、そんな洗い方じゃあ駄目だな!って。 だから私は申し訳ございません、 若様の体をスポンジで洗うなんて若葉が考え違いを致しておりました。 ってお答えした訳。 そして私が手と唇で洗って差し上げようとしたその時、その時に気が付いたの。 ・・・若様のに毛が生えてるっていう事に!」 「若葉、本当ドMだよね。妄想が。」 と、ばりばりと煎餅を齧りながら前に座っている百合さんが口を挟む。 妄想もそうだけれど若葉は見た目のシャープな印象に比べて 本性は夢見がちな少女という所が問題だと思う。 隠してるけど人形とか好きだし。 「ドエムって何よ?大体妄想じゃないし。」 「判らないならいいけど。大体ね、妄想じゃないって 秀様が若葉が言ってるようなそんな事言う訳無いじゃない どうせ偶然確認することができたってだけなんだから 夜中にするような妄想はいい加減にしなさい。」 むう、と若葉が黙る。 「大体若葉、そういう妄想絶対に秀様に見せちゃ駄目よ。」 ぴしゃりと言い放つ。さすが百合さんだ。締める所は締める。 今は週に一度の秀様付き上女中の会議時間だ。 週に一度、3人で集まって秀様に関してお互いの情報を共有し、 今後の予定を話し合う場として使われている。 まあお菓子があったり、若葉が暴走したり、 雑談が混ざったりするのはご愛嬌。 別名休憩時間とも言われる所以だ。 まあ、女の子が3人で集まっているのだからこんなものなのである。 百合さんがんん。と咳払いをする。 「さ、雑談はこのくらいにしてそろそろ会議にしましょうか。」 さあ、これからだ。 いつもに比べて多少硬い声で百合さんが会議の開始を宣言する。 さあきた。 私の予測が外れていないなら。 今回の議題は、恐らく私達3人にとって非常に重要なものとなるはずだった。 @@ 私だけではない。 若葉があんなに秀様のを見た見たと力説しているのも 彼女なりの作戦のうちだ。 若葉も本日の議題が何であるかを気が付いているのだ。 「性教育・・・だよね」 沈黙に耐え切れず口火を切った若葉の声に うん。と百合さんは首を縦に振って背筋を伸ばしながら私達に言った。 「そう。若葉の言う通り、この前の女中会議にて正式に決定しました。」 ここで一度区切る。 私達の顔を一度見回してから、百合さんは続けた。 「秀様、いえ若様に対して私達は今後・・・性教育を行って参ります。」 ここまでは想定通りだった。 仕来りに基づいて大人と認められた未来のご当主様、つまり秀様には 今後上女中によって性教育が行われる。 当然教育なので専門の担当者が付くという事を意味する。 今日はその話だ。 ここからが勝負。 それは3人とも判っていた。そう、百合さんも含めて。 騒いでいた若葉もいつの間にか鋭い目で百合さんを見ている。 性教育担当は百合さんの担当している教育担当や 私の担当している生活担当等の恒久的な担当とは意味合いが異なる。 云わば暫定的な担当なのだ。 つまり他の担当者が兼務する形となり、 どの上女中にも担当になる権利はあるという事だ。 「で・・担当者なのですが・・・ 女中会議では秀様付きの上女中から候補者を出すように、との結論に達しました。」 一瞬だけ若葉と目を交わす。第一段階はクリアだ。 そこが駄目だと話にならないからだ。 性教育担当になれるかどうか、のである。 性教育担当は暫定対応であるが故にご当主様付きのベテランの上女中の中から 外見の優れたものが担当として選ばれる例も多いと聞く。 そうなってしまった場合、ご当主様の上女中には頭の上がらない私達の出番は完全になくなると見ていい。 最悪のパターンだ。 つまりここまでのこの結果は百合さんが女中会議にて勝ち取ってきたという事でもある。 恐らく秀様の特殊なご事情を説明し、 秀様付きの上女中から出すべきだと強弁したのだろう。 ご当主様付きの上女中にとって次代のご当主様の性教育担当となることは名誉だ。 