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両腕にグッと力を込めると、前田は軍刀を真横一文字に頭上へ掲げ、フッと短く息を吐き、そして半分だけ刀身を抜いた。金属棒の渾身の一撃を刃で受けようという、通常ならばきわめて無謀な試みだ。そして次の瞬間には…、

「痛たああぁあッ」

バチィン、と弾けるような音がして、昼なお目も眩むような閃光が走り…、棒は真二つに折れて遥か彼方、少年は2メートル程後ろへ吹っ飛んだ、
そして前田も体勢を崩し、右脚から膝をついた。刀を抜いた抜かないどころか、気の力を使ってしまったのだ。体力を損耗している今は、このわずかな気力の消費もいたく身体に堪える、いや、それよりも…。脚を損じていると謂えども、この前田智徳に気の力を使わせたこの少年は。

「…お前、なにもんじゃ」

肩で荒く息をし、膝をつき、…きわめて無様な格好で、前田はそう問いかけた。仰向けに倒れた少年は起き上がろうともしないまま大声を出してそれに応える。

「何でもあれへんわ!早よ斬れ!!」
「俺を襲ったワケを聞いとんじゃ。あんだけ跳べるんじゃけただもんではなかろ。おおかた、神戸軍に」
「なんで神戸やねん!ふざっけんな!」

神戸軍に雇われて、と前田が口にしかけたところで、少年は顔を歪めてガバッと起き上がった。激しい憎悪が表情からありありと見てとれる。
かつて同様に壊滅状態に陥った、しかしあくまで天災に因った広島ではついぞ見なかった眼。
戦争とはこういうものだ。…こういうものなのだ。

「違うんか」
「ちゃうわ!何が神戸や!畜生…、」


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