お酒の飲み方


元々アルコールには強くない。
グラス1杯だけでもすっかり酔いが回ってしまう。
自分の剣だけが頼りの傭兵稼業のなか、人前で酔いつぶれるような真似はできない。
それは命に関わる。
だからお酒は軽く嗜む程度だった。
けれど今は違う。
1日の終わりに彼とどちらかの船室で杯を傾けるのはめずらしい事ではなかった。
「そのくらいで止めとけ」
空になったグラスに注ぎ足そうとして邪魔された。
「何よ、意地悪っ!」
ボトルを奪っていった義兄を軽く睨む。
しかしそれくらいで返してくれるような相手ではない。
ベッドの縁に腰掛けながらきっぱりと言ってくれた。
「真っ赤だろ。お前はもう飲むな」
そういうシゲンはいくら飲んでもほとんど酔わない。
今夜だって軽くジュリアの3倍は飲んでいるはずだ。
なのに涼しい顔で次の杯を注いでいる。
「つまらないわ…」
テーブルに置かれた、まだ半分以上残っているボトルに名残惜しげな視線を向ける。
後少しくらい飲ませてくれたっていいのに。
お酒自体が好きなわけじゃない。
ただ、酔うのが好き。
鼻につく血の匂いや肉を断つ感触。
そういった嫌な事全部を忘れる事ができる。
「この間も飲み過ぎて次の日死んでたじゃねえか。いいかげん限界くらい自覚しろ」
呆れ顔で窘めるシゲンに、ジュリアは唇を尖らせた。
「1人だったらちゃんと加減するわよ。私だって馬鹿じゃないわ」
島を飛び出して1人で生き抜いていた頃。
何か起こったとき、頼れるのは自分だけだった。
どんなに辛くてもアルコールに逃げる事はできなかった。
「でも、今は兄さんがいるでしょ?」
だから安心して飲んでいられる。
もし酔いつぶれたって大丈夫。
ちゃんとシゲンがいてくれる。
「だから飲みすぎたって平気よ」
そうでしょう?
ジュリアはにっこり笑って同意を求めた。
だが返事はすぐに返ってこない。
シゲンはグラスに注いだばかりの酒を一気にあおるとため息混じりに言った。
「俺がいるから、か?」
「そうよ。そうじゃなきゃ、こんなに飲まないわ」
「…ったく…」
苦々しそうに前髪をかきあげる。
言外に困ったものだと告げてくる彼に、ジュリアはくすくすと笑った。
「手のかかる妹でしょ」
「かかりすぎだぜ」
厳しい口調を装っても目が笑っている。
ジュリアは椅子から立ち上がってシゲンの首に抱きついた。
「ふふっ、だから、目を離さないでね?」

いっぱいいっぱい、我が侭を言うの。
私が甘えるのは貴方にだけ。
妹の特権を振りかざして思う存分困らせてあげる。
そうしたら、私を見ていてくれるでしょう?
他の誰かに気をとられてる暇なんて、ないでしょう?

「離せるわけないだろ」

耳元で囁かれた言葉に涙が出た。
「ジュリア、どうした?」
「なんでもないの…大好きよ、シゲン兄さん」
大きな手が優しく髪を撫でる。
「…酔ってるだろ」
「うん…」
こんなに甘えん坊なのは酔っ払っているせいなんだって。
そういうことにしておいて。






最後のほうは単なるジュリアの独白っぽくなりました。あらら。
時期的にはウェルト大陸をうろついてる頃のつもりです。
まだ船には余裕があって1人1部屋確保できてるようです。
そのうち足りなくなるだろうけど(苦笑)
妹として振舞うことでシゲンを独占するつもりのようですが、兄さんには地獄かも(笑)

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