会議が相当難航したであろう事は想像に難くない。 私だったら勝ち取れたかどうか。 そう考えると百合さんが勝ち取ってきたこの結果には頭が下がる。 しかし頭を下げてばかりはいられなかった。 ここから、今日の会議は私達3人の戦いとなる。 まずはここまでの情報を先に知っており、 この会議の議長でもある百合さんがどういう手段を考えてきて、どう出てくるかだ。 そしてそれを私達がどう切り崩すか。 私と若葉は固唾を呑んで百合さんの動向を見守るしかない。 ここを崩すまでは若葉との共闘となる。 淡々と百合さんは会議を続けようとしている。いつも通り、冷静に見える。 が、震える手に百合さんの動揺は現れていた。 百合さんもここが勝負どころである事は心得ているのであろう。 勝負をかけてくるつもりなのだ。それも今すぐに。 百合さんは大きく息を吸う。 そして早口で一気に捲くし立ててきた。 「で、担当者ですが教育担当である私が適任だと考えていますので そのように次回の女中会議にて提案を行う予定です では今週の会議を終了します各自仕事に戻って下さいはい終了。」 一息で言うと椅子から立ち上がりはい解散とパンパンと手を叩く。 そうきたか。 ふ、と鼻で笑う。 職権を利用して担当者の選定は既に決定事項として会議の場にて発表する。 社会でも中間管理職という職責にある人間がよく使うテクニックの一つだと ビジネス書で読んだことがある。 これに対する手は・・・ 文句を言おうと口を開こうとした瞬間、若葉ががたんと立ち上がる。 「百合さんそれずるいっ!!」 先手は取られたが私も立ち上がる。 「百合さん、私も異議があります。候補者の選定には万全を期すべきです。」 そう、異議を唱えるべきなのだ。 このような時に必要なのはベストの対案を出す事ではない。 スピードのある異議だ。 兵法にも拙速は巧遅に勝るとある。 決定には早い事のみを主張し、まずは敵の作り上げようとしている防壁を破るのだ。 「却下しますもう会議は終わりましたはい仕事、ぼやぼやしない!」 「ずるいです。」 「候補者の選定には万全を期すべきです。」 会議を終わらせようとする百合さんに対し私達は動かない。 絶対に動かないぞという意思を視線に込めて百合さんを見つめる。 それを見てごり押しは無理だと悟ったのであろう。百合さんの肩が落ちる。 「・・・私が教育担当ですので適任だと思います。それに一番年上です。 ご当主様の時もご当主様付きの上女中から選ばれましたが 一番年長の上女中が担当しました。」 それに対して若葉が被せてきた。 「若様が男になられたのを発見したのはさっき話した通り私な訳でしょう? だとしたら適任者は自ずから決まってくるんじゃないかな。 それに年齢に関しては寧ろ一番若様と近い私の方が適任といえると思うし。 だってこういう事は近い年齢の方が若様も話し易い筈だよ。絶対。」 「いえ、こういう事は経験です。 特に性教育担当は若様の心の奥底に触れるとてもデリケートなお仕事であり、 そして臨機応変さが求められる仕事でもあります。 そうするとこの前の夏で20歳となった年長の私が最も適任です。 あと倫理的にも。」 「臨機応変。百合さん臨機応変って言ったよね。 だとすると文乃さんには難しい仕事って事になるのかなぁ。」 百合さんの言葉を受けて若葉がにやりと笑う。 シャープな顔立ちが歪む。 防壁は既に突破した。 早速若葉が敵に回ったという事だ。 しかしこんなことは織り込み済み。 まずは私を候補者から外して百合さんと一騎打ちとの腹積もりなのだろう。 それに対して・・・ 私は目を閉じ、口を閉じる事で応じた。 はっきり言って理屈で攻められたら私は負ける。 特に秀様に年が近い訳でもなく、百合さんよりは年下。 そうは言っても今年で19歳なのだから17の若葉、 20の百合さんとはそう変わらない訳だけれど、数字は残酷でもある。 厳密に攻められたら中途半端な年齢であると、そう言わざるを得ない。 