「……っ、……ぁ……」 スラムの片隅にある廃屋。 住む者がいなくなって久しいその場所に、艶めいた吐息が響いている。 降り積もった埃と黴の臭いが鼻につくけれど、身体を巡る熱と快楽にすぐに気にならなくなった。 繋がった部分が酷く熱い。その熱で身体が溶けてしまいそうだ。 「……ぁ……ンッ」 ふいに感じた、脇腹をすっと撫でていく乾いた指の感触。くすぐったさと快感が綯い交ぜになったそれにビクリと身体を震わせると、相手の雰囲気がやわらかくなったような気がした。閉じていた瞳を恐る恐る開くと、目の前には見慣れた屈強な体躯といつもよりほんの少し綻んだ顔。そして、相手も熱を感じていると分かる濡れた瞳。 「ア、ン…ジール…っ」 熱に浮かされた声で名前を呼ぶと、アンジールも応えてくれる。声は出さず、唇の動きと吐息だけで名を呼んでくれる。―― ザックス、と。 しかし、どうしてこんな事をしているのだろうとも思う。 追われる身であるはずのアンジールは、時折こうして会いに来てくれる。落ち合う場所はいつもこのスラムの片隅。最初はただ他愛もない話をしながら笑い合ったり、失敗談を語っていつものように説教を喰らったりするだけだった。 だが、いつからだったか、どちらからともなく身体を寄せ合い、唇を重ね―― 肌を合わせるようになった。以前から口づけだけは交わしていたけれど、こんな風に互いの熱を分け合うようになるなんて思っていなかった。 アンジールが何を思って触れてくるのか。 そして自分がどうしてそれを何の抵抗もなく受け入れるのか。 やはり、それを互いに言葉にすることはないけれど。 ここに在る確かな熱を感じることが出来れば、今はそれだけでいいと思う。 彼は確かにここにいるのだと、安心出来るから。 綺麗な部屋や柔らかなベット―― ましてや、甘い言葉なんていらない。 この力強い腕があれば、ただそれだけで…… ザックスの身体が慣れるのを待っていたアンジールが動き出す。ゆっくりとした、けれど力強い突き上げに最も感じる部分を刺激され、強烈な快感にザックスは再び目をきつく瞑った。 「ぁあ……っ、ん……んん……っ」 一瞬上がりそうになった甲高い声。それが恥ずかしくて声を押し殺そうと懸命に歯を食いしばった。そんなこちらの努力を無駄にするかのように触れてきた手に左頬を包まれ、ぴく、と肌が震えた。 「我慢、するな」 「…で、も…っ」 「ん?」 「…ぁ…ん…っ、は、はず…か…し、い…って……!」 止まることがない突き上げに声が弾んでしまう。それでも、アンジールが笑ったのは分かった。 「よ、よゆ…う…あり…す、ぎ…!」 ムッとして憎まれ口を叩けば、どういうわけか突然律動が止まってしまった。 思わず目を開けると、予想に反してアンジールの顔は笑んではいなかった。切羽詰ったような濡れた瞳にひた、と視線を合わされてぞくりと震える。 「そう…思うか?」 「え、ちょ、……ぁ、…あぁ…っ」 止まった時と同じように突然再開された動きに、堪えきれずに声を上げる。先程よりも激しくなっていく律動に、怖いくらいの熱を煽られた。 「ん……ぁっ……は、ぁ……ひぁ…っ」 何の前触れもなしに今まで放置されていた下肢を愛撫される。頂へと押し上げるように早くなっていく手と腰の動きに、アンジールも限界が近いのだと悟る。 感じすぎるあまりに零れた生理的な涙ににじむ視界の向こうで、アンジールの背にある羽が揺れている。視線をずらせば、彼の身体にある傷痕が目に映る。それは神羅のソルジャー・クラス1stとして戦っていた頃に付いたものもあれば、最近付いたような真新しいものもあった。 それは、彼が今でも戦い続けている証。 ふいに彼を抱き締めたい衝動に駆られ、ザックスは快感に震える腕を懸命に持ち上げた。すっと背中に抱きつけば、羽の付け根に手が当たる。そのままその部分を撫でていると、びくっとアンジールの身体が跳ねた。 「…っ、ザックス…っ」 「ん…ぁ…アン…ジ……ル…っ」 一際強く突き上げられ、ザックスの身体が弓なりに反る。それと同時に互いの熱が弾けた。 身体の内がアンジールの熱で満たされていくのを感じながら、ザックスはゆっくりと意識を手放していった。 多分、次に目が覚めたらアンジールの姿は消えているだろう。それもいつものことだ。 けれど、今は確かに彼の熱を感じている。彼がここにいる事実を、感じている。 だから、姿が消えていても寂しいとは思ったことがない。 その熱は、次もまた会えると信じる勇気もくれるから―― ベッドシーン向いてないよ、アンタ!(笑) 一回暴走でもしたらいいと思うよ!(殴) |
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