ニセモノの恋
ただ、一緒に過ごした時間が、長かったから。
・・・心を支配しているのは、ニセモノの恋。
近づいてくる足音に、ヴェガは瞑っていた目を開けた。
夜の海が広がっている。
そして闇の中に佇む、長身の影。
「・・・交代には、まだ時があるが」
男が誰なのか、まったく興味がない。ただ、足音から相当の使い手だということは感じ取っていた。
戦いが染み付いたヴェガにとっては相手がどんな人間かということよりも、強いかどうかということのほうが確かな基準だ。
「お前に、話があったんでな」
影の男が口を開く。
「・・・・」
「ジュリアが、世話になったそうだな。シュラムの死神よ」
「ジュリア?・・・あの女か・・・それが、どうした?」
人の名前、しかも女の名前を覚えていたのは、久しぶりだった。
ヴェガ自身、そのことに軽い驚きを覚える。曇りのない剣を使う女。けれど、人を殺すことに怯えていた。
「どういういきさつがあったかは知らねえが」
影の男が言葉を続ける。静かな声。しかし、その奥底には確かに怒りが感じ取れた。
「2度と、あいつに手を出すな。」
「・・・・・」
「手出しするなら、俺が相手になる」
「・・・覚えておこう。お前の名は?」
「シゲン」
雲間から月明かりがさして、男の顔を照らす。
「シゲンとやら。ひとつ、忠告しておこう。」
目と目が、初めてあった。
「あの女は、剣士には向かない。そんなに大事なら、戦わせなければいい」
「お前に、あいつの何がわかる?」
静かだった男の声に、初めて感情が宿る。ヴェガには理解しがたい感情。男の目は、真剣だった。
「死んでしまうには、惜しい女だ」
思わず口を突いた言葉に、ヴェガ自身が驚いた。
誰よりも近くにいた。長い時間を共有してきた。
ずっと、自分だけを追いかけてくるものだと錯覚していた。
「バカだな・・・」
夜の海を見つめて、苦笑する。
幼いころ、いつも怯えてシゲンのベッドにもぐりこんで来た、可愛い妹。
優しくて怖がりな妹に戦いは無理だと、イルから旅立つことなど不可能だと、そう思って・・・。
グラナダへは、一人で行った。旧友を助けるために。
それなのにジュリアは島を出た。自分で道を切り開くために。
偶然か必然か。めぐり合えた運命には感謝している。
けれど・・・。
しばらく会わないうちに、ジュリアはどんどん変わっていく。
ガーゼルを離れ、イルに戻った時、抱きついて泣きじゃくるジュリアは、もう彼の知っている子供ではなかった。
あのとき、懲りたはずなのに・・・。
今また、同じように戸惑っている。
一人でイル島を飛び出した妹。傭兵として、目の前に現れた妹は・・・・。
「変わったな」
言葉に出して言ってみる。
狭い島の世界から飛び出した妹が新しい出会いを繰り返し、自分から離れて行くのが怖かった。
我侭な独占欲。ホームズが聞いたら、また過保護だと笑われるだろか。
雲がまた月を隠して、あたりが闇に包まれる。
この心を支配するのは・・・・ニセモノの恋。
「兄さん」
そう呼ばれて、シゲンは我に返った。
よりにもよって、こんな時に現れた妹は、屈託のない微笑をみせる。
「ジュリア・・・どうした?」
平静を装って。いつもと同じように。
シゲンは、口の端を上げてみせる。
「目が覚めちゃって・・・眠れなくて。ここにくれば、だれかいるかなって」
「お前なあ・・・」
「兄さんがいて、よかった」
心底嬉しそうにそう言うと、ジュリアはシゲンの横に腰を下ろした。
シゲンは自分が包まっていた毛布をジュリアに掛けてやる。
「寒いぞ、ここ」
「そうね・・・この季節、外で見張りはきついわよね」
ジュリアはシゲンに身を寄せると、毛布の半分をシゲンに掛けた。
「これなら、あったかいわ」
ジュリアは無邪気に兄を見上げる。二人で包まった毛布は、暖かかった。
「しょうがない奴だな」
「昔を思い出すわね」
ジュリアが悪戯っぽく笑う。その笑顔に、幼い面影が重なる。
可愛いジュリア。自分にとって、大切な存在。
それだけは、間違いなく本物の想い。
「見て、夜が明けてきた」
ジュリアの言葉に水平線に目をやると、ほんのわずかに白み始めている。
「ああ・・・」
シゲンが頷く。
二人は、身を寄せ合ったまま、夜が明けていくのを見つめていた。
この世にたったひとつだけの夜明けを。
・・・・この胸にあるのは、おそらく未だニセモノの恋。
抱えたまま、側にいよう。
いつか、本当の恋に落ちるまで。
終
だから、一体何が言いたいの?ってなもんですね。
シゲジュリヴェガ・・・・・う〜ん。ヴェガは難しいんですが。
え〜と・・・後半はシゲジュリ以前シゲジュリ。てゆーか、シゲンの想い、ですね。
ジュリアが離れて行くのはすごく面白くないけど、”妹”には恋はできないというジレンマの話。
自分が他の女と恋愛するのはかまわないけど、妹が他の男と仲良くするのはガマンできない!とゆー
非常にわがままな独占欲です。シゲン、シスコンっぽいから(笑)。
結局、グラナダイベントで陥落します。うちのシゲンさん。とほほ(笑)。