それに私にとって致命的なのは今若葉が指摘してきたその部分にあった。 言い訳の出来ない欠点だ。 私にはパニックに陥りやすい。 準備をし、ある事を予定通りに遺漏なく行う事に掛けては私は自信がある。 ミスをせず、想定できる範囲の事に関しては全て想定して事に臨む。 しかしそこから事態がずれるような事があった場合に 一瞬にして頭が真っ白になってしまうのだ。 そうなると涙が出てきて、何か訳の判らない事を口走り、 挙句の果てにその場を走り去ってしまう。 そして恐怖に駆られて走った事でさらにパニックが襲ってくる。 子供の頃からそういう事があって、未だにどうしようもなかった。 無論一度そうなってしまった事に対しては今後想定を行って事に望むから 同じ事が2度繰り返される事は無い。 しかし常に秀様の傍にいて、何かあった時にこそ資質を問われる上女中としては 致命的な欠陥と言わざるを得なかった。 だから私は外に出たり、お客様が訪問されるという様な 何らかの想定外の事態が起こりうる仕事は 出来るだけ百合さんや若葉に任せるようにしていた。 生活担当というミスが許されず、その代り起伏の少ない仕事を担当しているのは そういう事情に起因する。 だが今回ばかりは絶対に譲るつもりは無かった。 今回の仕事に臨機応変さが必要なのは判っている。 しかし譲るつもりはない。 もしご担当できる事になったら全ての想定しうる事態を想定し、 絶対にパニックにならない準備をする。 解決策があるのであればそれがどんなに困難でもクリアしてみせる。 クリアすればそれは欠点では無い。 絶対に勝たなくてはいけない。一歩も引くつもりは無い。 だからこそ。 だからこそ今は口を開かないのが得策なのだ。 ここは話し合いを泥沼に持ち込むべきだ。 私にとっての勝負はそこからだ。 私が黙り込んだのを見て2人は私が脱落し、一騎打ちになったと判断したようだった。 2人でどちらが相応しいかを延々と言い合っている。 水を口に含む。 5分程は待つ必要があった。 場が泥沼になって、前にも後ろにも動かなくなった時に私が橋を掛けてあげるのだ。 10分ほど待つ。 場が白熱し、ネタが出尽くして百合さんと若葉は睨み合っている。 ここだ。 一度落ち着いたそのタイミングのを見計らって、おもむろに私は切り出した。 「精通に導いて差し上げる。というのはどうでしょう?」 「・・・は?」 「・・・は?」 2人の動きがぴたりと止まる。 視線が私に集まる。 「んん。」 咳払いをする。勝負だ。 「失礼ながら生活担当として秀様をご担当させて頂いている関係上、 どうやら秀様はご精通されていないように見受けられます。 初心な秀様を一番最初に精通に導いて差し上げられた人をその後の性教育担当とするのです。 もちろん無理やりなんてのは駄目ですよ。 秀様が怯えられないように、自然に優しく、判りやすくお教え差し上げるのです。」 「ちょっと待ちなさい文乃。性教育担当とはそういう事をするのではなくて」 「百合さん、判っています。 無論、そもそも性教育担当とはそういう意味ではありません。 世の中の仕組みを学ばれる若様の大事な時期に男女の事柄を知って頂く事、 そして正しい知識を知って頂くことにより それに惑わされない心の強さを持って頂く事がその本質。」 百合さんの抗議を途中で遮る。 「しかし、本質と実態は又異なる事を百合さんは知っているでしょう?若葉も。」 ぐっと2人が詰まる。 それはそうだ。寧ろそれが目的である。 「外見の優れたものが選考対象としての最低条件という意味がどういう事であるかという事を。 確かに必要なのはは正しい知識を身につけていただく事。 それを私達の言葉にて身に付けていただく事が理想です。 けれどそれはあくまで机上の論理。 デリケートな問題を話し合う時に言葉だけでは伝わらない事もあります。 ましてや若様は14になられるお年。 