Beautiful dreamer
「何処なんだ…ここは」 知らない場所を当てもなくさ迷う自分が居た。 そこには何もない。 目前を邪魔する障害物は何も。 見渡す限りの地平線だ。 今自分が立っている場所が地面だと判るのも、風で煽られた草が棚引いて腰にまとわりつくからだ。 これらがなかったら、何処が天と地の境目なのかもきっと判らなかっただろう。 「暗いな…」 月も星さえもない空。僅かな光もそこにはない。 そんな暗闇の中にシゲンは独り立っている。 ただそこに居る。 ここでこうしている訳にもいかないだろうと、歩みを進めようとした瞬間、後方で何かの気配がした。 振返った先の目の端に、赤い残像がすうっと走って見えた。 ザザザッと草叢を掻き分けて、慌てたようにそれが遠ざかっていく。 「待て!!」 それを確認した瞬間、言うよりも早く走り出していた。 「人」だと思ったのはどうしてなのか。 それは今の孤独な現状が求めている、自分の正直な気持ちの現われだったのかもしれない。 思わず自嘲した笑いが込み上げる。 こんなに無我夢中に、一体誰かも判らないような奴を、子供のように追いかけて、 捕まえる為に躍起になって。 走って走って追い求めて。 何がそう突き動かすのか。 ……いや、知っている。 俺は知っている。 決まっている。 俺には。 俺の中には、お前しか住んでいないのだから。 それしか ない。 「捕まえてやる。絶対に」 目前に見えた赤い髪。手を伸ばせば届く距離。 逃げ惑う背中に向かって、思いっきり飛びついてやった。 「きゃあっ!!!」 その声は、自分が一番良く知っている愛しい人のもの。 地面に頭を打ち付けないように、咄嗟に庇って抱え込み、身体ごと2回3回と転がった。 一面緑の絨毯だった場所が、音を立てて姿なき人の道を作る。 抱えられたその相手は、為す術もなくシゲンの胸の中で目を回していた。 「…ジュリア」 深い草叢の中で、そこだけ時が止まったようにしんと静まりかえっていたが、 頭上では相変わらず風が吹き凪いでいる。時にはびゅうと音を発てて。 ひっきりなしに草の擦れ合う音が、妙に耳に騒々しい。 だが…… 「…シゲン…?」 小さい声が、抱留めていた胸の中からした。 愛しい人。 愛する者のその声が、確認するかのように自分の名前を呼んでいる。 そっと横たえて、だがそれでも逃げられないように腹の上にすかさず馬乗りになる。 細い両手首を片手でまとめて、彼女の頭上に押さえつけた。 さぁ、ようやく捕まえた。もう逃がさない。 「どうして俺から逃げたんだ?ジュリア…」 「…え…?あ…シゲ…んんっ…」 答えなんていらない。言わせない。 自分が繋ぎとめるから。 まだ焦点の合ってない緑の目が、こちらを確認する前に、深く深く口付けてやった。 すべてが動き始める。 「…ん…?」 次の反応が見たくて、ゆるゆると目を開けるとそこには見知った天上があった。 気付いたのはベッドの上。 一瞬、今の状況が判らなくなって、ぶんぶんと頭を振って少しづつ思い出す。 ここはグラナダ。 昨晩は祝賀会の最中にジュリアが酒に酔って眠ってしまった為、 俺がこの部屋に連れてきたんだっけ……か? 「……何だ……夢かよ……」 ちっ…と舌打ちをして、横で健やかな寝息を立てるジュリアに目をやる。 まだ酒が残っているのか、頬と目の回りが赤い。 『一人は嫌なの……眠れるまでここにいて……』 「お前が……あんな事言うからだ。人の気も知らずによ……」 無邪気に眠っている様子があまりにも腹立だしくなって、 一指し指で頬を突付いてやった。 身動ぎはしても起きる様子はまったくない。 「……ふっ」 シゲンは面白そうにその行為を何度か繰り返しつつも、さっき見た夢を思い出していた。 確かにこの腕に抱いたジュリアの身体。まだ生々しい重さが残っている。 捕まえた腕もこんなに細かったのかと思えるくらいに。 「あれは正夢なんだろうか…。それとも…俺の願望の表れなんだろうか…。なぁ?ジュリア…」 頬杖をついてじっと彼女の顔を見ていたシゲンは、意を決して「これくらい…いいよな?」と まったく起きるそぶりも見せないジュリアに、そっと軽くキスをした。 愛しい人は何も知らずに眠っている。 Fin *あとがき* 久々にまた書いてみました…ヘタレ文。 しかもやってはいけない夢オチ(死)訳わかんねーんだってばよ! でもま、いっか…。ヘタレらしくてさ。<開き直り 説明するなら、グラナダイベント後、シゲンが部屋に残ってうたた寝した時に見た夢って感じ? ま、色々暗示してます…って事で。はい。 ちなみにタイトルはうる星やつらの映画から(笑)<いいのか? 私なんかの書くヘッポコSSが好きだなんて言ってくれた、しゅうさんにこっそりこっそり捧げます…。<調子ノリめ…。 |