時に衝動が理性を上回っても何もおかしくはありません。 いえ、寧ろ正常であるのだといえるかもしれません。 現に性教育担当者は若様のは、は、は、・・・」 落ち着け私。自分の言葉にパニックになるな。 今日のこの勝負の為に何度も練習してきた言葉だ。 胸を押さえる。 「は、初めての相手にお選び頂く事も多いと聞きます。」 ここで2人に視線を送る。 百合さんがついと目を逸らす。 若葉が素早く鼻を押さえる。鼻血だろう。 「勿論、そのような事にならないようにする事が重要です。 もしそのようになったらきちんと私達でなく未来の伴侶となる方が決まるまで そのような事は我慢して頂くよう教育するのが私達の務め。 しかし、万が一、万が一という事もあります。 お仕えしているうちに若様の気分が高まるような事がもし万が一あった場合。 若様が『私達の』名前を呼びながら切ない声でお求めになられたら。 どこまで私達が拒みきれるでしょうか・・・。 いえ、拒まなくてはいけません。しかし・・・」 百合さんがハンカチを取り出して目頭を拭く。感極まっているようだ。 若葉は鼻に当てたティッシュを真っ赤に染めながら悶えている。 「・・・因みにご当主様の性教育担当を務められた女中頭の沙織さんの話を 2人とも知っているでしょう。」 上女中なら全員知っている。 毎年の上女中同士の忘年会で酔いが回ってきたタイミングで 「このような事になったのは私の未熟さ故です。 今考えるに私はいかに未熟だったか。お断りしなかった私は上女中失格です。 私の教え方がいけなかったからあのような事に。悔やんでも悔やみきれません。 でも、でもあの時ご当主様は逞しく私を布団の中に横たえると・・・もう我慢できないっ!などと仰って・・・はぁ・・・ 皆さんは絶対にこのような過ちの轍を踏まないように 私の話を聞いてよくよく参考にしなくてはいけませんよ。 でも、でもあの時のご当主様・・・」 と頬を染めて身悶えながら数時間にわたって思い出話をする女中頭の姿を。 因みに女中頭の沙織さんはご当主様より年上なのでもう50に手が届く筈だけれど外見上、 未だに30代前半にしか見えずしかも非常に美人である。 その仕事に対する厳しい姿勢を含めて若い女中の間では 影で妖怪と呼ばれて尊敬されている。 普段は本当に本当に鬼のように怖い。 「女中頭はああやって毎年毎年暮れの忘年会の度に 私達若手の上女中を前に大変深く深く反省しておられます。 しかし、あの女中頭でさえ、過ちを犯してしまう。 因みに、女中頭は18の折、15歳のご当主様の性教育担当となり、 お手が付いてから5年間に渡って毎夜ご当主様のお部屋にて教育を行われたとの話があります。」 出血多量でリタイアするかもしれない。 と横目で鼻血を振りまきながらのた打ち回る若葉を見て話を続ける。 「んん。しかし、しかし私は逆に毒が薬になる。 という言葉もあるのではないかと思うのです。 今のご立派なご当主様がおられるのも、その時に過ちを知ったからこそ。 それが良いご経験となったのかもしれない。と。 そういうことも踏まえ、万が一の万が一、もしその時を考えて、 そういった面においても上手く行えるものが 最も担当者に推薦されるに相応しいと考えます。」 「だからまず、若様を自然に精通へと導いたものをその候補者にすると、 文乃はそう言いたいのね。」 「そうです。」 「自然にって・・・」 「自然には自然にです。あからさまに誘惑をするようなそのような事は上女中として許される訳がありません。 秀様に自分の体に自ずから疑問を持って頂き、それが何かを教えてあげる。 そういった流れで導いてさし上げる事。これが条件です。」 2人が黙り込む。 多分、今必死に2人はこの提案が自分にとって有利かどうかを考えている。 しかし結局は首を縦に振るであろう。 2人の性格、行動パターンを考えた末での作戦だった。 恐らく2人は長期戦を想定しているだろう。 若葉も百合も目算はあるはず。 どうせ若葉は夜の休憩時間、百合さんは勉強時間を当てて 一ヶ月ほど掛けてじっくりとでも今考えているのであろう。 そしてそれぞれ自分には勝機があると考えているはず。 そこが狙い目だった。 私は逆だ。短期決戦。 つまり、今日中に勝負を決める。 2人が唖然としている間に勝利を引き寄せる。 そこに私の作戦があった。 お風呂当番である。 一緒にお風呂に入るというのはこの提案の解決には正にぴったりなのだと言う事を私は気が付いていた。 お風呂でお仕えする事は生活担当としてのごく当たり前の仕事だから まだ2人は気が付いていない。 しかも、今週のお風呂当番は幸運にも私だ。 今週が若葉の担当なのであればこんな提案はできなかった。 百合さんも、そしていくら若葉でも冷静になって考え直せば直ぐに気が付く。 この勝負は短期決戦で決着を付けなくてはいけない勝負だったと。 しかし今それに気が付いているのは私だけ。 そして、勝負が始まってしまえば断然私が有利なのだ。 んん。 私の顔と若葉の顔を見ながら百合さんが咳払いをする。 もう提案を受け入れた顔だ。 しかし百合さんの事、最後に一回悪あがきをするはず。 「ん。んん。確かに文乃の言う通り、万が一のもし万が一を考えて担当者を決める。 というのは正しい考え方であると思います。 しかしですね。文乃の言うとおりそれほどに難しい仕事であればやはり年長の私が。」 そうくると思っていた。 賭けではあるが、最後の切り札を出す。 「さっきから年長、年長って言ってますけど百合さん処女ですよね。」 瞬間、百合さんの顔が真っ赤に染まる。 やはり図星か。 「な、な・・・」 目を丸く見開いている。よほどびっくりしたのであろう。 「うそ。本当なの?絶対百合さん違うと思ってた。  だって休みになると百合さんどっかいくじゃない。デートじゃないの!?」 百合さんの真っ赤になった顔を見て若葉も絶句する。 上女中だから恋愛をしてはいけないという訳ではない。 大体上女中とはそんな厳密なものではないのだ。 求められるのは忠誠心、それだけだ。 寧ろ恋愛感情を持つ事は禁忌と言って良い。 もし恋人を持つ事が上女中の仕事に支障を来たすのなら 下女中に配置換えをして貰えば良いだけだし現にそういう例もある。 だからこそ厄介だった。 私達3人は違った。 昔からいた若様じゃなかったから、 私達に頼らなくてはいけなかった若様だから。 始めて若様を見た時の百合さんの顔を覚えている。 そして最初は戸惑っていたけれど、すぐに優しい若様に夢中になった若葉の事を。 恋をしているのだと、思う。 百合さんも若葉もそして、私もだ。 だから譲れない。 3人とも譲る気は無いはず。 私だって絶対に譲らない。 私が不利だからと言っていつものように譲る気はない。 どんな策を弄してでもだ。ひっくり返す。 「あれは競馬か打ちっぱなしの練習です。ですよね。百合さん。」 「な・・・なんで知ってるのよ。文乃。そんな事・・・」 わなわなと百合さんが震える。 「ご想像にお任せします。 百合さん、ご当主様の上女中から選ばれる例が多いと言うのは 年長であるが故に経験済みであるからだと聞きます。 百合さんが処女なら私達は状況としては横一線と言っても良いのではないですか?」 百合さんは声も出ない。 「若葉も。あなたは若様に対して友達扱いのような振る舞いが目立ちます。 教育をするという担当において今の時点で本当に自分が相応しいと言いきれるの?」 若葉も黙る。 「じゃあ、そういう事で良いですね。初心な若様に精通とは何かを伝え、 導く事ができたものを担当者として推薦してもらいます。」 百合さんと若葉がこくり。と頷く。 駄目を押しておく。 「い い で す ね。」 「う、うん。」 「はい。」 「では今日の会議は終了と致します。」 会議の終了は、私が宣言する。 舞台は、整ったのだ。